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.国際  投稿日:2017/3/28

トランプ政権驚きのド素人振り


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#13201732742日)

【まとめ】

・米新政権、バノン主席戦略官が仕切り役で対日政策にブレなし。

・「再選意欲」は強いが、「統治モード」には程遠い。

・欧州分断の危機、カギは仏大統領選。

昨日ワシントン出張から帰国した。過去四カ月だけでも米国出張は既に三度目。今回は日本国際問題研究所と米シンクタンクCSIS共催の「日米安保セミナー」に参加させてもらった。同セミナーの開催は今年が23回目。始まった時、筆者は在ワシントン大使館の安保担当書記官だった。時の流れは速いものだ。

詳しくは今週木曜日の産経新聞のコラムに書いたが、トランプ政権のど素人振りには驚くしかない。外交・内政両面を、側近グループ、特にスティーブン・バノン首席戦略官が仕切っているように見えた。実務と経緯を知る、また我々の仲間でもある、共和党系専門家は今も「蚊帳の外」のようだ。

一方、グッドニュースもある。トランプ氏の側近たちは予想以上に戦略的かつ選択的のようだからだ。彼らの対アジア政策にブレは少ない。特に、対日政策については、本当にこれで大丈夫なのかと思うほどだ。在米大使館や外務省北米局も頑張っているようで、結構なことである。

 トランプ政権の経済ナショナリズムは、対外的に従来型貿易政策を転換すること、国内的にはトランプ候補を支持した白人労働者層を重視することに尽きる。今回はトランプ政権は真剣に「再選」を考えているのだと痛感した。いつまで「持つ」かは別として、どうやら彼らの再選意欲は本気のようだ。

〇欧州・ロシア

29日に英国はEU離脱を通報する。これで正式に離脱プロセスが始まる訳だが、EUはどうなるのだろう。先週のオランダ総選挙の結果だけでは安心できない。鍵はフランスの大統領選挙だ。EUは基本的に独仏の枢軸で成り立っている。ロシアの対仏大統領選挙介入が成功したら、欧州分断が本格的に始まるだろう。

一方、ポーランドには4月1日に米陸軍大隊がNATO軍増強部隊として駐留を開始する。これを「ちぐはぐ」と呼ぶか、「着実な進展」と見るか。残念ながら、結論が出るには今しばらく時間がかかりそうだ。その間も、欧州各国では選挙が続く。今年は欧州の動向に目が離せない。

〇東アジア・大洋州

27日に日本がフィリピンにジェット練習機を2機供与する。最終的には5機だが、この案件は昨年8月に「防衛装備移転三原則と防衛装備移転三原則の運用指針に基づき、国家安全保障会議で審議した結果、海外移転を認める」ことにしたものだ。それにしても、昔の武器輸出三原則を知る者には隔世の観がある。

〇中東・アフリカ

27-28日にイラン大統領がロシアを訪問する。トランプ政権の新たな対イラン経済制裁にどう耐えるか。ロシアに行っても経済的利益は得られないが、イランも必死だ。イランの大統領選挙は近い。ローハニ大統領にとっては正念場であろう。

〇南北アメリカ

出張中ワシントンは連日、現行健康保険制度「オバマケア」廃止法案で大荒れだった。トランプ氏の主要選挙公約の一つだったはずだが、同法案を提案した共和党指導部は撤回に追い込まれた。何たる様か、トランプ政権にとっては大失敗以外の何物でもない。

第一義的には共和党内の派閥抗争の結果だろうが、最大の原因は政治経験の乏しいトランプ氏が相変わらず「選挙モード」から「統治モード」に移行しなかったことだろう。法案可決への情熱と努力を欠いたトランプ氏とその側近が「ワシントン政治」を甘く見たとしか思えないのだが・・・。

〇インド亜大陸

特記事項なし。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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