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.政治  投稿日:2016/11/7

自衛隊に駆けつけ警護できる戦闘能力はない その2 火力編


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

 

政府は自衛隊にPKOなどでいわゆる「駆けつけ警護」、つまり交戦を認めることになったが、その場合、自衛隊部隊は諸外国の軍隊の何倍も戦死者や手足を失う隊員がでることが予想される。

自衛隊が精強である、というのはイリュージョンだ。これまで自衛隊は演習をこなせばよいと割り切ってきた。このため実際に交戦し、死傷者がでることを前提に用意をしてこなかった。誤解を恐れずにいえば、戦争ごっこしかできない。そのような組織であるから実戦を想定した、訓練、装備体系を持っていない。

安倍政権は安保法制の変更で法律だけ変えれば、自衛隊は即交戦が可能だと思っているのだろう。だがそれは無知あるいは勘違いである。安倍政権は自衛隊の実態を知らない。

攻撃は最大の防御というが、陸自の普通科(歩兵)は、特に小銃小隊や分隊といった、小規模な部隊で敵と直接接触したり、地点を確保する等のレベルでの火力が極めて貧弱である。NATO諸国の軍隊はもちろん、第三世界の軍隊や現地の武装組織と比較しても見劣りする可能性が高い。

例えば諸外国では普通に装備されている、7.62ミリ機銃や40ミリグレネードランチャー、対物ライフル、(60ミリ迫撃砲は近年採用され、特殊部隊の特殊作戦群のみが導入し、水陸両用部隊も導入する)。また治安維持に必要な、非致死性、或いは弱致死性の兵器も殆ど存在しない。これは現地人との接触が主な任務であるPKOや人道復興支援では更に深刻な問題となる。

スイス・アームズ社が新型の対物ライフル、SAN511

先進国の軍隊は小銃に5.56ミリNATO弾を採用しているところが殆どだ。だがイラクやアフガンでは武装勢力が7.62ミリ弾を使う小銃や機銃、RPG(携行型ロケット榴弾)を多用したこともあり、火力で劣勢を感じた。このため一旦は減らした7.62ミリ機銃を増強したり、40ミリグレネードランチャーを導入したり、7.62ミリ小銃を再度導入した国は少なくない。

筆者の知る限り世界の軍隊で、下車歩兵(徒歩の歩兵部隊)の7.62ミリ機銃を廃止したのは陸自だけだ。筆者はかつて陸幕広報室に7.62ミリ機銃廃止の理由を聞いたことがある。その回答は「我が国は国土が狭く、交戦距離が短いからだ」そうだ。だが都市国家のシンガポールや国土が狭いベルギーも7.62ミリ機銃を廃止していない。

同じNATO弾でも7.62ミリ弾と5.56ミリ弾では初活力はそれぞれ3.265Jと1.796Jと1.82倍も異なる。相手が7.62ミリ弾を使用すれば、5.56ミリ弾の射程外からアウトレンジで攻撃されることはいうまでもない。当然射程も貫通力も大きな差がある。射程だけではない。例えば厚さが15ミリのアルミ装甲の場合、5.56ミリは200メートル程度の距離までしか貫通できないが、7.62ミリ弾は400メートル程度の距離、つまり約2倍の距離でも貫通が可能だ。つまり同じ距離で撃ちあえば、5.56ミリ弾では打ち抜けないバリケードでも7.62ミリ弾では打ち抜ける。当然同じ条件で撃ちあった場合、5.56ミリ機銃は不利だ。

自衛隊は機関銃として5.56ミリ弾の住友重機がライセンス生産しているMINIMIを使用している。ところがこれの信頼性、能力に問題がある可能性がある。住友重機はMINIMIだけではなく、7.62ミリの74式車載機銃および、12.7ミリ機銃についても40年以上前から性能や耐久性などのデータを改ざんし、防衛省が定める発射速度や目標命中率などの基準を満たさないまま納入していたことが2013年に判明した。このことが明るみになったとき筆者は岩田陸幕長(当時)に記者会見で以下のことを質した。

MINIMIは基本的にはベルト給弾で射撃を行うが、89式小銃などの弾倉を使用することも可能だ。だが89式小銃の弾倉を使用すると弾薬が機関銃に給弾されないという動作不良を起こすため89式小銃の弾倉をMINIMIで使用することは禁止されてきた。岩田陸幕長(当時)は、不具合は直っていると回答したが、現場では認識は違っていた。不具合は直っていないと主張する隊員は少なくない。

そして本年筆者が得た情報では陸幕は来年度のMINIMI調達では不具合の改修を行い、そのための経費がかかったために調達単価を上げたという。つまり昨年度の調達では不具合は直っておらず、来年度調達分からは不具合を改修し、そのためのコストが上がるというわけだ。そうであれば南スーダンの部隊は不良品の機関銃を持たされていることになる。

以前MINIMIは100丁単位のとき調達単価は約200万円であった。だが本年度の調達は30丁で1億円、調達単価は333万円である。これは調達数が少なかったからと説明できようが、来年度は48丁で2億円、調達単価は416万円である。調達数1.6倍に増えているのに調達単価も上がるのは不自然だ。先に挙げた来年度のMINIMIの異常な価格の上昇はこれを裏付けるものではないか。

因みに2014年度から来年度予算においても、74式と12.7ミリ機銃は調達されていない。因みに指名停止措置は平成 25 年 12 月 18 日 ~ 平成 26 年 5 月 17 日(期間:5 カ月)で終わっている。これらは既存の車輌から取り外したものを流用すると防衛省は説明している。恐らく用途廃止になった74式戦車などから回収したものだろう。だが、調達停止が継続しているのは不具合が直っていないからではないか。MINIMIの価格の高騰は住友重機側の不祥事の始末を税金で尻拭いするという疑いと、更に74式や12.7ミリ機銃の調達停止による同社への売上減に対しての補填という可能性もある。

ただ、89式小銃も来年度要求では単価は40万円と随分と値上がりしている。安倍政権のGDP増加のためのバラマキ、という可能性もある。仮にMININIの不具合が直っていない状態で派遣部隊に持たせるのであれば、無責任も甚だしい。住友重機のメーカーとしての能力を再検証すべきだ。せめて派遣部隊にはFN社から輸入してオリジナルのMINIMIを持たせるべきだろう。FN社のオリジナルのMINIMIであれば性能は保証され、調達価格も数分の1である。更に申せば、自衛隊のMINIMIは旧式であり、同社ではより性能の向上したモデルを供給している。それを調達するべきだろう。

平地が多い、アフリカのブッシュ地帯では遠方からの敵発見、アウトレンジ攻撃が主である。このため、7.62ミリ機関銃の有効射程は3,000メートル程度である。この距離では第一次世界大戦以来、英軍、ドイツ軍が得意とする機関銃の測量による放物線を描く射撃が使用されるからだる。機関銃の測量射撃による掃射はほぼ直上より音も無く降り注ぎ、弾着してから発射音が聞こえるため、将兵を恐怖のどん底に叩き落とす。機関銃の測量射撃は、以前は防御時に用いられる戦法であったが、GPSやレーザー測距儀などが発達した現代では、RWS(リモート・ウェポン・ステーション)と連動することで攻撃時にも多用されるようになっている。自衛隊のMINIMIでは、この戦法にとても太刀打ちできず、陸自部隊は敵の姿を見ることなく大きな被害を受ける可能性がある。

陸自は40ミリグレネードランチャーの代わりに小銃の銃口に装着する先込め式のライフルグレネードを06年に採用したが、50年代に既に先込め式のライフルグレネードは廃れており、21世になって採用したのは陸自ぐらいだ。40ミリグレネードは元込め式であり、砲身から回転をかけて発射されるため、ライフルグレネードとは比較にならないほど、照準が正確である。またより多くの弾薬を携行でき、照明弾や煙幕弾など多目的に使用できる。更に非致死性・弱致死性の催涙ガスやゴム弾も使用でき、運用の柔軟性が高い上に、暴徒鎮圧にも有用だ。実戦では特に煙幕弾や照明弾が多用される。因みに40ミリグレネード弾の榴弾であれば、25メートルプール半分ほどのエリアでの殺傷能力がある。

対してライフルグレネードは携行弾数が少なく、陸自には攻撃用弾種しか存在しない。しかも価格が高いためか調達は遅々として進まず隊員の間ではその存在が「都市伝説」とすら言われている。防衛省の資料を見る限り、南スーダン派遣部隊は携行していないようだ。

多くの国の軍隊が40ミリ(ロシア系は30ミリ)グレネードランチャーを採用しており、陸自のみがひとり、ライフルグレネードを21世紀になって採用するのは極めて奇異である。ぞもぞも、破壊力が大きい武器の射撃精度が劣ることは現代の用兵思想そのものから外れている。

L−86A2とグレネードランチャーIMG_5998

またグレネードランチャーは直接照準によって、射撃が可能であり敵のバリケードやバンカーなども攻撃が可能だが、ライフルグレネードではこれができない。当然ながら曲射によって、バリケードの背後に隠れた敵を攻撃することができる。常識的に考えれば先進国に限らず、途上国ですらグレネードランチャーを採用しているなか、わざわざ自分たちのみがライフルグレネードを選択することを奇異と思わなかったのは、軍事常識が欠如しているからだろう。

南アリッペルエフェクト社の6連リボルバー式グレネードランチャー

自衛隊の使用する9ミリ拳銃はシグザウワーのP220を国産化したものだが、装弾数は9発であり、最近の9ミリ自動拳銃の主流の15~17発と比べると弾数が少ない。室内戦闘や市街戦での近接戦闘では拳銃が使用されることが少なくない。この際に弾数がモノを言う。防弾ベストやヘルメットの防護機能が向上している現代戦において、拳銃弾が効力を発揮する部位は顔面に限られるようになった。小さくてよく動く顔面に拳銃弾を何発も撃ち込むには、相応の弾数が必要となる。完全に時代遅れだ。またコンバットシューティングに適したホルスターやマガジンポーチなども支給されていない。

諸外国のライフルにはドットサイトと呼ばれる等倍率の光学照準器や、4~6倍程度の光学式照準器が装着される。前者は接近戦闘において極めて迅速な照準が可能となり、後者は屋内戦闘における敵味方の識別や遠くの目標の射撃に有利となる。両者を複合したり、脱着式にして倍率を可変することが可能な光学式照準器も存在する。これらと組み合わせる暗視装置も存在する。また夜間に使用する高輝度のタクティカルライトもよく使用される。これは敵を照射するだけではなく、敵からの射撃を妨害することもできるし、非致死性武器としても身体に外傷を負わせるおそれが少ないため大変有効である。

これらは小銃に設けられたレールマウントと呼ばれるマウントに装着することができる。だが陸自の89式小銃にはレールマウントはなく、またこれらの装備は官給品として存在せず、一部の部隊や個人が自費で装備している。つまり夜間を含めて素早く正確に照準することは難しい。一瞬の差が命取りになる戦場において陸自部隊は極めて不利な立場にある。これまた時代遅れであり「駆けつけ警護」で武装勢力などに対して優位を得られずに、味方の犠牲者を増やす要因となるだろう。

陸自の89式小銃。レールマウントの装着などの近代化もほどこされいないが、値段は1丁40万円と他国のライフルの5〜10倍ほどの値段。

また機銃も同様にレールマウントを装備し、光学照準器や暗視装置、レーザー測距儀などが併用される。小銃より射程が長い機銃にこれらの装備が搭載されれば、特に夜間に効果的な射撃が可能であるが、これまた自衛隊には存在しない。このため照準装置においても、現地の武装勢力に対して優位を確保できない。

12.7ミリ弾など大型の弾を使用する対物ライフルは近年採用する軍隊が増えているが、この弾薬は低伸弾道、すなわち、弾丸が飛翔する際に描く放物線が直線に近いので、狙撃手を養成する期間を短くできる。遠距離狙撃だけでなく、バリケードや装甲車両などを排除するため用いられ、市街戦でも威力を発揮する。例えばドイツ軍では米国製で、12.7ミリ弾を使用するバーレットM82をG82として採用している。このような狙撃銃もまた陸自では採用していない。

陸自部隊が携行できる火器で威力が高いのは84ミリ無反動砲程度であり、これは多くの国々でも使用されている。だがこれも南スーダンには持ち込んでいない。武装勢力は一般にRPGと呼ばれる、携行型のロケット榴弾を多用しているので、火力は陸自部隊よりも遥かに高いといえよう。

これらのことから、陸自南スーダン派遣部隊の装備火器は諸外国や武装勢力からみても火力は弱く、正確な照準がつけ難い。また照明弾や煙幕弾を使用できないために、味方の位置を秘匿したり、夜間に敵の位置を確認したりすることが困難である。他国の軍隊、あるいは武装勢力と戦った場合に同等の規模の戦闘を行った場合に、より大きな犠牲を出す可能性が高い。陸自の普通科は昭和の時代から取り残されている。当然ながら現代的な装備を持った他国の軍隊と比べて被害が出る確率はどうしても高くなる。

また非致死性および、弱致死性兵器を殆ど有しておらず、また暴徒鎮圧も訓練も殆ど積んでいない。また暴徒鎮圧時に身を守るすね当てや、肩当て、ヘルメット用のバイザーなどのプロテクターも装備しておらず、投石などで思わぬ被害を出す場合も想定される。現地の暴動は国内のものとは大きく異なる。単なるデモが銃撃戦や本格的な戦闘に発展する可能性も少なくない。

装備や訓練の欠如のために例えば民間人救助作戦において現地住民が暴徒化した場合、任務を放棄して撤退するか、住民に銃口を向けるしか手段がない。つまりグレーゾーンに対処する能力がない。にも関わらず、防衛省は個々の隊員に対する「アリバイ工作用」の個別のビデオカメラだけは装備させようとしている。これは防衛省と政治の責任逃れのための措置としか思えない。

 

その3に続く。その1。全5回)

 

トップ画像:陸自のMINIMI。©清谷信一 (MNIMIでは7.62ミリ弾の機銃に勝てない。)

文中画像:上から、①スイス・アームズ社が新型の対物ライフル、SAN511。

②L−86A2とグレネードランチャー。

③アリッペルエフェクト社の6連リボルバー式グレネードランチャー。

④陸自の89式小銃。(レールマウントの装着などの近代化もほどこされいないが、値段は1丁40万円と他国のライフルの5〜10倍ほどの値段。)

©清谷信一

 


この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


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清谷信一

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