緊迫の朝鮮半島情勢最新分析
Japan In-depth 編集部(坪井映里香)
【まとめ】
・中国漁船団日本海に集結、中国軍の影も。
・有事の際、朝鮮労働党幹部が万景峰号で日本に避難の可能性あり。
・米潜水艦や露ミサイル巡洋艦に動き。日本海戦略を注視。
緊張状態が続く北朝鮮周辺の情勢。海洋の安全保障という観点でこの問題を見ている東海大学海洋学部海洋文明学科山田吉彦教授をゲストに迎えた。
■地政学上無敵の日本
山田氏は海洋への視点の必要性について、地球の7割以上が海でできていることから、「海を通して物資は通じている。だから海をないがしろにはしてはいけない。」と述べた。同時に日本は島国のため、世界へとつながる道は海しかない。そのため、「歴史的に見ても、(日本は)海に守られてきた。」と指摘した上で、「海を通して世界と接している以上はしっかりと海を守っていかないと国土に対して影響が及んでしまう。侵略されてくるのは必ず海から来るから、ミサイルだけで最終的にはこの島を全部抑えられるわけではない。海さえおさえておけばこの国は安泰。」と、日本の海洋における安全保障の必要性を強調した。
また、山田氏は中国にとってもロシアにとっても、日本の存在が彼らの自由な経済戦略を妨げていることを指摘した。「逆さ地図」(下図)を見ると、中国が貿易をしようとすると日本列島・沖縄諸島を横切る必要がある。そのため仮にもし日本と紛争になった際、海洋封鎖をされれば中国は干上がってしまうこと、ロシアも、極東開発をすすめようとしたら日本と友好関係を結ぶしかないということを日露戦争で思い知らされている、といったことをあげた。そうした「強いカード」を日本が持っていて、その切り方を分かっていれば「日本はアジアでは無敵の国」と山田氏は述べた。
■緊迫する日本海と難民問題
テーマの北朝鮮周辺の情勢についてまず山田氏は「日本海は海洋安全保障上は最も注目されている海域。日本ではほとんど報道されていないが、実は昨年から日本海の動きが非常に激しくなっている。」と述べた。韓国の報道によると、中国の漁船団が昨年、700隻から1000隻日本海へ行っているという。北朝鮮海域の漁業権を中国が買っており、日本の海域において中国の漁船が漁をやっているという。これはすなわち、「北朝鮮になにかあった場合日本海に中国の船がいるということ。」であると山田氏は指摘した。さらに、「日本海に中国の漁民がいるということは、中国は人民の保護と言う名目で海軍を日本海に堂々と投入できる」ことを意味すると述べた。
最近、中国とロシアの国境に位置し、中露が取り合っている羅津(ラジン)港という港と、ロシアのウラジオストクのあいだを北朝鮮の貨客船・万景峰号を定期運航するという動きがあった。それはつまり、日本海において万景峰号を常時動かせる状態にしておきたいという思惑があるという。その背後には、北朝鮮にもしも何かあった場合、朝鮮労働党の幹部や家族を万景峰号に乗せて日本へ避難させるという北朝鮮側の思惑がある、と山田氏は指摘した。
日本はこれを拒否することはできないのか安倍編集長が問うと、「日本には在日朝鮮人の方がたくさんいるので身元引受人になる。今の国際情勢の難民保護の観点から日本だけNOとは言えない。日本は旧宗主国で、国際慣例上旧宗主国は難民を受け入れている。」と受け入れ拒否は難しいと述べた。山田氏によると、そうした北朝鮮からの難民は「最大想定だと15万人」とのことだ。「拉致被害者を全員連れて来たら受け入れる、というのはどうか?」と安倍編集長が提案すると、山田氏は「それもひとつの方法。」とし、「もしもの時は速やかに拉致被害者を連れて来たら、我々もきちんと君たちの処遇を考えますよ」という姿勢で臨むべき、と述べた。しかし、一万人というレベルでたとえば隠岐など小さな島に集中してしまったら、島が乗っ取られてしまうことを危惧し、難民対策を考えておく必要性も指摘した。
■米潜水艦、露ミサイル駆逐艦が臨戦態勢
アメリカの原子力空母、カールビンソンが4月29日に韓国軍と合同訓練を行った。しかし、実はアメリカの戦略的原子力潜水艦ミシガンが釜山に寄港し、いまも日本海に潜んでいる、と山田氏は述べた。「カールビンソンは象徴的な存在だがそれ以上に脅威なのがこのミシガン。」とし、ミシガンは全長170メートルで、小さな町なら簡単に制圧することができるという屈強な特殊部隊が60人入っているという。「カールビンソンの動きはすべてキャッチされている。衛星からも見ている。しかし潜水艦の動きは分からない。この両面作戦をアメリカは展開していた。」と、アメリカの日本海における戦略を説明した。
同様に、山田氏が訪問したばかりのロシア・ウラジオストクでも、ロシア太平洋艦隊の基地近くの港にはミサイル駆逐艦が4隻並んでいたという。そのうち1隻は帰ってきたばかり。最高級のソナーと迎撃ミサイルを積んでいて「いつでも対応できる準備に入っているし、一部はもう対応している。」と述べた。
ロシア・ウラジオストク港に停泊中のミサイル巡洋艦
©山田吉彦
潜水艦が潜んでいる、ミサイル駆逐艦が動いている、などといったことをロシアがあえて明らかにするのには意味がある。山田氏は、「準備をしていることをみせるということは抑止力になる。もしもの時は我々も一枚かむんだ、ロシアはそのままスルーするわけではない、するべきことはすると言う意思表示」と分析した。
アメリカ、ロシア、北朝鮮、中国。すべてはプレーヤーとして絡み合っていて、各国落とし所について考えてはいるものの、北朝鮮が新たな火種を生む場所になりうる、と山田氏は指摘するとともに、このぎりぎり保たれている均衡に気づかない韓国国民にも危機感を抱く、と述べた。
■緊張高まる日本海
山田氏も、「戦前の遼東(リャオトン)半島のような状況に、朝鮮半島全部がなりかねない。」とした上で、「日本はもっと緊張感を持って積極的に北朝鮮に対する行動を考えなければいけない。」と述べた。同時に、「なにかあった場合日本でテロが起こらないとも限らない。それに対する備えも先送りしていい話ではない。」と述べ、テロ対策の必要性も強調した。
現在の緊張関係について、山田氏は「何もないまま数年すぎるということは考えにくい。」と述べた。4月29日に北朝鮮はミサイルを発射したが、意図的にせよ偶然にせよ、失敗に終わった。これは山田氏が「本当に日本海に落としたら戦争になっていてもおかしくない。」と感じたほどのものだったという。安倍編集長も今回の話を受け、「日本海の情勢は注視しないと何が起こるかわからない。」と危機感を示した。
「これからの季節、海も荒れず落ち着いてくる。(各国の)日本海戦略を注視しなければいけない。」と、今後緊張感が高まることを示唆した。その上で、「米海軍の護衛をしたということは日本の庭先では自分たちもちゃんと関与しているんだという意思表示」だったとして日本の護衛艦「いずも」が今月頭に米補給艦の護衛活動を行ったことを評価した。
(この記事は、Japan In-depthチャンネル2017年5月3日放送の内容を要約したものです。)
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