[藤田正美]深まる先進国と新興国の対立〜新興国の経済が打撃を受ければ、そのツケは先進国にも回ってくる
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
執筆記事|プロフィール|Website|Twitter|Facebook
2月22、23日、シドニーで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議。経済成長目標を5年間で2%底上げするという初めての「数値目標」を設定した。2008年秋のリーマンショック以降、経済危機にはG20で当たるという構図が定着してきた。しかし、今回の会議は表面は取り繕ったものの、新興国側は先進国とりわけアメリカに対する不満がいっぱいだった。
新興国側の不満は、超金融緩和を推進してきたアメリカが、経済が好転してきたからといって緩和の縮小を決めたことにある。昨年からアメリカで緩和縮小が話題になるたびに、新興国の通貨は揺れ動いてきた。インド、インドネシア、アルゼンチン、ブラジルなどでは、為替が下がり、株価も下がった。その結果、新興国の成長が不安定になっているというのである。
新興国側にしてみれば、リーマンショックで大打撃を受けた先進国をカバーして世界経済を牽引してきたのは自分たちだという自負もある。それだけに先進国の都合で振り回されるのはがまんならないということだろう。
とはいっても、超金融緩和というのは非常手段であり、どこかで正常な形に戻さなければならない。これだけマネーを市場に流し込めば、いずれバブルが発生することは明らかだ。というより、すでに先進国の国債はバブル状態だと言ってもいい。
アメリカでは住宅ローンの融資額がリーマンショック前の水準に戻った。これは景気回復のサインでもあり、また同時に、住宅がバブルっぽくなっていることの証でもある。しかし、アメリカが緩和縮小すればドル資金の流れが大きく変化する。1997年に始まったアジア通貨危機は、まさにドルの流れが大きく変わったことで引き起こされた。
超金融緩和からの出口戦略を決めたアメリカ、金融緩和を継続する日本、さらに緩和を拡大するかどうかを検討するヨーロッパ、そしてそれらの動きに翻弄される新興国。この構図はしばらく続くのだろうと思う。
ただ、現在の段階にいたっても、現在のような政策で経済が成長力を取り戻すことができるのかどうかはよく分かっていない。何と言っても、現在のような通貨制度になって、現在のようなジャブジャブの金融緩和というのは例がないからである。こんなに市場に資金を供給してコントロールできないようなインフレにならないのだろうか。日本はインフレ率2%を目標にしているが、そこで抑えられるという保証はどこにもないのである。
それに世界で需要が増えるのは、やはり人口も増える新興国であって、先進国ではない(先進国で人口が増えているのはアメリカとフランスぐらいのものだ)。先進国の緩和縮小で新興国の経済が打撃を受ければ、やがてそのツケは先進国にも回ってくる。世界経済がどのような形で成長力を取り戻せるのか、その姿はまだ誰にも見えていないようだ。
【あわせて読みたい】
- 日本経済は自律的な成長力を取り戻すことができるか?〜11兆円という巨額の貿易赤字が金融緩和にとっては大問題 (藤田正美・元ニューズウィーク日本版編集長)
- 海図なき世界経済(藤田正美・元ニューズウィーク日本版編集長)
- 経済三団体・新年賀詞交換会でのスピーチに見る「別人のように生まれ変わった」安倍総理〜回復基調にある日本経済に浮かれず、先を見据えた行動を(安倍宏行・ジャーナリスト)
- 圧倒的な景気回復の実現しか延命できないという命題が課せられた安倍首相(角谷浩一・政治ジャーナリスト)
- 外交・安保カレンダー(2014年2月24日-3月2日)(宮家邦彦・立命館大学客員教授/外交政策研究所代表)