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.国際  投稿日:2017/7/15

カタール断交 次の標的はオマーン


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・サウジの“対イラン硬化”がカタール断交の原因。

・オマーンは米・イラン関係修復の仲介役。原油・天然ガス輸出でもイランに依存。

・イエメン内戦はサウジとイランの代理戦争。イラン寄りのオマーンはサウジの断交の次の標的となりうる。

 

問題が膠着すると、中立のオマーンはサウジから見て親イランであり断交の対象となりうる。

■ 次はオマーンのわけ

6月5日、サウジ、UAEほかがカタールを断交した。その名目はテロ集団を支援したことがあり、親イラン的立場や報道があったことも理由となっている。

その背景にはサウジの対イラン強硬化がある。柔軟な現実主義からの脱却といってよい。15年に新国王が即位して以降、サウジの対イラン態度は柔軟性を失い、単純教条化している。15年に始まったイエメンへの度を越した介入や16年のイラン断交といったものだ。その流れにあるのがカタールとの断交である。

その矛先が次に向かうとしたらどこか?

オマーンである。なぜなら、サウジやUAEからみてカタール以上に親イランだからだ。オマーンは宿敵イランと米国の関係改善を仲介する立場にあり、経済上の問題からもイラン協調策を採らざるを得ず、イエメン内戦でもサウジ側の立場に立たない。

平時ならオマーンの態度は問題ともならない。サウジもオマーンの立場からして当然と考え、イランとの交渉チャンネルとして重宝とも考える。

だが、サウジはイエメン内戦の膠着に欲求不満を抱えている。その打開や解決として合理性を持たないカタール断交を選んだとすれば、次の目標はオマーンとなる。

 

■ イラン擁護と仲介

今日のサウジにとって、オマーンは親イランに見える。

なぜなら米国とイランの関係改善を図るからだ。オマーンにとって米国とイランの対立は好ましくない。両国関係の悪化はホルムズ海峡周辺の緊張につながり、オマーンとイランの商取引にも影響する。

だが、今のサウジにとっては利敵行為である。せっかくのイラン包囲網を無効とするからだ。サウジは5月20日のトランプ訪問により、米国の対イラン関係改善を頓挫させ、イランを孤立させたと考えている。実際に米国とイランの間は再び緊張関係にもどりつつある。この状況では米国とイランを仲介するだけでもイランを利する行為に見える。

だが、オマーンはそれをしなければならない。

ホルムズの緊張は外交安保だけの話にとどまらないからだ。緊張は経済に止めを刺す可能性もある。オマーンの石油・天然ガス輸出はイランとの通商、具体的には天然ガス輸入で支えられる構造にあるからだ。

 

■ 原油・ガス生産での協力

オマーンは原油・天然ガス生産でもイランとの協調を進めなければならない。これも今のサウジに親イランを印象づける。

オマーンの油田には老朽問題がある。涸渇といってもよい。自噴段階を終え、加圧による二次回収段階も終わった。その採掘量ピークは2000年頃であった。

このため新油田探索や高度技術による3次回収が必要となる。新しい油田やガス田を見つける、あるいは従来油田の中の取り残しを高度技術で回収する手法だ。

そのうち後者にはイランとの協力が必須である。オマーンの油田では熱攻法、水蒸気を油井に吹き込み重質油を軟化させ地層から剥ぎ取る方法が検討されている。そしてその熱源となる天然ガスは不足しており、イランから海底パイプラインで賄う予定である。

そもそも天然ガスが不足している。LNG(液化天然ガス)輸出にもイラン産ガスが必要だ。オマーンは石油化学プラントでの原油精製やアップグレードに力を注いでいる。この操作にも天然ガスを使う。結果、自国産天然ガスでは供給不足となり、長期契約のLNG輸出分の確保も厳しいからだ。

ちなみにイランからの天然ガス輸入量は年10bcm(100億立法メートル)とされている。これはオマーンの年間LNG輸出量とほぼ同等である。イランから輸入しなければ老朽油田からの3次回収と石油プラントを諦めるか、LMG輸出を諦めるかの二者択一となるということだ。

 

■ イエメン問題での中立

最後がイエメン問題でオマーンはサウジ寄りに立たないことだ。イエメンの内戦はサウジを筆頭とする汎スンニズム陣営とイランの代理戦争である。そしてオマーンはそこでも中立、仲介者的立場をとっている。

これはサウジとイランの2つの地域大国の間に位置した宿命だ。当然ながらどちらの味方もできない。片方の味方をすれば残り片方の敵となる。

また、イエメン各勢力に対しても中立をとる。内戦後を考えればそうなる。片方への肩入はもう片方の恨みを買う。隣国に反イエメン勢力を作ることにつながる。

だから中立の立場で仲介者として振る舞っている。宗派的にもイバード派であるため、スンニ・シーアの対立から距離を取れる立場にある。

だが、この中立的立場も今のサウジからすれば親イラン的にも見える。サウジはイエメンの泥沼化に焦燥呻吟している。軍事的にはサウジとの対テロ協力に協力しながら、イエメンでのサウジにとってのテロ組織、フーシ派との戦いに参加しないオマーンは中立よりも親イラン的にも見えるだろう。

 

■ 中立であることを敵視

以上が、オマーンが親イランとしてサウジに敵視される要素である。

繰り返すが平時であればそのような見方はしない。サウジからしてもオマーンの立場は理解される。また、イランとの交渉チャンネルとしても利用できると考える。

だが、現状のサウジは冷静さを欠いている。

そもそもカタール断交や経済封鎖そのものが合理的判断ではない。今となってもその理由も明瞭ではない。

強いて言えばイエメン介入失敗を糊塗するものだろう。そのためサウジ政府は国内指導力の陰りを招いていた。そこにトランプがサウジを訪問し、イエメン内戦にも使用される武器弾薬の売却を認めた。これでイエメン問題にアメリカの後盾が得られたと新皇太子が判断した。この外交的成功を国内に見せつけるため親イランやテロ支援を理由にカタール断交に打って出たものだ。

その点からすれば、それ以上のイラン協調派であるオマーンも何かの失敗の埋め合わせに断交される。サウジはイエメンだけでなく、パレスチナ、シリアでも親イラン勢力との代理戦争をしている。そこで何らかの失敗を犯した場合、サウジはそれを糊塗するためオマーンを第2のカタールとしてやり玉にあげるかもしれない。

トップ画像:左)サウジアラビア王国 国王サルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ・アール=サウード、

右)カタール国 首長 タミーム・ビン・ハマド・アール=サーニー Photo by Chuck Hagel


この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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