中国・新海警船対抗で海保巡視船武装強化を
*中国『新浪図片』で紹介される新型海警船46301。5桁である点、地方所属(46:海南省)であることが示唆されている。なお、主力船は4桁であり、最初の1000番代が北海(華北)、2000番代が東海(華東)、3000番代が南海(華南)所属とされる。
文谷数重(軍事専門誌ライター)
中国海警は新型の海警船46301を建造している。これは今月2日IHSジェーンが中国のインターネット情報を元として報道したものだ。大元となる中国ネットの写真からすれば既に進水は終わり、岸壁で艤装工事を行っている段階にある。
これは海軍の054A型フリゲートの船体を流用したものだ。中国海軍の最新主力フリゲートであり、今月頭、尖閣の接続領域を通過した054型のマイナーチェンジ版である。
新海警船の出現により、周辺国はどのように振る舞うだろうか?日本では「軍艦を警備に投入した」といった対中批判が吹き上がるだろう。だが、それは批判となるものではない。海上警備用の政府公船はもともとそういったものである。
■ 新海警船はフリゲートそのもの
新海警船は軍艦そのものである。船体・上部構造はオリジナルのままであり、ステルスを意識した形状となっている。煙突もそのままであり、エンジンも同じだろう。
武装もそれなりに強力なものとなる。ジェーンによればオリジナルでは前甲板に配置された垂直発射用ランチャー(VLS)は装備されないとしている。だが、砲はそれなりに強力な76ミリ砲が残置される。そして空いたVLS相当部には、潜水艦を攻撃する対潜武器の搭載、あるいは搭載準備がされるだろうとしている。東側式の対潜ロケットか、あるいはその準備工事が行われるといったものだろう。
もちろん、艦載ヘリ運用能力も付与される。ヘリは現代軍艦にとっての主力兵器であり、大砲やミサイルよりも重要なものだ。新海警船は陸上から飛んできたヘリを離発着させるだけではなく、収納整備する格納庫も用意されている。原型となった054・054A型が遠くインド洋海賊対処に投入されている。そのことからすれば整備能力も強力であり、おそらくはエンジン交換できる程度の能力も持つだろう。
対艦ミサイルや電子戦装備の搭載にも対応している。平時に搭載するかは分からないが、戦時運用は間違いもない。対艦ミサイルはどこにも後付け可能である。電子戦装備も搭載用意である。逆探や妨害装置ジャマー用の場所は最初から用意されている。電波・電子光学的煙幕となるチャフ・フレアについても、発射機はどこにでも置ける。
実際、戦時には軍艦として使われるだろう。新海警船は対空ミサイルを持たない点、原型の054A型には及ばないものの054型には準じた戦力である。小型の056型や旧式の053型よりも強力な軍艦となることは間違いはない。
■ 日本では対中批判の材料となる
この新海警船が就役した場合、周辺国はどのような反応をするだろうか?
日本では中国の脅威といった文脈で取り扱われ、反発するだろう。
これには前例がある。昨年末、中国が旧式化した053型を海警船に転用し、係争中の尖閣付近に展開させた。そのとき日本はそのように反応した。
政府を含め日本では元軍艦を強調して発表され、結果「元軍艦を武装を施したまま投入した」といった批判が国内に氾濫した。日本は海保巡視船も装備している機関砲程度に文句をつけたのである。
最新艦同然の新海警船が出現すれば、日本はそれ以上に反発するだろう。今の政府は対中脅威論抑制にあまり努力しない。またマスコミも接続水域への「侵入」や領海「侵犯」といった不正確かつ感情的な用語を使っている。そこで「投入された新海警船は軍艦」と報道されれれば、国民は言われた通りに憤るだろう。
■ 武装としては常識の範囲内
だが、それは正しい反応ではない。新海警船は政府公船の範囲を逸脱していないためだ。その点で日本の反発は非常識なものとなる。
そもそも、政府公船は非武装・軽武装であることは要件ではなく、それなりの武装が可能である。日本の巡視船、中国の海警船、米国のカッターといった政府公船は、法的には軍隊に属さない行政組織の船舶といった意味合いにすぎない。、
極端な話、軍艦そのものでも構わない。所属を海軍から切り離し、慣習として船体に斜めのストライプを入れれば政府公船として扱われる。
実際、米沿岸警備隊のカッターは昔も今も戦闘艦そのものである。かつては駆逐艦をそのまま転用していた。そして60年代に登場した専従船も戦闘用である。計画段階で船団護衛や沿岸封鎖への使用が考慮されている。そしてベトナム戦争では沿岸で艦砲射撃を行い、冷戦時代には対艦ミサイルや対潜魚雷、敵ミサイルを撃ち落とすCIWS(シウス、もしくはシーウス:Close In Weapon System:近接防御火器システム)も実搭載して行動していた。
他国も大差はない。それなりの武装をした公船は珍しくはない。そもそも、公船のうちでOPV(外洋哨戒船)と呼ばれるタイプは、もともとコルベットやフリゲートと線引できないものだ。その種類は発注元の都合で決まる。ある国ではOPV(Offshore Patrol Vessels:外洋哨戒艦)と呼ばれ、あるいはフリゲートとされる。そして武装もまちまちである。オプション次第では同じ船型のOPVがコルベットよりも重武装となることもあり得るのだ。
そして、軍艦への転用や軍艦からの転用も当たり前である。いずれの国も沿岸警備隊やその公船は、戦時は海軍指揮下に編入され、軍艦としての運用を考慮している。日本の海保も法的には多少の制約がかかるが戦時には防衛省の指揮下に入る。また老朽軍艦を公船に転用することも各国で行われている。
つまり、いずれ出現する新海警船を批判するのは誤りだということだ。もちろんオリジナルの054A型のとおり、強力な対空ミサイルをそのまま搭載すれば「何に使うのか?」といぶかしがられるだろう。だがそれを積まなければ武装も常識の範囲に留まる。軍艦と同じ船体、機関搭載も問題となるものではない。
■ 嫌なら巡視船の武装強化をすればよい
その上でなお新海警船を脅威視するのであれば、海保巡視船の武装強化でもして対抗すればよい。中国との海軍力比を改善できる分、そちらのほうが日本国内で日本人同士が口先での対中批判をするよりも実効的である。
新海警船が搭載する76ミリ砲は巡視船にも搭載できる。海保の機関砲システムは76ミリ砲と重さは大差ない。そして76ミリ砲と砲塔は海自でも余っている。実際のところ、大砲は警備にも使いにくいが、どうせ飾りと割り切ればよい。実用には軽量の海外製のリモコン機銃を左右両舷につけておけば足りる。
別に小型の対空ミサイルや魚雷を積んでもよい。フランスのように肩がけ式のミサイルを据置にするならどこでも搭載できる。また。対潜水艦用の魚雷発射管なら甲板上のどこにもつく。ちなみに短魚雷発射管は1セット60万円であり、左右につけても120万円である。
実用を考えれば、海自艦載ヘリの運用能力追加をすべきだろう。そうすれば巡視船がほぼ護衛艦同様に使える。繰り返すが、今の軍艦にとっての最大の兵器は艦載ヘリである。そして、海自艦載ヘリSH-60Kは母艦に頼らず行動できる。旧型とは異なり、単独で各種の警戒・捜索・戦闘できるように作ってある。つまり海自ヘリを積めば、巡視船は護衛艦同等の戦力となるのである。
大型巡視船には格納庫はある。追加工事はさほどのものとはならない。甲板に着艦拘束・移動装置を取り付け、倉庫や弾庫にヘリ用の部品や弾薬を搭載すればよい。その上で金があればデータリンク装置を追加すればなおよい。そうすれば巡視船は中国軍艦/海警船よりも強力になる。中国海軍はまだ本格艦載ヘリを持たず、簡易型であり能力は限られる上、数も足りていないためだ。
*トップ画像:「戦艦版海警船!我新造海警船外形似054A護衛艦」『新浪図片
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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター
1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。