トランプ旋風に共和党主流派ジタバタ 米国のリーダーどう決まる?その7
大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)
「アメリカ本音通信」
3月1日に多くの州でいっせいに大統領予備選挙が行われた「スーパーチューズデイ」は、ほぼ予想通りの結果となった。共和党はドナルド・トランプ、民主党ではヒラリー・クリントンが2人とも、11州のうち7州で勝利を収めた。このペースでいけば2人とも順調にそれぞれ必要数の選挙人を勝ちとり、夏の党大会に臨むだろうとされている。だがこの先の展開は共和党と民主党でまったく違ったものになる。
民主党は概ねクリントンを大統領候補として擁立し、11月の本選挙に向けて民主党全体としてどのぐらいまとまれるか、草の根運動でより多くの有権者に投票してもらうか、そしてどうドナルド・トランプと戦うか、ということに議論が移りつつある。
対立候補のバーニー・サンダース上院議員はお膝元のバーモント州では圧勝、他3州でも過半数を得票したが、今の時点で獲得した選挙人の数はクリントンの半分にも及ばず、この先、サンダースが強い白人有権者や若者が多い州をいくつか掌中にしても、クリントンにはもう追いつかないだろう。問題はその「意外性のない結果」に動機を見いだせず、有権者が投票に行かなくなることの方だ。
一方、共和党はこれまでにない新しい有権者が投票所に殺到して嬉しい悲鳴を挙げている。いや、共和党主流派にとってはまったく嬉しくない恐怖の悲鳴だろう。正攻法でこのままトランプ以外の候補が彼に勝つ見込みはない。となると、どのような奥の手、あるいは汚い手を出せばそれが防げるのか、今共和党の面々は喧々諤々の議論中だ。もう遅いとは思うが。
これまでは、いつまでもトランプ人気が続くわけもなく、そのうちトランプ以外の候補者が次々脱落、あるいは誰かが頭一つ抜けだして「対抗馬」となった時にみなで応援すればいいと考えられていた。今もその考えにすがる共和党幹部もいるが、獲得選挙人数で2位のテッド・クルーズは保守派のゴリ押しを通すために政府をシャットダウンさせたり、平気でウソをつく「切れ者」であるため、党内からトランプ以上に嫌われている。その政策や主張も共和党主流派とは相容れないので、コイツの味方をするぐらいならトランプがまだマシ、と考える輩も少なくないのだ。
では、にわかに注目されてきたマルコ・ルビオはどうか?彼のことを操りやすそうな若造と歓迎する者より、小賢しい青二才とバカにするベテラン党員も多く、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティーズもその一人。つい3週間前まで大統領候補の一人としてトランプの悪口を言いまくっていたのに鮮やかすぎる鞍替え。こうすればルビオの悪口を言い続けられるとでも思ったのであろうか。トランプの勝利スピーチで紹介役として壇上に出てきたものの、トランプが意気揚々と勝利宣言する間、放心したような悲しげな目つきで立ち尽くすクリスティーズに同情するマスコミの人間さえいた。
そのトランプ、演説中にとうとう日本を攻撃するセリフを口にした。自分の知り合いであるデベロッパーに、これまで一途にキャタピラー製の重機を使ってきた男がいるが、とうとうKomatsuの重機に乗り換えたと告白されたという。これも日本の円安誘導政策が悪いのだ、自分が当選した暁にはこのようなズルいことはさせない、と宣言した。
アンチ・トランプの共和党が講じるべき策はあるのだろうか?ひとつには、他の候補が脱落して対抗馬を誰か一人に絞るよりも、ルビオは地元のフロリダ州、ジョン・ケーシック候補はオハイオ州、というようにそれぞれが勝てそうなところで集中してキャンペーンを張り、なるべくトランプ候補に勝たせないようにしたまま、夏の党大会で「異議申し立て」をし、投票のやり直しに持ち込む、という「コンテステッド・プライマリー」案も浮上した。だが、フェアでない作戦を実行すれば、かえってトランプ人気を煽ることになるという懸念もある。
あるいは、KKK(クー・クラックス・クラン。白人至上主義の差別団体)のリーダーだったデイビッド・デュークがトランプを推薦したことで彼に責任を追わせる、もしくは、当大会でいきなり上院議長であるポール・ライアンを大統領候補として擁立する、といった方法が叫ばれているが、前例もなければ違法である可能性もあり、まったなしの時を迎えてまだジタバタする共和党。今後はしばらくトランプが勝つかどうかより、共和党主流派がどう出てくるのかに注目が集まる。
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この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント
日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。