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.国際  投稿日:2016/10/5

「オクトーバー・サプライズ」はトランプにとって最悪の週? アメリカのリーダーどう決まる? その27


大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)

「アメリカ本音通信」

先月末に行われた最初の大統領候補ディベートにおいて、準備万端で臨んだ民主党のヒラリー・クリントンに水をあけられた後、共和党の大統領候補ドナルド・トランプにとって、10月は踏んだり蹴ったりで幕を開けた。

投票日が1か月後に迫った追い込みの時期に、大統領選を左右するほどの誰も予想し得なかった事態が起こることを「オクトーバー・サプライズ」という。4年前、接戦だったバラク・オバマの対戦相手、ミット・ロムニー候補を見舞ったオクトーバー・サプライズは、ニューヨークやニュージャージーなど東海岸部の都市を襲い、浸水による甚大な被害をもたらしたハリケーン・サンディだった。

現役のオバマ大統領が米連邦政府の緊急事態管理庁(FEMA)のリーダーとしていち早く現地入りし、それまで反目し合っていた共和党のクリス・クリスティー(今はトランプの応援団長)知事にも大歓迎され、浸水被害から国民を救ったヒーローとして迎えられたのに対し、一介の対立候補でしかなかったロムニーは、現地入りさえも警備が十分にできないからと断られ、指をくわえて見ているしかなかった。そして選挙結果はオバマの圧勝。

だが、今年のトランプへのオクトーバー・サプライズは、天災ではなく、自分で蒔いた種というか、もはや「驚き」とさえ言えない醜聞が次々と吹き出したことだろう。まずは初回のディベート直前にワシントン・ポスト紙が、トランプが自分の名を冠した「トランプ基金」という慈善団体を使って自分の借金を穴埋めしていたことをすっぱ抜いた。こういった「ファウンデーション(基金団体)」とは、富裕層が慈善事業をやるために、自分の資産を投じて組織するもので、ヒラリー・クリントンも家族と「クリントン基金」を創設しており、大統領就任後には利害関係を断ち切る準備をしているが、今のところこの基金を使った違法行為があったとは一切報道されていない。一方のトランプ基金はとうとう地元ニューヨークでの資金集めを即刻停止するよう、州法務長官から言い渡されたところだ。

トランプが基金に自身の金を資金として寄付したのは2008年が最後で、それからは人から寄付してもらった金で、自分の肖像画や、スポーツ選手のサイン入りボールを買ったり、挙げ句の果てにはトランプが訴訟を起こされそうになった団体と和解するための寄付金のサイフに使ったりと、筋の通らない、違法な流用をしていたことが既に報道されている。

その3日後の、ニューズウィーク誌のスクープでは、キューバとの国交断絶時代にトランプがリゾート計画の下見などでキューバにお金を落としていたことがバレた。トランプ陣営は「ただの下見でビジネスをしたわけではない」と言い訳したが、取引禁止令を破ったことに変わりはない。

さらに4日後には、ロサンゼルス・タイムズが、トランプが自分の経営するゴルフクラブから「器量が良くない」という理由で何人も女性従業員を解雇しようとしたと報じた。また自分の名前を冠した人気TV番組「ザ・アプレンティス」でも、出演者の女性に対し、自分の娘イヴァンカと比べて器量がどうのこうのと発言していたことがわかっている。

その間にも、これまでずっと保守派メディアとして共和党を支持してきた有力ビジネス紙であるウォール・ストリート・ジャーナルが、今回はクリントン支持を表明。また米国唯一の全国紙であり、これまで一度も特定候補を支持表明してこなかったUSAトゥデイ紙が、「誰に投票しろとは言わないが、トランプはダメ」と初めて「反支持」を打ち出した。(ちなみに、トランプ氏に支持表明した有力紙はまだゼロ)

そして同じ週の金曜日深夜に月曜日のディベート終盤で、クリントンが言及したベネズエラ出身の元ミス・ユニバース、アリシア・メチャドさんへの罵詈雑言の連続ツイート。一国の大統領になろうという人物が夜明け前の時間に、「彼女はデブで困り者」「こいつのセックステープ探してみろ」などと発信。

翌日の土曜日にはニューヨーク・タイムズ紙が匿名の情報漏洩資料により、トランプ夫妻の1985年の州税申告書に9億ドルを超える損失が計上されていたことをスクープした。州税法ではトランプがその後18年間にわたり、一切の州税を支払っていない可能性があることも確認している。

最新のニュースでは、トランプはラリー(Rally:集会)でイラクやアフガニスタンなどの戦地に赴き、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされている元軍人は「弱虫」だったからそうなったと発言して、女性票に続き、軍人票も失いそうな事態を招いている。トランプはどこまで自身の作り出すスパイラルの中で堕ちていくのか。

ここで一旦、10月4日には、副大統領候補同士のディベートが行われる。スポットライトが当たらない束の間、両候補の戦いはまだまだ続く。


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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