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.経済  投稿日:2016/3/12

トヨタとスズキ、大山鳴動して鼠一匹すら出ず その2


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

2 トヨタの大規模組織改革

その一方のトヨタですが、こちらにも大きな動きがありました。3月2日に発表された大規模組織改革・人事異動です。豊田章男社長が良くおっしゃるフレーズ、“変わらないのは悪”だと。ただそれにしてもトヨタというのは組織改革が好きなようで、過去5年間で3度の大きな改革を実施しました。第1回は2011年、トヨタ本体に連結子会社を加えて組織図を大きくした、第2回は2013年で、組織を第1トヨタ、第2トヨタ、レクサス、ユニットの4つに分けた、第3回目が今回で、7カンパニー制を導入、2つのビジネスユニットと本社機能に組織を分割した、ということになります。

トヨタは単独決算で従業員数約7万人、連結ベースで約35万人の大会社、これが大きな組織改革となれば、その対象者数は10万人を超えることにもなり、トヨタ自体のみならず、トヨタと取引する部品会社や素材会社、販社、流通・金融関係など、トヨタの内外に多大なる影響が出てきます。組織改革に伴うコストも膨大でしょう。仕事のやり方が変わる、レポーティングラインが変わる、当面は新しい組織体制に慣れる必要がある、また往々にして自分の仕事の範囲を先ずは守ろうとする、よって浸透するのに何年もかかるかもしれない。僅か2年前に大規模な改革があった訳で、これがまだ浸透しきっていないところに今回の組織改革ですから、現場は混乱するのではないか、等々、トヨタから見れば大きなお世話かもしれませんが、外から見ると、興味津々です。

今回の組織改革の趣旨は、“機能軸”から“製品軸”への転換です。部門間折衝が多く、意思決定が遅い、つまりコストがかかる、その過程を簡素化し、意思決定の迅速化を図る、“いい車を作ろうよ”と豊田社長は繰り返しますが、これを“いい車をより早く作ろうよ”ということでしょうか。今回の組織改革を見て気が付いたのは、やたらと英語とカタカナが多くなっていること。製品ごとに7つのカンパニー制に移行するのですが、その名前が、“先進技術開発カンパニー”・“Toyota Compact Car Company”・“Mid-size Vehicle Company”・“CV Company”・“Lexus International Co.”・“パワートレインカンパニー”・“コネクティッドカンパニー”となっています。日本人以外でもすぐわかるように?、いやいや、カタカナもあれば新設された先進云々のカンパニーは大半が漢字です。

Compact Car CompanyにはToyotaの文字が入っているのに、Mid-size Vehicleには入っていない、それもCarではなくVehicleとなっている。CVにもToyotaの文字が無いし、Lexusの最後は何故Co.と略されているのか、云々、素朴な疑問はつきません。Carは乗用車、Vehicleは自動車ないしは車両で、トラックもバスもVehicleではありますがCarではない。トヨタにはブランド名としては、トヨタ・ダイハツ・日野・レクサスの4通りが存在するので、トヨタのロゴ以外で販売するものがあるところには、Toyota のロゴが入らないとか? カンパニーとCompanyとCo.は同じなのか、違うのか。トヨタのことですから、そこには“深―い”理由があるに違いないとは思いますが(無いかもしれません)、謎と言えば謎です。

組織図で“未来創生センター”なるものが本社機能の中に新設、将来の技術や長期的観点から見たビジネスを創造する部署とのこと。技術畑では“先進技術開発カンパニー”も新設されました。これは未来創生センターとどう違うのかというと、こちらはより量産車に近い領域で、先進技術・先行開発・電子技術・安全技術・材料技術などを担当、富士山麓の東富士研究所もここに所属する模様。今一つ技術関係で新設されたカンパニー、“コネクティッドカンパニー”はまたどの領域を担当するのかというと、名前通り、今流行りのコネクティッドカーの分野や、ITSの延長、e-TOYOTA部などの情報電子関連のようです。ちなみにこのe-TOYOTA部は豊田社長が昔手掛けたGazoo事業が中心にありますが、イマイチこの部署がどのように社内で評価されているのか不明です。少なくともGazooの性格は、当初から大きく変化した印象ではあります。

さて、この新たな組織図にはダイハツの名前が一切見えません。間に合わなかったのでしょうか。今後、この図のどこかに、ダイハツが組み入れられるのかもしれません。だとすると、“Toyota Compact Car Company”の中でしょうか。今後、小型車開発の主導権はダイハツに移ると豊田社長は名言したのですから、入る場所はここしかありません。ちなみに、この“Toyota Compact Car Company”には、トヨタ自動車東日本が組み込まれています。東北でアクアなどの小型車を生産している会社です。東北の工場は全てこのカンパニーに入る訳で、果たして今後、ダイハツやその工場群がどのように、新しい組織図に融合されていくのか興味津々です。将来、軽自動車カンパニーなども出来るのでしょうか。

組織改革が頻繁に行われる理由は、解決すべき問題があり、これをどのように改善するのかという、トヨタORIGINALの“カイゼン”運動の一つと言っていいかもしれません。今回豊田社長も言っていますが、組織改革はSolution(解決策)ではなく、Opportunity(機会)であると。ならばこの改革を実践することによって、どんな領域で、どのようなOpportunityを狙っているのか。反対から言えば、そもそも何が問題で、それをどうしたいのか、というSimpleな問いです。これも以前このJID上で議論したことですが、トヨタの最大の悩みは、“規模が最適化水準を超え、固定費が膨張し、意思決定が遅くなっていること”です。トヨタは技術部門が非常に強い組織で“聖域”になっているとも聞きます。よって必要以上のハイスペックで高価(過ぎる)なものが出来やすいと。固定費が膨張するのとはまた違う、技術部隊の性格を異にした高コスト構造でしょうか。

組織の肥大化を是正、会社全体の意思決定の迅速化に向けて、今回、“コーポレート戦略部”が新設されました。これまでの総合企画・商品事業企画・TNGA企画を統合したものです。これによって、いい車をより早く作る体制を確立したいのだと思います。“より早く”は、“より安く”と同義語です。開発費や部門間の折衝・調整時間を短縮化する効果を期待しているのでしょう。と、同時に、聖域であるエンジニアの世界に今回手をつけました。機能軸から製品軸への転換です。ボディー設計部の中に、シャシー技術部の中に、デザイン本部の中に、それぞれ小型車担当と中型車担当がいるのではなく、まさにその反対で、“Compact Car Company”の中にも、“Mid-size Vehicle Company”の中にも、“CV Company”の中にも、シャシー技術部と、デザイン本部と、ボディー設計部が車種別に分かれて入る形です。

カンパニーの中にそれぞれの役割が入る訳で、却ってオーバーラップが増えるのではないか、との懸念も浮上します。手探りでのTry & errorなのかもしれません。

組織改革の前と後で、中間管理職の数が(部長、次長、課長、係長、主査他)、どの程度増えたのか、減ったのか、その数値が知りたいですね。遥かかなたの昔、やはり日経新聞に、“トヨタ、課長職を廃止”なる記事が出たことがあります。隔世の感があります。

まさに“高価”な組織が、この組織改革で、いつ頃、どのような“効果”を生んでくれるのか、この改革が“幸か”、“不幸か”、どういう結果を生み出すのか、壮大な実験なのかもしれません。

(この記事は トヨタとスズキ、泰山鳴動して鼠一匹すら出ず その1 の続きです。全2回)

 

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出所:トヨタ自動車


この記事を書いた人
遠藤功治株式会社SBI証券  投資調査部 専任部長兼シニアリサーチフェロー

1984年に野村證券入社、以来、SGウォーバーグ、リーマンブラザーズ、シュローダー、クレディスイスと、欧米系の外資系投資銀行にて活躍、証券アナリスト歴は通算32年に上る。うち、約27年間が、自動車・自動車部品業界、3年間が電機・電子部品業界の業界・企業分析に携わる。 その間、日経アナリストランキングやInstitutional Investors ランキングでは、常に上位に位置2000年日経アナリストランキング自動車部門第1位)。その豊富な業界知識と語学力を生かし、金融業界のみならず、テレビや新聞・雑誌を中心に、数々のマスコミ・報道番組にも登場、主に自動車業界の現状分析につき、解説を披露している。また、“トップアナリストの業界分析”(日本経済新聞社、共著)など、出版本も多数。日系の主要な自動車会社・部品会社に招かれてのセミナーや勉強会等、講義の機会も多数に上る。最近では、日本経団連や外国特派員協会での講演(東京他)、国連・ILOでの講演(ジュネーブ)や、ダボス夏季会議での基調講演などがあり、海外の自動車・自動車部品メーカー、また、大学・研究機関・国連関係の知己も多い。2016年7月より、株式会社SBI証券に移籍、引き続き自動車・自動車部品関係を担当すると供に、新素材、自動運転(ADAS)、人口知能(AI)、ロボット分野のリサーチにも注力している。

東京出身、58歳

遠藤功治

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