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.国際  投稿日:2016/6/21

最後は残留派が勝つ 英国はEUから離脱するか その4


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

前にも述べたことがあるが、英国の法律では、人の生き死に以外は基本的になにを賭けの対象にしてもよいことになっている。

本シリーズで取り上げている英国のEU離脱を問う国民投票の問題だが、実は世論調査などより、こうした賭けを取り扱うブックメーカーのオッズの方が参考になることが多い。話の順序として、まずは選挙を対象とした世論調査が、あまり当てにならない、ということを、日本の読者には知らせておく必要があるだろう。

理由は単一ではないのだが、英国人というのは、よく言えば個人主義が浸透しているが、悪く言えばひねくれ者が多いので、「みんなと同じ事は言いたくない」といった意識がある。したがって、世論調査に対する答えと、実際の投票行動が一致しないことが珍しくない。

選挙を戦う側も、このことは熟知しているわけで、次善の世論調査で不利になった方がむしろ喜ぶ、といった傾向さえ見られる。内心は勝てると思っているのに、「今度は危ない、負けそうだ」という危機感を煽って、現場を引き締める効果もあるので、一石二鳥というわけだ。

この点ブックメーカーのオッズは、可能な限りの情報収集に基づいて決められるので、むしろ信頼性が高いというわけだ。今、次の問題、すなわち23日に投開票が行われる、英国がEUから離脱すべきか否かを問う国民投票について言えば、世論調査では当初から離脱派と残留派が拮抗していたが、大手ブックメーカーであるWilliam Hillのオッズは、残留派が圧倒的優勢であった。

だから、というわけではないが、私もこの選挙は、スコットランド独立をめぐる住民投票と同様、「僅差になる可能性は高いが、最終的には残留派が勝つだろう」と予測し、公言していた。

ところが、6月に入ってから、どうも雲行きが怪しくなってきた。前述のオッズが、2対1にまで接近したのである。私は競馬をやらないのでウンチクは披露できないが、配当金が2倍というのは、本命かそれに近い人気なのではあるまいか。

こういうことになった理由は、これまた単一ではないが、英国最大の発行部数(約260万部)を持つThe Sunというタブロイド紙が、離脱派への投票を呼びかけたことがやはり大きい。かつて、部数400万部(英語圏では最大級である)を誇った頃ほどではないが、今もってかの国の労働者階級に与える影響力は侮りがたい。日本の読者のためにもうひとつ解説を加えておくと、日本の大新聞は、宅配制度のおかげで諸外国のそれよりも発行部数が一桁多いのである。

端的に、諸外国の情報に日常的に接しており、マクロな視点から経済の動向などを考えることができる中産階級の人たちは、大半が残留派だが、「EUのせいで,東欧・南欧からの移民が流れ込み、自分たちの職が奪われている」と感じる労働者階級の人たちは、離脱派の主張を容易に受け容れるのだ。

ではなぜ、私が「最終的に勝つのは残留派」と予測したのかと言うと、過去に英国で、複数回の総選挙を含め、 かの国の政治的動向については、それなりの取材の経験を積んできているので、やはり中産階級の動向が最大の影響力を持つ、と考えているからだ。

身も蓋もなく言ってしまえば、一人一票の選挙権は保証されているけれども、やはりカネを握っている方が選挙では強いのである。なにより、離脱派の人たちは、英国民が納めた税金が南欧の浪費国家(ギリシャやスペイン)のために使われているとか、前述の移民の問題など、EUに留まることのデメリットは言えても、「離脱して、どのようなメリットがあるのか」という問いに対しては、明確な議論を示せていない。

要するに、どこかの国の野党みたいなもので、今の政治はダメだ、と声高に言い張るばかりで、その主張に一定の説得力があるとしても、ではどうすればよいのか、と問われて明確な答えを示せないようでは、選挙で最終的に勝つことはできないだろう。

ちなみに前述のWilliam Hillが残留派につけたオッズは、1.5倍である。

(その1その2その3も合わせてお読み下さい。)


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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