子宮頸がんなど HPV により起きるがんは多くが予防可能
久住英二(医療法人社団鉄医会理事長)
米国CDCが発行するMMWR= Morbidity and Mortality Weekly Report(注1)は、米国でのインフルエンザなど感染症や、がんなど疫病の統計データが掲載されています。私の周りの内科医では、定期的に目を通している人が多いです。
July 8号にて、Human Papillomavirus–Associated Cancers - United States, 2008–2012という記事が掲載されています。2008~2012年の間にアメリカ合衆国で発生した HPV との関係が濃厚ながんの発生数と、そのうちどの程度が HPVワクチンを接種していれば予防されたか、推定値が報告されています。
子宮頸がん Cervical carcinoma は 30-40代女性で最多です。腟 Vaginal SCC や外陰がん Vulvar SCC が年齢につれ増加するのと対照的です。やはりマザーキラーの異名は根拠のないことではないようです。
①Summary = この報告の要点
このトピックについて今まで知られていること
HPV の持続感染が子宮頸がんや、外陰・腟・陰茎・肛門・直腸と咽頭の扁平上皮がんを起こす。それらのがんの多くは、HPV ワクチンによって予防可能である。効果的な子宮頸部スクリーニングにより、前がん病変を発見することができる。
②このレポートによって加わった知見
2008-2012年の間に、平均すると年間 38,793人(10万人あたり 11.7人)が HPV 関連がんと診断された。うち 23,000人(13.5人/10万人)が女性で、15,793人(9.7人/10万人)が男性だった。それらのがんのうち、30,700人(79%)が HPV によるものと推定され、うち 28,500人は、9価 HPV ワクチンで予防可能な HPV 血清型が原因と推定される。
③公衆衛生を向上させるには何をすれば良いか
全員にワクチン接種を提供することが、これらの HPV 関連がんを予防することに繋がる。HPV ワクチン接種率の増加や、子宮頸がん検診方法の変更がこれらのがんの発生動向に与える影響をモニターするため、より高品質の住民レジストリを用いて、HPV 関連がんのサーベイランスを続けることが必要である。
がんのうち、HPV 16, 18, 31, 33, 45, 52, 58 = 9価 HPV ワクチンで予防される HPV 関連がんの人数と百分率が一番右のカラムに書かれています。子宮頸がん Cervical では 80.9% です。これは、その国によって異なりますから、日本でもこのような統計を継続的におこなう必要があります。
世界は、すでに 2価、4価 HPV ワクチンでなく、9価 HPV ワクチンがスタンダードになってきています。日本では心因反応やヒステリー反応を HPV ワクチンのせいだ、とする少数意見をマスメディアが大きく報道し、あたかも HPV ワクチンが危険であるかのような空気が生じ、合理的な議論がなされず、停滞しています。
いまHPVワクチン接種機会を逃した13-16歳の女性達が、2030年ころに子宮頸がんを発症します。その頃になって後悔しても遅いのですが、合理的な判断をしないのも、人間の特性でもあるので、仕方ないのでしょうか。
(注1)MMWR-= Morbidity and Mortality Weekly Report
米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)が毎週報告している感染症情報
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この記事を書いた人
久住英二医療法人社団鉄医会理事長
医療法人社団鉄医会理事長。日本内科学会認定内科医、日本血液学会認定血液専門医。1999年、新潟大学医学部卒業。2006年より東京大学医科学研究所・先端医療社会コミュニケーションシステム・社会連携部門客員研究員として、忙しく働くビジネスパーソンこそ現代の医療弱者である、と医療提供体制の改革を目指し、2006年、コラボクリニック新宿プロジェクトに参画。2008年、JR立川駅の駅ナカに、平日21時まで診療する「ナビタスクリニック立川」を開設した。ワクチン問題にも造詣が深く、日本での導入が海外より20年も遅れたヒブワクチンなどを個人輸入して提供した。現在は子宮頸がん予防ワクチン問題でも積極的に情報発信している。