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.政治  投稿日:2016/12/9

カジノ法案、依存症対策盛り込め

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Japan In-depth 編集部(坪井映里香)

12月6日、カジノ法案とも呼ばれるIR法案が衆議院を通過。自民党は14日の臨時国会会期末までに成立させる方針だ。焦点は、ギャンブル依存症対策はどうなっているのか、という問題だ。「社団法人ギャンブル依存症問題を考える会」田中紀子会長をゲストに迎えた。

2年前の2014年にもJapan In-depthチャンネルに出演していた田中紀子氏。当時は「ギャンブル依存症問題を考える会」発足直後だった。同時にそれは、IR法案が初めて国会に提出された直後。カジノ合法化の議論は2000年に入ってから始まり、IR法案は2年間審議されてきた法案だ。

そもそもIRとは、Integrated Resort(インテグレーテッド・リゾート)の略。カジノを含む、ホテルやショッピングモール、そしてコンベンション施設もある複合施設だ。現在日本ではカジノは禁止されていて、当然IRも法律がないと作ることはできない。この法律ができれば民間が行う賭博が認められるということになる。田中氏はそう説明した。

しかし、パチンコを例に挙げ、すでに賭博行為は普通にあるのでは?と安倍編集長は指摘。田中氏は「パチンコが日本で賭博と認められていないということ自体、ダブルスタンダード。」と同意した。視聴者からも、「カジノでそこまで大騒ぎする理由がよくわからない。」と意見が寄せられた。今回のIR法案でギャンブル依存症について議論がされはじめた現状に対し、「ギャンブル依存症のことに関心をもってもらったことはありがたいと思う。今までさんざんギャンブルはあるし、なぜパチンコやパチスロは騒がれなかったのかという気持ちはすごくある。」と複雑な心境をあらわにした。

ギャンブル依存症は、患者やその周囲の人たちはもちろん、社会の問題と結びつきやすいという。例えば、暴力団とのつながり、うつ病、自殺、生活保護、犯罪、貧困等があげられる。これによって、社会福祉費の増加や治安悪化といった問題が起きる。特に、自殺問題は田中氏自身実感しているという。「ギャンブル依存症問題を考える会」のメンバーは基本的にギャンブル依存症患者の家族が集まっている。毎年メンバーの家族、つまりこの会を通して治療を試みているギャンブル依存症患者の約3人が自殺しているという。

ギャンブルが社会的に注目を集める大きな犯罪に結びつくこともある。ベネッセ情報流出事件の犯人はギャンブル依存症で、お金がほしくて情報を売るにいたった。また、一人の女性を巻き込んだ新幹線焼身自殺事件を起こした男も、ギャンブル依存症でありアルコール依存症の人だったという。ギャンブルの資金を得るため違法行為(窃盗、横領、詐欺など)を行ったことのあるギャンブラーの比率は男性で87.7%だという。

ギャンブル依存症は「社会のコスト」を増大させる。つまり、生活保護、貧困対策、治安改善等、知らず知らずのうちにギャンブル依存症に起因する社会問題の解決に私たちの税金が使われている。この現状に対し、田中氏は税金ではなくギャンブル産業の利益で負担をすることを主張している。「ギャンブルという産業で生まれる犯罪や治安の悪化なのだから、それは起こしている産業が負担するというのは当たり前だということが世界のスタンダード。」と田中氏は述べた。

また、田中氏はギャンブル行政の問題点も挙げた。例えば警察庁はパチンコ、経産省が競輪やボートレース、農林水産省が競馬というように現在運用する省庁がばらばらになっている。さらに規制をかけることと振興をすることが一体となっていて、売り上げが下がったら上げるために躍起になり、ギャンブル依存症の人がたくさん出るという意見は出てこない、と田中氏は説明した。どこかで規制をしたとしても、別の省庁のギャンブルは規制されない。つまり、規制によってつまらなくなったら別のギャンブルへ行くというように流れるだけで、意味がないとした。

この問題の解決には、「行政の問題点を洗い出して、一括してギャンブル依存症対策をやる監督機関を作ることが有効。」と田中氏は述べた。しかし、既存のギャンブル産業からの反発や各省庁の利権も関係し、「すごく難しいこと。」と田中氏は述べた。一方、「IR法案が起爆剤として今まで誰もメスを入れられなかったところにメスを入れられるのであればそれは画期的な事。」とした上で「これからがむしろ勝負。」と意欲を述べた。

日本のギャンブル依存症患者は推定で536万人。日本のギャンブル依存症有病率は男性8.8%、女性1.8%。対してアメリカは1.5%、スイスに至っては0.5%で日本は格段に多いことがわかる。「海外では対策が進んでいる。」と田中氏は述べ、カナダの事例を紹介。カナダでは、ギャンブルの売り上げの数パーセントが、ギャンブル依存症対策、チャリティ費、リスポンシブルゲーミングと呼ばれる費用の3本柱にあてられる制度だという。

この費用は、ギャンブル依存症対策に加え、社会的な啓発や研究、治療に、日本円にして70億円が割かれているという。たとえば日本では、ギャンブル依存症が進むと仕事ができず、生活保護を受給する。しかしそれもギャンブルに使ってしまうといったことが問題視される。日本では生活保護費も治療にも税金が使われている。カナダではそうではなく、ギャンブル産業からの支出だ。国は税金からの支出が減り、ギャンブル産業側も、安全なギャンブルを提供でき、産業のすそ野が広がるという。

現在のIR法案には付帯決議に依存症対策は付帯決議になっており、法案には盛り込まれていない、と田中氏は述べた。付帯決議には法的拘束力はない。これから参議院の付帯決議の審議でどれだけ盛り込んでいただけるかというところが注目していると田中氏は述べた。

具体的には:

・必要な規制を含む総合対策を一元的に行う部局の新設を検討すること。

・回復施設への支援、社会復帰への支援、貧困・自殺対策、広告等も検討。

・それは売り上げから譲渡すること。

等を要望している。

田中氏によると、必要なギャンブル依存症対策は、予防教育、入場制限、支援者人材育成、研究助成など、多岐にわたるという。日本では対策は何もない状態、「こんなにいろんな問題に影響があるんだということが初めて明らかになってきたという状況。」と田中氏は述べた。実際に、学校教育の場でも、薬物やアルコールの依存症に比べてギャンブル依存症についての教育は行われていない。しかし、番組が行ったアンケートでも、まわりにギャンブル依存症だと思う人はいると答えた視聴者は8割にのぼった。

「法案の成立の行方、成立した後何が必要なのかということ、身の回りの人のためにもそういう目をもってニュースを見ていただきたい。」と安倍編集長は最後に述べた。

(この記事は、【Japan In-depthチャンネル】2016年12月7日放送の要約です)

トップ画像:ⓒJapan In-depth 編集部


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