仏、路上セクハラにNO!
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・フランス、路上セクハラに対する法整備検討へ。
・背景にセクハラ被害を告発する#Metoo運動がある。
・「日常的な性差別」の解消が期待される。
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ハリウッドにおけるハーベイ・ワインスタインのセクハラ問題から端を発し、去年から世界中でセクハラ抑制に対する関心が高まっていますが、現在フランスではセクハラはセクハラでも、仕事上の関係で起こるセクハラではなく、路上で体つきや外見に関してわいせつな言葉をかけるセクハラに対する法の整備が検討されています。
▲写真 ハーベイ・ワインスタイン氏 出典:photo by David Shankbone
この活動の中心になっているのは、マルレーヌ・シアパ女男平等担当副大臣。フランスでは、仕事上のセクハラに対してはある程度の法の枠組みができていますが、路上でのセクハラに対してはほぼ処罰などの規則もない状態でした。
▲写真 マルレーヌ・シアパ女男平等担当副大臣 出典:在日フランス大使館
そこで、昨年の10月から法案に対しする意見交換が始まり、現時点では路上でのセクハラの定義の議論が十分つくされ、セクハラが行われた時には90ユーロから750ユーロの罰金を科すことなどがまとまりつつあります。
10月と言えば、法案への抗議ではないものの、女優カトリーヌ・ドヌーヴが行き過ぎた「#Metoo運動」に対して苦言を言いはじめた時期でもあります。その後今年に入りドヌーヴ氏をはじめとするフランスの女性100人と共に「口説く権利」を主張する書簡をルモンド紙に寄稿し、世界中で大きな波紋を呼んだことは記憶に新しいところ。
▲写真 カトリーヌ・ドヌーヴ 出典:クリエイティブコモンズ
書簡は、
「レイプは犯罪です。けれど不器用だったりしつこく口説いたりするのは罪ではなく、また女性への気配りは男性優位主義による侵害でもありません」
という言葉から始まり、こうも続きます。
「#MeToo運動は被害者を生み出しています。女性の膝を触ったり、唇を奪おうとしたり、仕事絡みの夕食で『親密な』ことを話そうとしたり、その気のない女性に誘いのメッセージを送ろうとしただけで、仕事を失ったり、辞任を強いられたりしています」
日本語訳にすると分かりにくいですが、「口説く」に対応するフランス語は「Drague」と書かれており、ナンパなど、軽い言葉などで人を引き付けるような行為を意味する時によく使われる言葉ですが、そんなただ口説こうとしただけで、職を失うことになっている男性がいることを擁護する内容になっています。
しかしながら、路上のセクハラを検討しているシアパ副大臣はこの内容に、ツイッターで即座に反応。
「ここに書かれているようにフランスで“膝を触った”からと解雇された男性なんて1人も知りません。もし存在するなら紹介して下さい。」
J'aimerais savoir ce que vous en pensez Madame le ministre @MarleneSchiappa, votre opinion sur cet article déplorable https://t.co/NY4kk8eaio
— Asia Argento (@AsiaArgento) January 9, 2018
Chère @asiaargento
Je n’ai pas connaissance d’un homme qui aurait été renvoyé pour avoir « touché le genou d’une femme » par inadvertance en France comme décrit ici mais s’il existe, qu’on me le présente…! https://t.co/nRE6WtpTiD— MarleneSchiappa (@MarleneSchiappa) January 9, 2018
▲シアパ副大臣Twitter
要するに、シアパ副大臣が言いたいことは、ただ口説こうとしている「Drague」を問題にしているわけではないことを伝えたかったのだと思われます。#MeToo運動も、路上でのセクハラに対する法案も、セクハラ「Harcèlement sexuel」もしくは性的暴行「Agression sexuelle」を対象にしているのです。
また、この件に関してはシアパ副大臣は、ブルームバーグのインタビュー内でも、「単なる口説きと」と「路上のセクハラ」の違いについてこうも語っています。
「路上で声をかけたり、お世辞を言ったり、かわいいねと言うのには問題ありません。でも、後を付けたり、脅されたりすることは明かに嫌がらせです。」
「フランスにはフランス流の愛が存在し、フランスの一部の女性の間では、いまだに路上で声をかけられることは映画ワンシーンのようでロマンティックなことだと考える人がいますが、それは現実でありません。」
確かに、中にはロマンティックに声をかけられることも存在するのでしょうが、いつもそうとは限りません。フランスにいるとジョギングしているだけでも卑猥な言葉と共に口笛を吹かれ、ベンチに座って本でも読んでいれば突然隣に座ってきて性的行為をしようとをささやいてくるなどということが、日本よりも頻繁に起り、不快に感じたり、恐怖を感じることすらあります。
シアパ副大臣は、路上のセクハラの延長には強姦などの性的暴力に続く可能性も指摘します。フランスにおいて性的暴力として警察に届けられ裁判にまで至ったケースがこの12か月で17000件に上り、一日46件という多さ。しかも、その数は毎年約10%ずつ増え続けているのが現実なのです。
去年、Odoxaによって行われた調査によれば、生涯のうちでセクハラもしくは性的暴行にあったことがある女性は53%いると言う結果が出ています。また、91%の人が「セクハラは深刻な社会問題」と考え、路上のセクハラ防止法が必要だと考える人が80%を占めており、この法案に多くの人が賛成していることは間違いないようです。
ただし、「口説き」と「セクハラ」の定義は難しいところで、アンケート内でも大抵の項目では、ハッキリと違いを認識している人が多いものの、例えば口笛を吹かれることに関しては、「口説き」程度と受け止める人が51%、「セクハラ」以上と考える人が46%と微妙な結果となっています。こういったことから、路上のセクハラの定義に対しては慎重に論議されています。
ところで、この路上のセクハラの法案をまとめるシアパ副大臣ですが、実は彼女こそ路上で受けるセクハラを始め、「フランスの女性が受ける現実」と戦ってきた人物と言っても過言ではないでしょう。
学生時代には、通学時に路上で毎回かけられる卑猥な言葉に耐えられず、通学経路を変えざるをえないことも経験したと言います。
また、23歳で結婚し、当時は広告会社で働いていましたが、夜遅くまで働くという生活であるのにもかかわらず保育園で預かってくれるのは18時まで。子供の世話をするために会社を辞めざるを得なかった経験も。
▲写真 出典:photo by Marvirbar
その後も、働いてない状態では子供を預かってくれる日数も限られており、いろいろな集まりに参加しても子供を連れて行かなければいけない状態。しかし子どもを連れているのは彼女だけということが多く、その場にいる人たちから「君の態度は真剣じゃない」と非難されることもあったそうです。
フランスは保育環境が充実していて、子供を預けることにまったく問題がないように報道されることも多いですが、実際は保育園も保育ママなどの環境も足りず、もちろん時間の制限もあります。
フランスでも、会社の面接での受け答えを学ぶ講習会では、「子供が病気になっても見てくれる人がおり、預かってくれる場所があるので一切問題はないと言い切りなさい。嘘でもそういうべきです。そこで躊躇すると雇い主に不安を与え、好印象を残せません。」と何度も念を押されることからもわかるように、働くために子供を預けられる場所がなく不安になったり、苦労している女性は今でも多く存在するのです。
そこで、多くの同僚たちが仕事と家庭の間で葛藤していることに気づいた彼女は、働くママが効率よく毎日を過ごせるアドバイスを交換できる場を作りたいと思い『Maman Travaille(働くママ)』というブログを立ち上げました。夫婦間でのバランスの保ち方、保育所の空きスペースを見つける方法など、ママの悩みへのアイデアをみんなで分け合ったのです。
▲写真 出典:クリエイティブコモンズ
1年に1回スピーカーを招いたイベントを開催し、政治家とママたちが交流する場を設けるようにもなり、今日ではフランス中に約1万人のメンバーがいる大きなネットワークを構築。こういった経歴が後押しとなり今の女男平等担当副大臣に抜擢されたと言っても過言ではありません。
現在でも続けられている『働くママ』活動のフェイスブック の中には、「日本でもこういった活動が行われています。私達もかんばりましょう」と言う言葉と共に、「日本における保育園を増やす運動」に関する記事も取り上げられていたりもします。
シアパ副大臣は、理想という盾におおい隠され外からは見えないところで犠牲になってきた女性の一人であります。が、しかし、彼女が違ったところは、隠された状態でいることを拒否し、現実を世間に知らしめ続けたところ。
こういったことからも、現実をしっかりと受け止めた上で、本当に助けになる案を構築し、「女性が生きていきやすい社会」を作ろうとしている熱意が見えてくるのではないでしょうか。
▲写真 出典:クリエイティブコモンズ
「日常的な性差別」解消を目的とした路上でのセクハラに対する法案を実現することで、少しでも女性が生きやすくなる社会になることが期待されます。今後この法案が実際に実現するのか、どのような影響を及ぼしていくのか気になるところです。
トップ画像:Photo by Jean-François Gornet
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。