フリーで仕事をしている人の対価とは
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
個人で仕事を受けている方と、仕事をすることがよくあり(私自身もそんなようなものだが)、なんとなく話しやすいなと感じていたのだけれど、最近彼らは値付けを常にしているのでそれが影響しているのかなと思うようになった。
仕事を依頼すると、見積もりが出てくる。その人の労力、稼働時間や準備のための時間、結果として提供される価値を計算してだいたいこのくらいというのが出てくる。下げられないかとか、これ高いので削ってもらえますかという交渉があり、最後に決まれば仕事が発注される。
そういうことを繰り返していると、自分が提供しているものはだいたいいくらぐらいの値段かというのがわかっていく。もちろん相場をよく知らない人にぼったくり気味の金額を提示したり、もらった金額分の働きをしない人もいるけれど、そういう話は回り回って、段々淘汰されていく。ある程度人の数がいて、くるくる回っている業界だと数年もすれば金額はそれなりのところに集約されていくのだと思う。
個人の人間がどうして付き合いやすいかというと、もらいすぎや、もらわなさすぎに敏感で、且つかなり早い段階で金の話をしてくれるからだ。もらった分は頑張ろうとしてくれるし(特に私の場合は、あいつおしゃべりだからあちこちで言いふらしそうだというプレッシャーもあるかもしれないが)、もらった価値とずれていたなと思うことがあまりない。それから打ち合わせが少なく短い。
自分が提供している価値と対価(評価)が一致しているかを常に意識するから、フリーの人たちは自分が提供している価値はいくらぐらいかに敏感なのだろうと思う。私もフリーの立場みたいなものだから、そういう人とは話がしやすい。
組織を介すると、複雑すぎて、自分が提供している価値がどの程度なのかがわかりにくい。鈍感でいると、そのうちに自分が提供している価値より多く対価をもらっているのか、少なくもらっているのかがわからなくなっていって、そうなると少ない賃金で価値を提供しているか、または提供している価値より賃金をもらいすぎていて会社にしがみつく羽目になる。人生で一度ぐらい個人で仕事をする期間を持てば、それによって会社とも対等な関係になれるのではないか。
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この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役
1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。