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.国際  投稿日:2017/7/25

きな臭い中東 倒閣運動真っ盛りの日本


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#30(2017年7月24-30日)

【まとめ】

・ヨルダンのイスラエル大使館で発砲事件発生。

日本は国際情勢に関係ない獣医学部「新設」や陸自PKO部隊「日報」の議論に終始。ポピュリズムの足音。

ロシアゲート続く。トランプ氏娘婿上院情報特別委員会で非公開で証言。

 

ヨルダンにあるイスラエル大使館で先週末発砲があり、ヨルダン人2人が死亡、イスラエル人1人が負傷した。17歳のヨルダン人が工具のドライバーを武器にイスラエル人警備担当者を襲ってきたという。イスラエル国内なら発砲は当然だろうが、場所はアンマンだ。ヨルダン民衆の反応が非常に気になる。

ヨルダンはヨルダン川東岸にあり、人口の過半数はパレスチナ人だが、既にイスラエルと平和条約を結んでいる。万が一、このヨルダンが不安定化すれば、地中海東岸の中東地域は大混乱になる。このような穏健でまともなアラブの国になぜ石油や天然ガスが出ないのか。アッラーは慈悲深いはずなのに。

一方、日本では国際情勢に関係のない獣医学部の「新設」や陸自PKO部隊の「日報」の議論に明け暮れている。誰もこれで良いとは思っていないだろうが、これはもう理屈ではない。政局や倒閣運動にしたい人々がいるのだろう。内政にコメントはしないが、やはり日本にもポピュリズムの足音が聞こえ始めた。

 

〇欧州・ロシア

24日から英米の政府関係者がイギリスEU離脱後の米英FTAについて話し合うという。翌25日に欧州委員会は、ドイツがノルドストリーム2というパイプラインでロシア天然ガスを購入する問題について議論するそうだ。これを見ていると、やはりドイツは「欧州」だが、英国は「欧州」ではないと痛感する。

米副大統領が28日からエストニア、ジョージア、モンテネグロを訪問するという。いずれも小さな国だが、ロシアとの関係では重要な役割を果たし得る国々ばかり。トランプ氏ではなく、ペンス氏のような「サプライズのない」要人を派遣して、米外交を安定化させることはとても重要だと思う。

 

〇東アジア・大洋州

 24日に中国共産党が、孫政才・前重慶市共産党委員会書記「重大な規律違反の疑い」で調査すると正式発表したそうだ。「重大な規律違反」とは汚職を意味するのだが、それではこの種の規律違反をしていない主要幹部が一体どこにいるのだろう。つくづく日本に生まれて良かったと思う。

27日は朝鮮戦争休戦協定の署名日であり、あれから64年経った。そう、1953年は筆者が生まれた年だから覚えやすい。その北朝鮮では26日から始める予定のビール祭りが中止されたという。昔平壌で飲んだ「大同江」ビールは実は予想以上に美味しかった。旱魃の悪影響はここまで及んでいるのか。

 

中東・アフリカ

24日にイラク外相がインドを訪問、25日にはリビア政府関係者がパリを訪問してマクロン大統領と会談するという。このところ中東では大きなニュースがない。シリア内戦はどうか、モスル陥落後のイラクはどうか、スンニーアラブ主要国の対カタル経済制裁はどうなのか。水面下で動いている兆候はないが・・・。

 

南北アメリカ

ロシアゲートの関連で、24日、トランプ氏の娘婿が米上院情報特別委員会で非公開で証言した。クシュナー氏は証言に先立ち、大統領選中から複数回、ロシア政府関係者と面会していたことを明らかにする一方、ロシアとの共謀を否定する声明を発表したそうだ。しかし、証言は宣誓なしの非公開。これでは疑いは晴れないだろう。

 

〇インド亜大陸

インドの安全保障担当補佐官が26-27日に中国で開かれるBRICSの安全保障担当補佐官会議に出席する可能性があるという。何が話し合われるのやら。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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