日本の虫よけ薬、ようやく進歩
久住英二(医療法人社団鉄医会理事長)
これまで、さまざまなメディアを通じて、日本の蚊よけが弱すぎて使えない、という話をしてきました。
デング熱、ジカ熱、チクングニア熱全てを媒介するヒトスジシマカは、まさに今活動期を迎えています。ウイルスは感染者が持ち込み、それを蚊が媒介します。デング熱、ジカ熱は不顕性感染(感染していても症状がでない)の人が多く、自覚的には全く健康な外国人旅行客がウイルスを持ち込み、その人が蚊に刺され、その蚊が他者を刺すことで感染が拡がっていきます。
ジカ熱の流行国は増えているので、感染してウイルスが体内にいる状態の人は、すでに何人も日本を訪れているはずです。なぜなら、海外渡航した日本人が帰国後に発症している例が多数出ているからです。流行国に住んでいて感染している人が日本に来ているケースも数多くあると考えるべきでしょう。
デング熱はワクチンが開発されていますが、以下の問題点があります。
1)デング常在国でない日本人が接種した場合の有効性が不明
・ワクチンの臨床試験は、すべて流行国で実施されている
・すでに免疫を有する人が一定割合いる集団での有効性は、デング熱ナイーブの日本人には外挿できない
2)接種数年後で免疫が減弱した際にデング熱に感染した時の重症化リスクが不明
・デング熱は中途半端に免疫があると症状が強くなるので
・流行国では定期的にウイルス感染するので、免疫が保たれる
チクングニア、ジカ熱のワクチンは、まだ開発中です。あと何年もかかると予想されます。ということで、今のところ最も確実な対策は「蚊に刺されないこと」です。
蚊に刺されないための対策は:
1)肌を露出しない(長袖、長ズボンの着用)
2)淡色や明るい色の服を着る (蚊は黒い色が大好き)
3)虫よけ剤を使う DEET:ディート(注1), Picaridin(イカリジン)(注2)
4)窓は開放せず網戸、できればエアコンで空調(ない場合、蚊帳の使用も)
5)蚊取り線香など使う(有効成分の濃度が低ければ効かない)
今までの日本では、DEETは最高濃度が12%、Icaridinが5%で、3時間ほどで効果が切れていしまいました。かつ、薬液の皮膚への付着が少ないスプレー製剤が好まれるので、さらに効果が現れにくいという二重苦でした。結果として「虫よけ効かない→使わない」という残念な選択をする方が少なくありませんでした。
ところが、先日、「厚生労働省グッドジョブ!」とでもいうべき通知が発出されました。DEET 30%、Icaridin 15% の虫よけを作ったら、すぐに承認します、という通知がそれです。これを受けて(注3)を出しました。
発売は今年の盛夏には間に合わないかも知れませんが、日本の虫よけが漸く一歩前進することを、嬉しく思います。
アース製薬さんには
1)スプレー製剤でなく、液体ポンプもしくはローションタイプ
2)ウォータープルーフの製剤
の開発を期待しています。
注1) DEET(ディート): diethyltoluamide ジエチルトルアミドディート。世界でもっとも広く使われている虫除け成分。濃度は高ければ高いほど、効果が長くなることが示されている。(出典:国立感染症研究所)
注2)ピカリジン・イカリジン 虫よけ成分の一種。
注3)2016年6月17日付けニュースリリース「有効成分ディートを30%配合した人体用害虫忌避剤」
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この記事を書いた人
久住英二医療法人社団鉄医会理事長
医療法人社団鉄医会理事長。日本内科学会認定内科医、日本血液学会認定血液専門医。1999年、新潟大学医学部卒業。2006年より東京大学医科学研究所・先端医療社会コミュニケーションシステム・社会連携部門客員研究員として、忙しく働くビジネスパーソンこそ現代の医療弱者である、と医療提供体制の改革を目指し、2006年、コラボクリニック新宿プロジェクトに参画。2008年、JR立川駅の駅ナカに、平日21時まで診療する「ナビタスクリニック立川」を開設した。ワクチン問題にも造詣が深く、日本での導入が海外より20年も遅れたヒブワクチンなどを個人輸入して提供した。現在は子宮頸がん予防ワクチン問題でも積極的に情報発信している。