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.国際  投稿日:2024/10/2

カマラ・ハリス候補はカメレオン政治家か その3 副大統領としての最低人気


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】  

・2021年に史上最低の支持率、バイデン後継も懸念されたハリス氏。

・人気復活の背景にはバイデン撤退、トランプへの対決姿勢、メディアの支援。

・草稿無しでは会見応じないハリス氏、トランプとの討論会では善戦

                    

だがなによりも顕著なのはハリス副大統領が就任以来ほぼ一年、主要な政策の表明や活動をみせなかった実態だった。トランプ前政権のマイク・ペンス副大統領が中国政策の主要演説を二回もしたのとは対照的だった。

だからついにバイデン政権びいきのCNNまでが2021年11月、ハリス氏の軌跡を取り上げて、「機能障害」と断じた。そして「副大統領としての職務能力を有していないようだ」というホワイトハウス内部の声をも紹介した。

この時期、有力新聞のUSAトゥデイの全米世論調査でハリス副大統領への支持率がなんと28%という結果が出た。史上最低の数字とされた。

さらに同じ時期、ウォールストリート・ジャーナルが「ハリス氏へのパニック」と題する社説で民主党内にはいまや恐怖に近い懸念が生まれたと論評した。次回の大統領選挙ではバイデン後の候補としてハリス氏を推すという展望が崩れつつあることへのパニックだという趣旨だった。

だから日本の主要メディアでも今回のバイデン氏撤退までの3年半、ハリス副大統領についての報道はきわめて少なかった。アメリカ側のメディアがもう見放したかのように彼女を無視してしまった結果だともいえよう。

だが政治はわからない、という万国共通の真実だともいえようか。そんな不人気のハリス氏が急に人気を高めたのだ。突然の変異が起きたのだった。

一体、なぜなのか。簡単に推測できる理由はまず第一にはバイデン大統領の撤退である。同大統領の認知能力の衰えはあまりにもひどかった。それでもトランプ氏と戦うという本人の意向には民主党内の多数が反対だった。

だからバイデン氏の撤退を歓迎し、ハリス氏という新候補の下に新たな団結をみせて、本番選挙で勝利しようという民主党側の活力の復活は自然な結果だった。

第二にはトランプ候補への対決姿勢である。バイデン大統領の撤退まではトランプ陣営の優位が明確だった。このままでは共和党側に負けてしまうという意識は民主党各層に広まっていた。民主党層のトランプ氏への反発は本来、激烈である。

だがバイデン大統領への留保が錯綜する限り、民主党支持層でのその反発が一枚の岩盤にはなりにくかった。だがいまやその障害は取り除かれたのだ。

第三には民主党支援の大手メディアのハリス持ち上げ大キャンペーンだった。年来、アメリカの国政、とくに選挙では主要メディアの多数派は民主党を正面、側面から徹底して支援する。たとえばニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNテレビなどが筆頭だ。地上波のCBSなど三大ネットワークも民主党傾斜である。今回はそれらのメディアがハリス氏を天まで昇れ、という調子で礼賛したのだ。たとえばニューヨーク・タイムズ8月10日のニュース記事は次のような見出しだった。

「ハリスは喜びを生み、トランプ構想の陰気さと対照を描く」

「喜び」と「陰気」と、ニュース報道とは思えない主観的、かつ情緒的な言葉である。こんな歯の浮くようなハリス礼賛の「報道」の洪水となったのだ。この偏向報道はこれまでのハリス副大統領の無視、あるいは見下しとはまったくの逆転だった。

しかし先述のようにハリス氏の政治家としての資質や政策についての疑問もまた山積している。同氏は民主党指名候補になって以降の一か月近くの間、記者会見やインタビューに再三の要望にもかかわらず、まったく応じていなかった。いまのハリス氏の立場をみれば、この対応は異様である。同氏を擁護するニューヨーク・タイムズでさえも「ハリス氏の記者会見もインタビューもないのはなぜか」という批判をにじませた記事を載せた。

その理由は本人がプロンプターに準備された草稿がないと意味不明の発言に走るという懸念からだとされる。側近が厳重な発言管理をしているのだ。もちろんハリス氏は8月19日からの民主党全国大会で公式に大統領選候補としての指名を受け、その受諾演説で政策などを発表する。だがその発言はすべて事前に準備されるわけである。

しかしハリス氏は再三の圧力に屈するような形で9月10日にはトランプ氏との1対1の討論会に応じた。ABCテレビ主催の会場には聴衆を入れない屋内の討論会だった。90分にわたるこの討論ではハリス氏は意外の善戦ぶりをみせた。ABCの司会者2人が明らかにハリス氏支持で、トランプの答弁には厳しく「事実点検」の指摘を突きつけたのに対し、ハリス氏には肝心の質問への答えも示さなくても、そのまま許容するという偏向姿勢だった。

しかし全体としてハリスがこの討論会では勝者となったとする世論調査結果が多かった。もっともトランプ氏自身はトランプ陣営はその判定をまったく受け入れず、ハリス氏が最重要な質問には答えなかった、と批判した。

(その4につづく。その1その2

*この記事は雑誌「月刊 正論」2024年10月号に掲載された古森義久氏の論文を一部、書き直して転載しました。

トップ写真:演説をするハリス候補(2024年9月29日ネバダ州ラスベガス)出典:Mario Tama/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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