W杯組・転向組、多彩なメンバー リオ五輪男女7人制ラグビー日本代表候補決定
神津伸子(ジャーナリスト・元産経新聞記者)
“13人” の意味
日本ラグビー協会は、リオデジャネイロ五輪の7人制(セブンズ)の男女日本代表候補を発表した。男子は、昨年のW杯代表の山田章仁、藤田慶和、福岡堅樹(パナソニック)、主将の桑水流裕策(コカ・コーラ)ら、14人。女子は主将の中村知春(アルカス熊谷)、ママさん選手の兼松由香(名古屋レディース)、プロ選手の山口真理恵(ラガール7)ら13人と、男女とも多彩な顔ぶれが揃った。
セブンズは今大会から初めて五輪正式種目となり、代表メンバ―決めが大きな注目を集めていた。
スター揃いの男子
瀬川智広ヘッドコーチが、「チームの目標はメダル」と抱負を語る男子チームは、山田ら豪華メンバー。
「日本チームは選手とボールが止まることなく、とにかく動き続ける。俊敏にスペースを攻めたい。そのためのベストのメンバーを揃えた」
スーパーラグビーのサンウルブズから離れて7人制代表候補合宿に加わった山田は、現在故障しているが候補メンバー入り。「コンディションに問題はない。"トライの嗅覚"を持っている」(瀬川)と評価された。山田は「トライを取ることにこだわりたい。全ての人に感謝したい」と。
常に15人制とセブンズで頑張る藤田は「ここがゴールではなく、やっとスタートラインに立てたという気持ち」。福岡は「W杯では、(なかなか出場がかなわず)煮え切らない思いもあった。五輪では全力を尽くす」と、完全燃焼を誓う。福岡と同じ50メートル5秒8のスピードが持ち味の人気イケメンウィング、松井千士(同志社大学4年)は「スピードは誰にも負けない」と、目を輝かす。
異彩を放つのが、佐賀の道路工事の現場で働きながら、練習は福岡まで通う苦労人、副島亀里ララボウ ラティアナラ(玄海タンガロア、フィジー出身)。副島は「家族や様々なことを犠牲にしてラグビーに専念して来た。感謝している」と、英語でスピーチ。生まれたばかりの三男を“里桜(リオ)”と命名。日本国籍も取得し、五輪と桜ジャージーへの思いは、一段と熱い。
“13人”の女子候補選手
男女とも、ヘッドコーチが1名ずつ選手の名前を読み上げて、呼び入れをした記者会見。女子の14番目の候補選手が、読み上げられることはなかった。
「直前のオーストラリア遠征で14番目の選手が怪我をしてしまい、女子はこの13人です」と、浅見敬子ヘッドコーチの表情は、一瞬曇った。
挨拶をする選手たちから「共に戦ってきたのに、一緒に行けなくなってしまった仲間の分も、頑張ってくる」という言葉が、何度も聞かれた。
会見席上誰も彼女の名前を明言する者はなかったのだが。
主将経験者で、山口の同期でもあるチームの支柱の一人、鈴木彩香(アルカス熊谷)の姿はそこにはなく、バックアップに名前を連ねていた。昨年、左ひざの前十字靱帯損傷でリハビリを続けていて、アジア代表予選には復帰した。が、最後も怪我に泣いた。本人だけではない。チームも、ファンも涙することに。
鈴木は小2からラグビーを始め、17歳で日本代表入り。国際舞台を数々踏みながら、仲間と五輪を目指してきた。的確な状況判断力はチーム随一。ラグビーのことを記してきたラグビーノートは、10冊以上にものぼる。「自分がんばれ!」などの励ましも、書き込まれている。
今は、どのような文字が刻まれているのだろう。
ママさん選手から転向組まで
13人は「日本の女子ラグビーを育ててくれた人たちへの感謝の気持ちを込めて戦う」と、中村主将を中心に結束を誓う。サクラセブンズと呼ばれるメンバーは、個性派揃いだ。
「日本のお母さんは強いのだ!と世界に示したい」と話す兼松は、8歳の娘に金メダルを約束する。テレビ局勤務の冨田真紀子(世田谷レディース)は「世界一のタックラーになる」。唯一のプロ選手、エース山口は50m6.6秒の俊足。必勝ネイルに気を遣うことも忘れない。
他のスポーツからの転向組が多いのも、セブンズの特徴。「何としても五輪でメダルを取りたい」と言う、強い気持ちが集結している。バレーボール出身の竹内亜弥(アルカス熊谷)、円盤投げからの桑井亜乃(同)、バスケットボール出身の中村、中丸彩衣(同)など。
浅見敬子ヘッドコーチは、「サクラセブンズの強化を始めたのは2011年。6月いっぱいで活動日は1060日になり、223試合を経験し」アジア5位だったチームを、ここまで引き上げた。
今は、「金メダルを目指して戦うのみ」。
全員が声を揃え、前だけを見据えている。
対戦相手
五輪に登録出来る選手は最終的に12人。今月16日までにさらに絞り込まれる。怪我人が出た場合は、試合前日まで登録変更が可能。今回発表された選手は登録から漏れても、リオには入る。
リオ五輪は男女各12チームが出場。1次リーグは4チームずつ3組に分かれ、各組上位2チームと3位2チームが準々決勝に進む。組み合わせは先月末に発表された。男子はニュージーランド、イギリス、ケニアと同じ組、女子はカナダと英国、開催国ブラジルと対戦する。
トップ画像:男女メンバー合同の華やかな記者会見になり、多くの報道陣が駆けつけた。
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この記事を書いた人
神津伸子ジャーナリスト・元産経新聞記者
1983年慶應義塾大学文学部卒業。同年4月シャープ株式会社入社東京広報室勤務。1987年2月産経新聞社入社。多摩支局、社会部、文化部取材記者として活動。警視庁方面担当、遊軍、気象庁記者クラブ、演劇記者会などに所属。1994年にカナダ・トロントに移り住む。フリーランスとして独立。朝日新聞出版「AERA」にて「女子アイスホッケー・スマイルJAPAN」「CAP女子増殖中」「アイスホッケー日本女子ソチ五輪代表床亜矢可選手インタビュー」「SAYONARA国立競技場}」など取材・執筆