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スポーツ  投稿日:2016/5/15

アドバイスは「誰から貰ったか」が大事


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役) 

昔スポーツの雑誌でこんな漫画を読んだことがあります。一枚のイラストに書かれているのはアスリートとその選手を取り巻く各専門家です。選手の調子が良くなく専門家にアドバイスを求めています。

メンタルトレーナーはこう言いました。”もっとポジティブに捉えよう。不調は心が原因だ”

ストレングストレーナーはこう言いました。”体幹が効いていない。体幹を鍛えよう”

技術コーチはこう言いました。”ハードリングにキレがない。技術練習を増やそう”

そしてコーチがこう言いました”気合が足りない。根性出せ”

笑い話のようですが、実際にこれと近いことがスポーツの現場では起きます。専門家はどうしても(もちろんそれでいいのですが)自分の領域の問題であると捉えたがります。私は現役時代心について考えることが多かったので、心理学に興味があります。こういう人間はどうしても選手の問題をみると心の問題に見えてしまいます。

どんなアドバイスをもらうかということよりも、実は誰からもらったアドバイスかということをよく考える必要があります。人は自分の経験から逃れられません。その人の経験によるバイアスを加味してアドバイスを噛み砕く必要があります。

アスリートの不祥事を私はセカンドキャリアに結びつけて語りたがります。本当のところは、どの業界にもいるやんちゃな若者が起こした問題にすぎないのかもしれません。何にでも意味づけをするのはコメンテーターの癖でもあります。

 


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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