北ミサイル開発、黒幕は中国
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
【まとめ】
・北朝鮮のミサイル開発に中国が大量の資金と技術を投入している疑惑あり。
・トランプ大統領は中国が北朝鮮に圧力かけると信じている。
・日本は独自にミサイル開発を進め、北朝鮮の挑発に対抗せよ。
■北朝鮮がミサイル開発継続できる謎
日本国民はいぶかっている。なぜ厳しい経済制裁のもとに置かれているはずの北朝鮮が、難度の高い核兵器の小型化を急げるばかりでなく、米国大陸部を狙える大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発できたり、射程2000キロメートルで日本全土を脅かす中距離ミサイル北極星2号の量産ができるのか。
いくら近年は市場化が進んでいるとはいえ、北朝鮮経済はまだまだ弱小だ。なのにいったい、どこからそんな莫大な軍事増強に費やすカネが出ているのか。米国でさえ軍事費削減を受けて、新兵器の開発が思うようにすすんでいない現状を見れば、なおさら不思議だ。
疑問は資金源だけにとどまらない。世界の最貧国の一つである北朝鮮が開発したミサイル兵器は極めて正確に標的を破壊できるとされる。主張通りだとすれば、なぜ誤差7メートルの正確さでミサイルを撃てるのか。複数の衛星のサポートを必要とする全地球測位システム(GPS)なしでは目標を狙えない地対艦ミサイルを、なぜ開発できたのか。
そのような極めて高度な技術や精密部品や高性能の固形燃料はどこから来たのか。それらはすべて自前なのか。それは考えにくいと、軍事専門家たちは口を揃える。
一方、米国・日本・中国をはじめ国連加盟国は安保理事会の決議に基づき、ぜいたく品の輸出禁止、北朝鮮の金融機関との取引制限、ミサイル又は大量破壊兵器計画に関連する北朝鮮人の資金凍結などを実施している「はず」である。
米国は、北朝鮮が基軸通貨米ドルで外国の金融機関と取引できないようにして経済的に身動きが取れないようにできる「伝家の宝刀」を持っているが、あくまで最終手段であり、まだ発動していない。だから、まだ北朝鮮にはいくらかの制裁逃れの抜け穴は残されている。とはいえ、制裁がますます強化されるなか、北朝鮮の資金の潤沢さと技術のレベルは、そうした抜け穴だけでは説明がつかない規模だ。
■北にカネと技術を提供する中国
ここでひとつ、推理を働かせてみよう。
北朝鮮の冒険的な軍事行動に怒っているという「設定」になっている中国国家主席の習近平(63)が、実は朝鮮労働党委員長である金正恩(33)にカネと技術を密かに提供しているとすれば、すべて辻褄が合うのではないか。
事実、米軍事専門家は中国版GPSの軍事バージョンを北朝鮮が使えば、ミサイルを正確に標的に命中させられると指摘している。つまり、北朝鮮に制裁を加えているはずの中国が、実は北朝鮮の「核保有国化」を後押ししている疑いがある。
この可能性は地政学的に見ても合理的に説明がつく。南シナ海・台湾・日本を含む西太平洋地域のすべてを中国の支配下に置くという「中国夢」を追求する習近平にとって、中国夢の実現を防ぐべく立ちはだかる米国と日本を消耗させ、脅威を与えられるなら、金正恩が核とミサイルを持つことは大歓迎なのである。中国の長期的な覇権戦略の「パズル」において、核とミサイルで日米を攻撃できる北朝鮮という「ピース」は、極東の地図にピタリとはまるのだ。
この可能性を、逆方向から検証してみよう。米国が在韓米軍への終末高高度防衛(THAAD、サード)ミサイル配備を開始した際、その主標的は北朝鮮が実際に発射する攻撃ミサイルであるにもかかわらず、中国は国を挙げて反発した。韓国への経済ボイコットや政治圧力を繰り出し、さながら敵国のように扱った。
攻撃ではなく、ミサイルが降ってくる最終段階での防御システムなのに極めて過敏に反応したことは、中国が自国のミサイル攻撃能力だけではなく、在韓米軍を攻撃できる北朝鮮のミサイルが無力化されることを極度に恐れていることを示唆している。朝鮮人民軍の米軍攻撃能力が削がれて困るのは、中国人民解放軍なのだ。
韓国の新大統領に就任した文在寅(64)は、6基でシステム運用が可能になるTHAADの残り4基の配備にストップをかけようとしたが、米軍も然る者、すでに文在寅の就任前に全6基の搬入を終えていた。残り4基の配備は、韓国側の敷地提供などのハードルはあるものの、実現すれば北朝鮮の対米軍攻撃能力を削ぎ得る、中国にとっての「重大な脅威」なのである。
このように見ると、人民解放軍と朝鮮人民軍は朝鮮戦争以来、いまだに米軍という共通敵を持つ一蓮托生関係であることがわかる。中朝の仲が悪いというのはミクロレベルでは真実でも、マクロレベルでは日米の目を欺くための世紀の茶番劇に過ぎない。つまり、日米にとっての北朝鮮問題というのは、大筋において北朝鮮そのものではなく、中国問題なのだ。
■お人よしトランプ氏と安倍首相
だが、ドナルド・トランプ米大統領(6月14日で71歳)は、ナイーブにも習近平が北朝鮮に圧力をかけて核やミサイルの開発をやめさせられると信じている。貿易問題などでも大幅譲歩し、為替操作国指定を取りやめるなどのオマケ付きである。
このトランプ氏のお人好しぶりは、中国の元最高指導者である鄧小平が「韜光養晦」、即ち能力を隠して力を蓄えよと唱えたジェスチャーにすっかり騙された歴代米大統領の「パンダハガー(中国の外交工作の手中にはまって親中に傾倒している人や国)」の傾向に重なる。
折しも、トランプ大統領の親中傾向に抗えない安倍晋三総理(62)が、2018年前半に訪中して習近平と会見し、同年後半には習近平を国賓として日本に招くと伝えられる。国防を米国に任せる日本としては、そうせざるを得ないだろう。だが、そうした融和政策を貫く間に、日本は喉元に中国の刀を突き付けられるかもしれない。
■日本は気概を見せよ
日本は北朝鮮の核開発やミサイル実験連発を奇貨として、北朝鮮のミサイルの何倍も技術的に高度な移動式や潜水艦発射のミサイルを開発・量産し、北朝鮮の日本海側と黄海側の排他的経済水域(EEZ)に数発、同時に正確に撃ち込んでやればよい。そうなれば、慌てるのは北朝鮮を使って日米に軍事的脅威を与える中国だ。のらりくらりだった北朝鮮への制裁を強め、核やミサイル開発をやめさせるだろう。
もちろん、中国が日本に経済制裁を課し、中国に住む日本人を迫害して、短期的には大損害を被る可能性は大きい。だが長期的には、韜光養晦で対抗できないほど強力になった中国に王手をかけられて亡国の道を歩むよりは、地域でリーダーシップを示すゲームチェンジャーになる気概を示したほうが良いのである。
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この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト
京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。