[古森義久]<ロシアのウクライナ侵攻>口頭だけの警告や抗議に終わる?オバマ政権の動向が抱える危険性
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
ロシアが隣国ウクライナへの軍事介入を始めた。国際的な危機である。どんな理由があるにせよ、一国が他国に軍事侵入することはいまの国際秩序では無法な行為とされる。しかも3月2日の現状ではロシアはウクライナの一角を軍事占領しようとしているのだ。
こんなときに注視されるのは超大国アメリカの出方である。アメリカに自国の防衛をゆだねている日本にとって、こんな事態でのオバマ政権の対応には真剣な関心を向けざるをえない。もし中国が尖閣問題などで日本に軍事攻撃をかけてきたら、アメリカはどう動くのか。日米安保条約の誓約をきちんと守り、中国軍と戦ってまで日本を防衛するのか。
ただし日本はアメリカの同盟国である。ウクライナは同盟国ではない。だがアメリカの友好国とはいえる。明らかに米欧に顔を向けたウクライナがロシアに事実上、占領され、その支配下に入れられるのをアメリカはただ黙ってみているのか。
ウクライナはもともとロシア主体のソビエト連邦の一員だった。ソ連邦が崩壊した1991年に独立を宣言した。だが国内に多数のロシア人を抱え、長い国境を隣接させるロシアの影響圏からは出ていなかった。それがここにきて、ウクライナにはアメリカや西欧への急接近を求める新政権が登場してきたのだ。ロシアとしては放置できないと判断したのだろう。だからといって、軍事介入が許されるはずはない。
こういう状況下ではアメリカは「世界の警察官」とまではいかなくても、超大国としてのグローバルな責任を果たすという前提で強い対応策をとるのがこれまでの例だった。その対応にはときには軍事手段までが含まれた。軍事侵攻を抑えるのは軍事抑止というわけである。戦争こそ避けるべきだが、その前段階で相手の軍事的な攻撃や攻勢を力強い方法で未然に防ぐのが抑止である。
だがオバマ政権はその種の対外的な抑止や介入を極端に嫌う傾向がある。ロシアに対しては3月2日までにオバマ大統領やケリー国務長官が軍事介入への反対を伝え、もし軍事侵攻が広がるような場合、「ロシアに代償を払わせる」という警告を発した。だが米軍にロシアへの軍事圧力や危機に備える警戒を示す動きへの命令は下っていない。
このままだと単に言葉だけ、口頭だけの警告や抗議で終わってしまいそうなのだ。そうなると、軍事力を使っての他国に対する攻勢、圧力、威嚇という行為には、従来の超大国アメリカからの阻止、抑止の動きがもう起きないという危険に満ちた新国際体制の出現ともなりかねない。
日本にとってはきわめて気になるアメリカの変容、そして世界全体としても超大国アメリカの秩序維持の動きがすっかり減ってしまう新たな不安定の時代の到来ともなりそうなのである。
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