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.国際  投稿日:2018/4/1

中国軍弾道ミサイル、日本をも狙う ハリス太平洋統合軍司令官証言 その2


森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・中国軍は弾道ミサイルの基数、精密度で劇的な進歩。

2020年に中国がロシアを抜き、世界第2位の海軍大国となる?

・空軍は第五世代戦闘機配備へ、陸軍はより高効率な活動へ。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合は、Japan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39267でお読みください。】

 

アメリカ太平洋統合軍のハリー・ハリス司令官による3月15日の連邦議会上院軍事委員会公聴会での証言は、アメリカや日本にとっての中国の軍事的な脅威を詳述していた。

この証言の詳報を続ける。

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▲写真 ハリー・ハリス米太平洋統合軍司令官 出典 United States Navy

 

ミサイル

中国軍は弾道ミサイルの分野で最も劇的な進歩を示している。中国軍は弾道ミサイル各種すべての基数、型式、精密度などを高めているが、中距離弾道ミサイル(IRBM)の技術の進歩が最も顕著だといえる。中国軍のミサイル戦力全体のなかで、このIRBMはほぼ95%をも占めるようになった。

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▲写真 中国 中距離弾道ミサイル DF-3/CSS-2 出典 Missies Defense Advocay Alliance

中国のメディアは定期的にミサイル開発を大々的に宣伝するが、その際は注意深く、それらミサイルが特定の国を標的にはしていないことを強調している。しかし各種ミサイルの飛行距離を実際の地理に置き換えてみると、どのミサイルがどの地域を標的としているかが、明らかとなる。

短距離弾道ミサイル(SRBM)台湾と米海軍空母機動部隊の海上活動を標的とする。IRBMは日本国内の米軍基地とグアム島、ICBM(大陸間弾道ミサイル)はアメリカ本土を標的とするわけだ。中国軍の高度の超音速ミサイル技術の追求は今後数年間、アメリカ側にとってさらに大きなチャレンジとなる。

 

【海軍】

中国人民解放軍の海軍はいままさに大規模な造船計画の真っただ中にある。もしこの計画が予定どおりに進めば、中国はロシアの世界第2の海軍大国の地位を2020年には奪うこととなる。つまり潜水艦やフリゲート艦、さらにそれより大型の艦艇の規模で、ロシアを追い越すということだ。

誘導ミサイル巡洋艦の055型(人海型)一番艦は2017年6月に進水した。この艦は多目的戦闘の先進艦艇の先頭となり、2019年には実戦配備されると予測される。少なくともさらに4隻のこの級の艦艇が建造されつつある。

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▲写真 中国 誘導ミサイル巡洋艦055型(想像図) 出典 星海军事

さらに誘導ミサイル駆逐艦の052型(旅洋型)6隻がすでに活動を開始しており、さらに同型7隻が建造中、あるいは改装中である。

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▲写真 誘導ミサイル駆逐艦052C型(旅洋Ⅱ型)出典 U.S Coast Guard photo by Petty Officer 3rd Class Manda M. Emery

中国海軍の水陸両用作戦の能力も増強されている。水陸両用の上陸作戦の能力を有するドック型輸送揚陸艦の071型(玉昭型)計4隻がすでに既存の艦隊に編入された。攻撃用ヘリコプター搭載の強襲揚陸艦の075型の一番艦も建造中である。

2017年10月には中国は高速戦闘支援艦の901型の一番艦を完成させた。この艦艇は中国の航空母艦を支援するために特別に設計された最初の兵站用の艦である。中国の第二の航空母艦は大連港にあり、試験航海に出ようとしている。

建造中の新しい潜水艦は039A型(元級)さらに5隻と、攻撃型原子力潜水艦の093型(商級)がさらに4隻を含む。これらの艦艇はすべて改善された通信機器と、より破壊力が強く、長距離の兵器類の装備を誇示している。

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▲写真 039A(元級)クラス攻撃潜水艦 出典 United States Naval Institute News Blog

 

【空軍】

中国人民解放軍の空軍と海軍航空部隊の発展は新しい航空機の出現にはあまり依存していない。だがいくつかの注目すべき展開はある。空軍力と防空能力の進歩は作戦訓練の練度の高まりに顕著にうかがわれる。中国軍の爆撃機が数年前に、フィリピン海、日本海、南シナ海などの上空で試験爆撃の飛行を始めたとき、その演習はきわめて基礎的な範囲を出なかった。

だがいまでは同じ爆撃演習でも、護衛の戦闘機や空中給油機を含む特別な支援航空機群がともに活動する姿が認められる。主要な演習活動では敵味方に分かれた練度の高い対抗部隊や評価担当者たち、そしてより効率の高い挑戦や能力評価の手段がみうけられるようになった。

J20(殲20)多目的戦闘機プログラムは開発とプロトタイプの段階から作戦使用への段階へと前進した。J31(殲31)ステルス戦闘機のプログラムはJ20よりも緩い速度で進んでいるようだ。だがこの両プログラムは中国軍が第五世代の戦闘機をここ数年のうちに配備できる能力を持つことを示している。

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▲写真 J20(殲20)戦闘機(2016年11月1日撮影)出典 Alert5

新鋭の大型輸送機のY20(運20)は人民解放軍にとって長年の課題だった中国領内や諸外国の遠隔地へ部隊や兵器を運ぶための能力を大幅に高めることとなった。性能を改善された爆撃機、電子戦能力、司令と統制の強化、対潜哨戒機の充実などは、みな中国軍の広範な領域での軍事作戦の実行を可能にする。

 

【陸軍】

中国陸軍の地上部隊はなお全体の再編成の最中にある。同陸軍は年来の師団規模から戦闘集団軍規模の組織へと移りつつある。このより柔軟な、統合された戦闘態勢は中国陸軍により正確に、幅広く多様な有事事態に対応できる能力を与えることになる。

陸軍部隊は演習でも未知の地域で、難しい条件下、異なる環境下でも、より効率の高い活動ができるようにする目標へと進みつつある。人民解放軍海兵部隊の拡大も続き、全体として2個旅団から8個旅団へと増えた。だいたい2個旅団がそれぞれほとんどの戦区司令部に配備されるようになった。この陸軍海兵隊の一隊は昨年夏から、中国軍の初の海外基地のジブチに駐屯するようになった。

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▲写真 ジブチへ出発する人民解放軍兵士(広東省湛江)2017年7月11日 出典 China Military

その1の続き、その3につづく)

トップ画像:ハリー・ハリス司令官 出典 U.S. Pacific Fleet

 

【訂正】2018年4月2日

本記事(初掲載日2018年4月1日)の本文中、「このTRBMはほぼ95%をも占めるようになった」とあったのは「このIRBMはほぼ95%をも占めるようになった」の間違いでした。お詫びして訂正いたします。本文では既に訂正してあります。

誤:中国軍は弾道ミサイルの分野で最も劇的な進歩を示している。中国軍は弾道ミサイル各種すべての基数、型式、精密度などを高めているが、中距離弾道ミサイル(IRBM)の技術の進歩が最も顕著だといえる。中国軍のミサイル戦力全体のなかで、このTRBMはほぼ95%をも占めるようになった。

正:中国軍は弾道ミサイルの分野で最も劇的な進歩を示している。中国軍は弾道ミサイル各種すべての基数、型式、精密度などを高めているが、中距離弾道ミサイル(IRBM)の技術の進歩が最も顕著だといえる。中国軍のミサイル戦力全体のなかで、このIRBMはほぼ95%をも占めるようになった。


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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