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.国際  投稿日:2016/3/31

Animeと韓流の差はどこにあったか 漫画アニメ立国論 その5


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

スペインに語学留学した際、マドリードのアパートで、毎週土曜日の午前中はTVアニメ(以下anime。第一回参照)を見て過ごすことが多かった。一番のお気に入りは、Shin-Chan。『クレヨンしんちゃん』(臼井儀人・著 双葉社)のアニメ版で、スペイン語圏でもかなりの人気を博していたようだ。

日本では、さすがに見ていなかったが、語学初心者にとってanimeは心強い味方である。とりわけShin-chanは、日本の子供たちが主人公で、会話の内容自体が分かりやすい。しかも絵があるから、どういう状況でなにを話しているのか、すぐ把握できる。これが、語学の上達に実に有益なのだ。

たとえば、スペイン語学校の初級クラスでは、謝罪の表現としてPerdón(ペルドン)を教わった。字義通りには「許し」「寛容」といった意味で、要するに、ここは大目に見てください、といった表現であることは、後で辞書などを調べて知った。さらに後で知ったことだが、ちょっとすみません、くらいの感じで、普通に話しかける時にも使うのである。

ところがShin-chanを見ていると、父親(野原ひろし)が、息子(しんのすけ)のやることがあまりにひどいものだから、涙目になってLo siento mucho(ロ ・シェント・ムーチョ)と繰り返すシーンがよく出てくる。笑いながら、ああ、本当に深刻な謝罪の時はこう言うのか、と頭に入るわけだ。

逆に、ヨーロッパ諸国の子供たちが、animeを見て日本語や日本文化に興味を持つ例が増えている、その理由もよく分かる。

主人公は、年中悪さをして母親(野原みさえ)にしばかれるわけだが、そのシーンでは決まって「げんこつ」という文字と共に、命中する拳が大写しになる。読めなくとも、意味するところは分かるであろうが、

(あれは、なんと読むのだろう?)

と考えて、日本語に興味を持ってくれる子供が大勢いると思うと、大いに心強い。日本の子供は、みんなあんな風にお尻を出して踊るのが好きなのか、と思われては大いに困るが。

日本語版とスペイン語版とで、台詞の改編などはほとんどなかったようだが、固有名詞などは何点か変えられていた。

愛読者はご存じであろうが、主人公の野原家で飼われている犬の名は「シロ」である。しかしスペイン語版ではNevadoになっていた。積雪の意味である。これもこれで、スペイン語圏ではおそらく、白い犬だからと言ってBlanco(ブランコ。白)と名付ける発想がないのだろうな、と想像されるわけだ。

他にも、原作では「風間君」と呼ばれている友達が、トオルになっていた。これは多くを語るまでもなく、英語圏でもスペイン語圏でも、名字に敬称を付けて呼ぶのは、さほど親しくない関係の場合だからである。つまり、子供の世界に国境はない、とまでは言えないが、大人社会に比べて,色々な意味でハードルが低いことは確かだろう。

日本の子供が大笑いするようなアニメは、英語圏やスペイン語圏の子供たちが見ても、やはり面白いのである。

『アルプスの少女ハイジ』や『フランダースの犬』にしても、もともと海外での公開など考えていなかったことが、むしろプラスに作用したかも知れない。

なぜ私がそう考えるかと言うと、友人の韓国人ジャーナリストから、いわゆる韓流ドラマについての、批判的な見解を聞かされたことがあるからだ。2007年頃の話だが、当時「ヨン様」ことペ・ヨンジュンなど、日本で人気を博した俳優を起用すれば、すぐ日本に売れて外貨が稼げる、という認識が、韓国の芸能界で広まっていた。

その結果、韓国の伝統的な風習などを無視して、とにかく日本で喜ばれそうなキャラ設定や台詞回しを考えるようになり、かの国の文化人たちは、苦言を呈していたらしい。友人の言葉を借りれば、

「日本車を欧米に輸出する時に、わざわざ左ハンドルにする、というのとは、持つ意味が違うと思うんですよ。一方で日本の歴史観がどうだとか言いながら、他方では自国の歴史を歪曲してでもドラマを日本に売ろうなんて、こんなバカな話はない」

ということになる。

本当にその通りだとすれば、日本における韓流ブームは遠からず下火となり、manga、animeの人気は今後も続くに違いない、と思った。現実にそうなりつつあるのではないか。

売らんかな、の精神で作り手の魂まで売り渡したら、決してろくな結果を招かないのである。


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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