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.政治  投稿日:2024/10/22

総選挙:沖縄政治はどこへ向かうのか


目黒博(ジャーナリスト)

目黒博のいちゃり場

【まとめ】

・今回の総選挙で「オール沖縄」の退潮は止まるのか。

・県議選で勢いに乗る自民党が圧勝できるか、接戦になるのか。

・重大案件である安和の死亡事故は、なぜ総選挙の争点にならないのか。

全国レベルで見れば、政治資金や旧統一教会、夫婦別姓などの問題で、石破新政権が古い自民党の体質に妥協したため、自民党への逆風が強まっている。一方、沖縄においては、革新系を中心とした「オール沖縄」の低迷が続いており、本土とは違ったパターンの選挙になっている。

今回の沖縄における総選挙の結果は、来年7月の参議院議員選挙や2年後の秋の知事選挙に大きな影響を及ぼす。「オール沖縄」系候補の多くが落選すれば、同勢力は分解の危機に瀕する。一方の自民党は本年6月の県議選での圧勝の勢いをキープし、「オール沖縄」を追い詰めたいが、そうできるかどうか。

この記事では、沖縄の現段階(10月21日)における情勢とポイントを述べる。

特に注目される選挙区は1区と4区である。1区は県都那覇市が中心であり、「那覇を制するものは沖縄を制する」と言われるほど、選挙区としての重要性は突出している。

4区は沖縄本島南部と先島諸島(宮古、石垣、与那国など)などからなる本島南部は沖縄戦の最後の戦闘現場になった地域であり、悲惨な記録を刻んだ戦跡が多く残され、平和学習の拠点になっている。しかし、政治的には保守系が強い。

先島諸島は自衛隊の南西シフトが進む地域であり、「台湾有事」が起きれば、直接戦域になることが想定される。そのため、中国への抑止力としての自衛隊基地の重要性と、中国軍ミサイルのターゲットになる危険性が指摘され、議論が錯綜している。4区は、「戦争と平和」を象徴する地域なのである。

 1区の情勢:赤嶺氏と國場氏が激戦を展開

▲写真 赤嶺政賢候補(中央)  出典:同候補事務所より提供

1区には共産党が全国唯一の小選挙区での議席を守ってきた赤嶺政賢氏が出馬する。同氏は当選8回、76歳の大ベテランであり、全国共産党の期待を集める。比例代表九州ブロックの共産党名簿の筆頭に登載されているので、最悪でも、比例復活できる。何が何でも沖縄から赤嶺氏を国会に送り出そうとする共産党の執念が見える。

▲写真 國場幸之助候補  出典:國場氏公式サイトより

同じ1区には自民党から國場幸之助氏(前回比例復活)、無所属の下地幹郎氏(前回落選)が出馬する。國場候補は現在赤嶺候補と接戦を繰り広げているが、朗報が2つある。まず、國場組グループ総帥だった國場幸一氏が昨年秋に引退したことである。幸之助氏は幸一氏とは長らく犬猿の仲であったが、幸一氏が退場したことで、沖縄の建設業最大手の國場組グループ全体が、幸之助候補を応援する体制になったと言われる。

第二に「オール沖縄」が以前より低迷しているうえに、反共産党感情が「オール沖縄」陣営内にも見られ、赤嶺候補は伸び悩んでいるとも言われる。

他方、國場幸之助候補には懸念材料がある。下地幹郎候補の存在である。國場氏と下地氏は、支持層の一部が重なるだけに、念願の小選挙区での当選を狙う國場候補にとっては、赤嶺候補以上に気になる存在だ。

▲写真 下地幹郎候補  出典:同氏事務所より提供

自民党や維新など、さまざまな政党を渡り歩いてきた下地氏は、参議院議員の鈴木宗男氏の薫陶を受け、剛腕の裏技師である。新しいアイディアを次々と打ち出し、派手なパフォーマンスを演じる下地氏に心酔する熱狂的なファンもいる。だが、その政策は非現実的な空砲になりがちで、自信過剰を隠さない点を嫌う人も多い。自民党県連など保守主流派は彼には冷ややかだ。前回の総選挙で議席を失って以来、同氏の存在感は次第に薄れ、今回は苦戦しているようだ。

 4区の情勢:自民の西銘氏が先行し、立憲の金城氏が追う

4区は、自民党のベテラン西銘恒三郎氏と、「オール沖縄」勢力が推す立憲民主党の金城徹氏が激しく争っている。ほかに、れいわと維新からも出馬しているが、西銘氏と金城氏には、はるかに及ばない。

▲写真 西銘恒三郎候補  出典:同氏事務所より提供

西銘氏は当選6回を重ね、大臣も経験し、4区での存在感はずば抜けている。地道に地域を回り、安定した基盤を持つ。腕力が不足するとの声もあるが、腰が低く、好感度は高い。「金城氏と接戦」との報道もあるが、西銘氏が優位に選挙戦を進めているようだ。

 

▲写真 金城徹候補  出典:同氏事務所より提供

金城氏の問題は、れいわが候補者を立て、「オール沖縄」の分裂選挙になったことだ。さらに、立候補者選定委員会で女性を出すべきとの意見が出るなど、もめにもめ、金城候補での一本化決定は、9月9日にずれ込んだ。「オール沖縄」のまとまりを疑問視する人が多い。

同候補にとってより深刻な問題は、沖縄の立憲民主党すら、まとめきれていないことだ。比例復活ができるのかどうか、予断を許さない(前回2021年の総選挙では小選挙区で落選し、比例復活もならなかった)。

<2区では保革の激突、3区は意外な接戦か>

そのほかの選挙区を簡潔に見てみる。

2区は浦添市、宜野湾市を含む中南部の市町村である。普天間飛行場や嘉手納飛行場を抱える地域であり、従来は革新系が強かったが、最近はやや保守系に傾きつつある。

この選挙区では有力な候補者は社会民主党の新垣邦男氏と自民党の宮崎政久氏である。維新の赤嶺昇氏は、かなり強いとの予想もあったが、伸び悩んでいるようだ。

▲写真 新垣邦男候補  出典:新垣クニオ公式ページより

新垣氏は社民党本部副党首であり、衆議院では同党の唯一の議席を有する。社民党九州は弱体化し、比例復活が難しいので、背水の陣で小選挙区での勝利をめざす。同氏にとっての懸念材料は2つある。まず、立憲民主党と社会民主党の対立がくすぶり続け、陣営内の結束がないことだ。さらに、赤嶺昇候補が保守票をかなり奪うことを期待したが、現実には宮崎候補を苦しめるほどではないとの見方が出ていることである。

新垣候補は、自治労出身ではあるが、北中城村長を4期務めるなど、行政経験が豊富であるため、「オール沖縄」系の中では現実主義者として知られ、人気も高い。しかし、浦添や宜野湾のような都市部における「オール沖縄」の低迷がマイナス要素である。同候補の選対本部長が、元宜野湾市長で強硬な基地反対派と言われる伊波洋一参議院議員であることも、プラスになるとは言えない。

▲写真 宮崎政久候補  出典:宮崎候補公式サイトより

宮崎氏は、弁護士出身で当選4回。2019年には、辺野古埋め立てに関する県民投票を阻止しようとする保守系市長などの指南役を務めたと言われ、物議を醸した。同性婚や女系天皇に反対し、保守色が強いように見えるが、夫婦別姓と女性天皇には賛成するなど柔軟な面も持つ。これまで小選挙区ではすべて落選し、比例復活や比例繰り上げなで、しぶとく生き残ってきた。新垣、宮崎両候補とも乙つけがたく、どちらが当選しても不思議ではない。

3区には中部の沖縄市やうるま市、名護市などの北部市町村が含まれる。自民党公認の島尻安伊子氏、立憲民主党から出馬する屋良朝博氏の一騎打ちになっている。事前の予想では、島尻候補の優勢が伝えられたが、現在では多くのメディアが互角と報じている。

▲写真 島尻あい子候補  出典:島尻あい子公式ページより

島尻氏は、沖縄選出自民議員団を、辺野古移設への反対から容認への方針転換を先導したことで、一時は非難にさらされた。仙台市出身(夫が沖縄県人)ということもあり、沖縄の県民感情に無理解だ、との反発も受けた。だが、安倍政権では菅官房長官との近い関係を築き、保守系、経済界からは、政府との太いパイプを通しての地元への貢献が評価されている。早い段階から、沖縄における「子どもの貧困」に着目するほか、夫婦別姓に賛成するなど、現実的でリベラルな面もある。

▲写真 屋良朝博候補  出典:屋良朝博公式サイトより

屋良氏は軍事・安全保障専門の記者であったが、フリージャーナリストを経て政界入りした。軍事の、専門家として知られ、基地反対派を代表する政治家でもある。反面、一般県民の生活に対する関心は薄いとの批判がある。

メディア各社の情勢分析では屋良候補と島尻候補は接戦を演じているとされる。やや不利と見られた屋良氏の善戦は、島尻陣営の気のゆるみが原因との分析が出ている。なお、屋良氏の意外な強さと、普天間の辺野古移設問題との関連は薄いようだ。辺野古工事は現在進行形ではあるのだが、辺野古地域を始めとする北部住民の間には、決着済みとの受け止めが広がる。

 「オール沖縄」は県民の関心が薄れている辺野古反対にこだわる

沖縄全体を見てみると、基地問題は、今回の選挙では大きな争点にはなっていない。地価や物価の高騰など、生活問題が最優先課題になっている。それでも、「オール沖縄」は普天間飛行場の辺野古移設反対を大きく掲げる。

先島諸島に自衛隊が次々と展開し、同陣営内にも自衛隊配備反対を打ち出すべきとの意見もあった。だが、知事を始め、日米同盟を支持するグループを抱える陣営の事情もあり、自衛隊問題は封印し、ホットな話題ではなくなった「辺野古反対」を敢えて唱えた。辺野古問題」だけが、多様な集団を「オール沖縄」としてまとめる唯一の接着材だからだ。

 安和での死傷事故は選挙で話題にならなかったが、重要な案件

▲写真 安和桟橋入口でダンプの前に立ちはだかる活動家 24年8月23日撮影  出典:沖縄県民提供

基地問題にからんで、この選挙では大きく取り上げられなかった重要な問題がある。名護市安和地区で起きた死傷事故である。

この件については、すでに本年8月6日に“Japan In-depth”に掲載された「県議選・米兵犯罪・死亡事故で揺れる沖縄政治」というタイトルの拙稿で触れている(注)。ここでは、その後の展開について若干補足しておきたい。(注:目黒博 | “Japan In-depth”[ジャパン・インデプス]

すでにこの記事で述べたように、6月28日午前、辺野古工事に使用される土砂を搬送するダンプの動きを遅らせようと、活動家グループが故意にゆっくりとダンプの前を歩く、「牛歩」戦術を行っていた。そのうちの1人と、その動きをチェックしていた警備員がダンプにひかれ、警備員が死亡、活動家が重傷を負った。

道路管理者である県土木建築部(土建部)は、車両乗入部の安全対策を十分講じなかったと批判されたが、県土建部としては、車両乗入部はあくまで歩道であり、歩行者の通行に支障が出るようなガードレールなどは設置できないので、安全対策は防衛局などの責任で行うべきという立場をとってきた。ところが、現場の歩道は一般の歩行者がいない場所である。県の言う「歩行者」とは、ほとんどが牛歩などでダンプの走行を遅らせようとする活動家だったことがわかっている。

▲写真 安和桟橋出口での活動家と警備員 24年8月22日撮影  出典:沖縄県民提供

県が安全対策を講じなかったので、2か月近く辺野古工事を中止してきた沖縄防衛局は、8月22日に工事を再開し、安和での土砂搬送も再び実施し始めた。抗議活動の参加者とのトラブルを避けるため、現場にネットフェンスを持った警備員を多数配備し、ダンプが車両乗入部に入る際には、警備員が手で持ったネットフェンスで活動家の動きを制止している。

県はこの件への対応で迷いが見られる。たとえ牛歩を行う活動家であっても歩行者であるという立場を示してきた以上、ガードレール設置は困難という考え方を変えるわけにはいかない。かといって、防衛局がネットフェンスで牛歩活動家などを規制することを違法だとするわけにもいかない。歩行者の安全を確保する責任は、防衛局にあるとしてきただけに、防衛局独自の安全対策を否定できないのだ。しかも、安和の「牛歩」は威力業務妨害に当たる、との指摘さえある。

事故の責任は誰が負うべきか。この問題を検証するには、まずは、現場に設置されている防犯カメラの映像をチェックすることで、事故当日に何が起きたのかを正確に把握する必要がある。沖縄防衛局は県と県議会に防犯カメラの映像を提供し、問題を検証するよう要請した。

今後、この映像をもとに、県議会での審議、県土木建築部と防衛局の協議が進むはずである。ただし、映像には死亡した警備員や重傷を負った女性だけでなく、現場にいた他の活動家や警備員、ダンプ運転手なども写っていると考えられ、プライバシーの問題がからむため、非公開扱いとなっている。

現在のところ、県民の間でこの件は話題になっていない。「どのような経緯をたどって死者が出てしまったのか」という重要な情報が十分公表されていないため、県民も判断できないのだ。

「オール沖縄」のあり方を考える際に、この事故の検証は避けて通れない。危険が伴うような活動や、違法すれすれの活動であっても容認、もしくは支持するのかどうかいずれにせよ、この問題の真相が明らかになるにつれ、活動家たちのモラルと同時に、「オール沖縄」の象徴でもある知事の責任が問われるだろう。

トップ写真:安和桟橋入口でダンプの前に立ちはだかる活動家 24年8月23日撮影  出典:沖縄県民提供

 




この記事を書いた人
目黒博ジャーナリスト

1947年生まれ。東京大学経済学部(都市問題)卒業後、横浜市勤務。退職後、塾講師を経て米国インディアナ大学に留学(大学院修士課程卒)。NHK情報ネットワーク(現NHKグローバルメディアサービス)勤務(NHK職員向けオフレコ・セミナー「国際情勢」・「メディア論」を担当)、名古屋外国語大学現代国際学部教授(担当科目:近現代の外交、日本外交とアジア、英文日本事情)、法政大学沖縄文化研究所国内研究員などを歴任。主な関心分野:沖縄の「基地問題」と政治・社会、外交・安全保障、日本の教育、メディア・リテラシーなど。

目黒博

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