[藤田正美]ユーロ圏の根っこにある矛盾と問題〜ユーロ通貨が統一されているのに、各国の経済格差を調整する手段がない
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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大発会で6年ぶりの「下げ」で始まった東京証券取引所。それから持ち直したものの、連休明けの14日も大幅に下げた。まるでジェットコースターだ。もちろん株価で一喜一憂することはないだろうが、今年はそれこそアベノミクスが試されるとき。3月までには工程表をつくり、6月にはより詰めた成長戦略を発表することで、内外の投資家を納得させられるかどうかにかかっている。
しかし、事はそう簡単ではない。先週も書いたように中国は地方政府の債務という爆弾を抱えているし、ヨーロッパはゾンビ銀行の処理という課題を背負っている。ヨーロッパにゾンビ銀行が生まれた原因は、一つは住宅バブルのツケ、そしてリーマンショック、さらには2010年からのソブリンリスク(政府の資金繰りがつかなくなったこと)である。こうした危機に対して、ECB(欧州中央銀行)を中心に手を打ってきたし、それが功を奏してある程度、危機が抑え込まれてきたのも事実である。
ユーロ圏の根本問題は根が深い。最も大きな矛盾は、通貨が統一されているのに、各国の経済のアンバランスを調整する手段がないということだ。日本で言えば、東京都とたとえば高知県では大きな経済格差がある。この経済格差を国の財政で調整している。地方交付税交付金だ。それによって地方自治体は住民にあまり格差のないサービスをすることが可能になる。
ユーロ圏の場合はそういう仕組みはない。本来、経済格差があれば、通貨が安くなることで調整が可能になる。たとえばギリシャは通過ドラクマを切り下げれば、観光客が増えて収入が増える。しかし統一通貨になっているために、この調整機能は使えない。そうであれば欧州版の地方交付税交付金が必要ということだ。富の移転システムである。もちろんそういうアイディアはあるが、豊かな国はこのアイディアをなかなか受け入れない。それはそうだ。自分たちの富をなぜ他国に与えなくてはならないのか。
豊かな国、たとえばドイツは、ユーロの「固定相場」の恩恵をいちばん受けている国だ。競争力が高くても通貨を切り上げられないために、域内貿易では言わば「一人勝ち」になる。固定相場で損をしている国に対して、儲けている国は富を移転する義務があるようにも見えるが、該当する国は絶対にそれを認めない。この根本問題をどうするのか。
とりあえず今年から域内の銀行をECBが一元管理することになった。そしてECBは銀行の検査に乗り出す。ここでゾンビ銀行が洗い出されることになる。ただその処理は難しい。ここでも各国のエゴが出てくるだろう。たとえばスペインの銀行の自己資本が不足しているとして、そこに資本注入するのは誰なのか。国がやればいいかもしれないが、スペイン政府にそんなカネはないし、資金調達することも無理かもしれない。かといって、その銀行が他行に吸収されたり、あるいは潰れたりすることには抵抗があるだろう。
経済がうまく行っているときには目立たなかったユーロ圏の矛盾をどう解決していくのか。今年は一つの正念場である。
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