国民民主党の離れ技光る!IR法案
田中紀子(ギャンブル依存症問題を考える会代表)
【まとめ】
・IR法案が20日夜成立予定。
・国民民主矢田わか子議員が附帯決議提出。
・受益者負担で依存症対策を実現させることを謳ったことを高く評価。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41102でお読みください。】
IR実施法案は、参議院内閣委員会で採決され、おそらく今晩にも成立する見通し。IR実施法案は問題の多い法律で、推進派にとっても私たち依存症者にとっても中途半端なものとなっているが、国会の審議では「法案を通してくれれば、カジノ管理委員会がしっかりやります。」という答弁に終始し、与党は何があってもこの法案を通す!という強硬な姿勢を貫いた。
その中で、推進派の維新を除く野党の闘い方は不信任案一辺倒しかなく、それは数時間の時間稼ぎであった。また一度提出された法案に修正が加えられることは稀である。
2016年の臨時国会でIR推進法が決議された時には、圧倒的な世論の反発から法案自体に修正が加えられたが、今回はマスコミの報道、特に地上波のTVに取りあげてもらえることが殆どなく、我々の形勢は不利なままであった。このまま強行採決もやむを得ないのかと思っていたところ、IR法案について反対票を投じていた国民民主党が、附帯決議を提出するという離れ技を放ち、私たち一同驚き、そして一筋の希望を繋いで貰うことができた。
そもそもIR実施法案は私たちにとって、闘いにくい条件が揃っていた。私たちはカジノの是非ではなく、カジノ依存症対策を推進したいのだが、反対派の野党はカジノを潰すことしかできないので改善策を提示はしてくれない。つまりゼロか百か、白か黒かしかなく、我々の様に「黒を少しでもグレーに」という質問ができなかったのである。
だから私たちの中にも「せめて附帯で」という気持ちは常にあったが、それを言いだせる状況にもなかったし、言っても無駄という気持ちがあった。
ところがここに来て私たちにとって彗星が現れた。不覚にも私も全く存じ上げなかったのだが、それが国民民主党の矢田わか子議員である。IR実施法の議論が参議院に移ってから、矢田議員の質問は光っており、私たちも「おっ!?」っと思ったのだが、なんと矢田議員のお父様は、実はギャンブル依存症だったそうなのである。どおりで、質問に深みがあり、的を得ていると思ったが、何よりも議員がよく勉強されていること印象的であった。
▲写真 矢田わか子議員 出典 矢田わか子ホームページ
昨日の内閣委員会では矢田議員が附帯決議を読みあげると、怒号が飛び交い、現在Twitter界隈では、国民民主を「裏切り者」呼ばわりをしている。しかし、潔く「ゼロ」で散っても、議員は自分のカッコ良さに酔っていられるが、現場としてはゼロで終わってしまうより、0.00001ミリでもマシにして欲しいと思う。法案に反対はする、でも負けた時を考えて、その時には更なる善後策を講じる。この姿勢のどこに非難される余地があるのだろうか?
むしろ良い軍師ではないか。徹底抗戦して勝ち目があるのならわかる。しかし不信任案の闘い方など、勝ち目がない事は誰でも分かっていることではないか。
さらに矢田議員が提出した、附帯決議は31項目にも及び、内容も良いものであった。この法案の欠陥をよく理解され、そこを補てんする内容となっていた。31項目のうち、7項目はギャンブル依存症対策について、3項目は特定金融業について書かれていた。
特にこれはと思ったのは29条の、「政府及び関係者地方公共団体は、治安対策その他の弊害防止対策及びカジノ行為を含むギャンブル等依存症対策について、立地地方公共団体のみならず、周辺公共団体においても、万全の対策を講ずること、このため、納付金や入場料による財源の活用を含め、財政的な措置の在り方について検討し、必要な措置をこうずること。」というものである。
国民の税金を使わずに、納付金や入場料からの受益者負担で依存症対策を実現させることは、私たちの悲願であり、カジノができる周辺県の依存症対策の強化は重要なポイントである。
ちなみに附帯決議は法的拘束力がないため「何の役にもたたない」という人が多く、この度の国民民主党および矢田議員に対する罵声も、「役にもたたないもので手を打つより、最後まで闘え」というものが多かった。
しかし附帯決議というのは、仮にも国会で話し合われることで最後は決までとられるのである。そして議員の仕事はハッキリ言ってここまでで、ここから先は現場と産業側と官僚や行政との闘いに移っていくわけである。
官僚、行政、産業側は国会で決まった附帯決議を全く無視するわけにはいかない。だからこそ、この附帯決議を生かせるかどうかは、我々現場の仕事であり、なんとか生かしていきたいと考えている。少なくとも「附帯決議にこう書いてありますよね?」と問い「だからここはこうして欲しい。」という提案を粘り強く交渉していくカードにはなる。その時に「附帯なんて法的拘束力がありませんから、やる気はないです。」とは官僚も行政もましてや産業側には口が裂けても言えないのである。
もしこれが、附帯すら講じず、反対のプラカードを掲げ、罵声を浴びせただけで審議を終えていたらどうだろうか?我々は、反対した議員の写真でも持っていくしかない。「なんとか先生もこんなに反対してくれたんです!」と訴えても「あぁそうですか」と無視されても文句をいう根拠がないのである。
国民民主党は、安倍一強政治に対し、実にまともな闘い方をしてくれていると思う。支持率0%だそうだが、もっと支持されるべきだと思う。野党第一党として、無責任にカッコよく散ってしまうのではなく、現場にカードを残してくれた。それは決してエースカードではないかもしれないが、ゼロではない。
罵声を浴びる中、涙ぐみ声を震わせ、附帯決議を読みあげてくれた矢田議員には、議員としてよりもギャンブル依存症者を家族に持つ同じ仲間としてシンパシーを感じた。
ギャンブル依存症者の家族には、信じられない位の試練が次々と襲ってくる。孤軍奮闘、味方も少ないし、同情をされることもなく、自業自得と思われ、むしろ非難され嘲笑される因果な病だ。
その中でも我々は決してあきらめず希望を持ってここまでやってきた。矢田議員には、我々の中にある、誤解や偏見、そして嘲笑や非難を浴びても決してあきらめないスピリットを感じた。野党連合がどう評価しようとも、私たちは感謝している。
トップ画像:Pussycats dolls blackjack del Caesars Palace 出典 flickr Xuanxu
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この記事を書いた人
田中紀子ギャンブル依存症問題を考える会 代表
1964年東京都中野区生まれ。 祖父、父、夫がギャンブル依存症者という三代目ギャンブラーの妻であり、自身もギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持つ。 2014年2月 一般社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表理事就任。 著書に「三代目ギャン妻の物語(高文研)」「ギャンブル依存症(角川新書)」がある。