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スポーツ  投稿日:2016/5/16

キャバクラと寄付にある相関


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

自分のお金では行けないけれど、何回か銀座のクラブというものに行ったことがある。そっと会計の時に覗き込むと数十万とかそういう数字が書いてあって、すごい世界もあるもんだなと思った。

急に話は小さくなるが、私でもおごれる場所がある。アスリートの若者との飲み会ではよくおごる。体育会の世界では、飲み会文化が洗練されていて、後輩ともなると先輩に心地よく奢らせるという技術を肌で体得する。先輩も元は後輩だから、ある程度の後輩の下心もわかっていて、それでもちゃんと作法をわきまえている後輩たちに囲まれながら心地よくされてうまく支払っていく。

私はアメリカで過ごしたことがあり、チャリティーディナーというのにも行ったことがあるし、大学施設で練習していたから、寄付者の名前がついた施設をたくさん見たことがある。本当にどう思っているかどうかは別として、寄付をしてくれる人が心地よくなる術が磨かれていて(もちろん宗教上の理由と、税制上の理由が大きいのだろうけれど)、それをうまく使ってファンドレイズをする仕組みが出来上がっているように見えた。

クラブでもキャバクラでも、そして体育会の後輩たちとの飲み会でも、心地よくお金を使いたくなる空気と仕組みができている。払った方も満足、払われた方も満足。フィクションかもしれないが、それで成り立っている。

最近寄付をしたことで批判されたりということがあるけれど、それによってもっとも損をするのは寄付行為で支えられる人たちで、なんとももったいないなと感じる。寄付してくれるっていうなら本心はどうあれ、とりあえず合理的な対応、つまり感謝の姿勢でいたらいいと思う。それによって寄付をした人も少なくとも文句は言われずハッピーだし、困っている人のところにも寄付が回るし、みんなハッピーじゃないか。

あからさまな寄付をした人へのもやっとした感情はわからなくもないが、感情なんてこの際どうでもよくて、上手に大人の振る舞いをしたらもっとお金が回って社会がよくなるのになというのは、六本木のキャバクラで感じたことだ。

為末大HPより)


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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