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.国際  投稿日:2016/3/14

米大統領選の結果は経済で決まる その1 オバマ失政がもたらしたトランプ旋風


 岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」 

共和党大統領候補の実業家、ドナルド・トランプ氏は相変わらず大暴れだ。大票田の州を制し、共和党内の分裂や対抗候補の弱さもあり、「党指名争いは、トランプ氏で決着か」と報じられる勢いだ。バラク・オバマ米大統領はこうした状況を評して、「共和党の混乱は、もはやサーカス状態だ」と妥当な分析をした。だが同時にオバマ氏は、「トランプ氏の台頭は、自分のせいではない」と主張した。

これは、極めて怪しい言い分だ。オバマ政権2期8年の間に、オバマ大統領と民主党が善政を行ってきたなら、トランプ氏が台頭できる隙はなかったからである。ポピュリスト台頭の裏には、必ず経済失政や富む者による搾取がある。

現在、米国で話題になっているのは、元カリフォルニア州民主党トップのビル・プレス氏が著し、2月に発売された『有権者の後悔~オバマと民主党はいかに進歩派の期待を裏切ったか』や、著名ジャーナリストのトーマス・フランク氏が3月に上梓した『リベラル派よ、聞け~人々の党に何が起こったのか』など、リベラル派内部の著者が、オバマ政権や民主党の失政を憂うる本である。

トランプ候補が勝ち取った民衆の支持の源泉についての、リベラル派と保守派の一致した見方は、「米経済の不振や経済格差の拡大、そして決められない政治に対する米国民の不満のあらわれ」だ。トランプ氏の人気は、オバマ政権と民主党が2008年の金融危機後に大企業や富裕層を優遇し続け、格差拡大を積極的に助けた、その結果なのだ。

オバマ大統領は、「経済を立て直した」と自画自賛し、リベラル派エコノミストの旗手、ポール・クルーグマン・ニューヨーク市立大学教授などは、「民主党大統領期の経済パフォーマンスが、共和党大統領のものより優れている」という。

だが、何のことはない、立ち直ったのは銀行や裕福層であり、オバマ政権下で経済格差は拡大する一方だ。大衆の関心事は国内総生産(GDP)の伸びや株価のパフォーマンスなどではなく、自分たちの生活が目に見えてよくなるか否かだ。

その証拠に、2008年と2012年にオバマ当選を助けた無党派中流層の多くが、今回は民主党のヒラリー・クリントン大統領候補ではなく、共和党のトランプ候補へ馬を乗り換えた。また当時、オバマ氏を支持したリベラル派若年層の票の多くは、財界と仲の良いヒラリー候補ではなく、民主社会主義を標榜するバーニー・サンダース候補へと流れている。国民にとっては、経済がすべてである。

3月に行われたギャラップ調査など、ほぼすべての米世論調査で、有権者は経済が最大の関心事だと答えている。回答者の多くは、「中流層が崩壊していく」「自由貿易が米国人の職を奪っている」「子供たちの生活は、自分たちのものより悪くなっていく」と懸念している。

米経済は年率2%以上のペースで成長しており、失業率は4.9%にまで低下したにもかかわらず、80%以上の有権者が、「米経済が心配だ」という状況は、政権党である民主党への失望の明確な表れだ。エリートエコノミストの「米経済は底堅く、力強い」という保証にもかかわらず、「アメリカ経済号」という旅客機に乗る乗客たちには、エンジンが停止しそうなエンスト音が聞こえ、不安を掻き立てられている。

市場の不安心理も増大中だ。「下げ幅が20%にも達する乱高下によって恐怖心理が増幅され、景気後退が自己実現預言となる可能性がある」と指摘するのは、『国家は破綻する』の共同著者として知られる、ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授だ。

ここにひとつ、興味深い分析がある。米金融アナリストのチャーリー・ビレロ氏によると、1960年以来、経済と大統領選に一貫して見られる相関パターンがある。選挙時の政権党の下で経済成長が続いている場合、政権与党の候補者が勝ち、不景気の場合は、野党が勝つのである。では、2016年はどうなるだろうか。

米大統領選の結果は経済で決まる その2 鍵を握るFRB利上げ に続く。3月15日午後11時掲載予定。全2回)

 


この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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