超強硬派ボルトン登場 どうなる「予防攻撃」
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018#14
【まとめ】
・トランプ政権、対外強硬派ポンペイオCIA長官とボルトン元国連大使を指名。
・米国では既にボルトン式「予防攻撃」の功罪が議論されている。
・中国と北朝鮮間の不信感は相当根深い。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのhttp://japan-indepth.jp/?p=39296でお読み下さい。】
今週はリトアニアの首都ヴィリニュスで原稿を書いている。先週の大事件は金正恩の「電撃」北京非公式訪問だったが、この点については後で詳しく触れたい。その前に、まずはこのバルト海三国の南端にある人口300万の美しい小国について書こう。あの「命のビザ」で有名な杉原千畝が赴任していた国といえばピンと来るだろうか。
写真)杉原千畝氏
出典)パブリック・ドメイン
Wikipediaには「ポーランド、ラトビア、ベラルーシと国境を接し」とあるが、実のところリトアニアは、ポーランドの北でバルト海に面したロシアの飛地領「カリーニングラード」とも国境を接している。この飛び地、元はプロイセンの首都があった所だが、戦後ソ連がちゃっかり占領し、現在に至っている。流石はソ連・ロシアだと感心する。
地図)リトアニアの位置
出典)パブリックドメイン
ちなみに1992年、当時のエリツィン大統領は「ヤルタ会議で議論した通り、この地はポーランドに譲渡されるべし」と述べたそうだが、96年にポーランドがNATO加盟を求めた途端、同発言は撤回された。ヴィリニュスは旧市街の美しい町だが、ベラルーシとの国境までは車で半時間程度、ロシアが入ってきたら彼らは本気で戦うのだろうか。
写真)ロシア連邦初代大統領 ボリス・エリツィン氏
出典)Presidential Press and Information Office
ウクライナの次はバルト三国だという向きもあるが、いずれにせよ、ロシアの凄いところは、一度軍事介入を決めたら、徹底的に実行すること。これに対し、トランプ政権はティラーソン国務長官、マクマスター補佐官を解任し、対外強硬派のポンペイオCIA長官とボルトン元国連大使を指名したが、新体制の戦略的方向性は見えてこない。
中朝、南北、米朝首脳会談につき、日本では「東京は蚊帳の外」で「外されている」などの自虐的評論が多い。だが、米国では既にボルトン式「予防攻撃」の功罪が議論されていることの方が気になる。北朝鮮の核施設などに対する予防攻撃が吉と出るか、凶と出るか、凶ならばどの程度の損害まで耐えられるかといった恐ろしい議論だ。
推進派は、攻撃を受けた北朝鮮は反撃できず、事実上核開発を中断する、その後の交渉では、核開発の断念を含む、米国に有利な形での解決も可能、と主張する。これに対し反対派は、予防攻撃は必ず北朝鮮側の報復を招き、第二次朝鮮戦争が始まって、朝鮮半島は壊滅的打撃を受けると反論する。
もう一つ、日本であまり議論されないのがイランとの関係だ。ボルトン氏は中途半端だとしてイラン核合意にも反対しているが、このまま米朝首脳会談が開かれ「中途半端な」合意が結ばれたら、ボルトン氏はどう説明するのか。詰めていけば、イランも、北朝鮮と同様、武力行使による「体制変更」しかないとの結論に至る恐れすらある。
〇欧州・ロシア
4日からロシア国防省主催の第7回国際安全保障会議に参加する。中東、欧州、アジアの安全保障状況を議論するらしいが、どうなることやら。かなり大規模な会議らしく、筆者自身どの程度発言できるか分からない。しかし、ロシアの考え方を理解する上では良い機会だと割り切ることにした。議論の内容は来週ご報告する。
7-12日、オーストリアの大統領と首相が揃って訪中する。中国にとっては利用し甲斐のある国だから、大歓迎するのだろう。国内政治日程も、国会も気にする必要のない中国だからこそできる外交だ。これに対し、日本では首相が国会に張り付き、集中質疑を受けなければならない。日本に大国の外交ができない理由の一つがこれだ。
写真)オーストリア首相 セバスチャン・クルツ氏
出典)オーストリア政府
写真)オーストリア連邦大統領 アレクサンダー・ファン・デア・ベレン氏
出典)パブリックドメイン
〇東アジア・大洋州
金正恩の電撃訪中については「いずれ行われると思ったが、少し早まった」と考える。中国側発表で、習近平が今回の訪中を「戦略的な選択」「唯一の正確な選択」と表現し、金正恩も朝鮮の「戦略的選択」と応じていたのが印象的だった。要するに北朝鮮は中国に依存するしかない、これ以外の戦略的選択はないと中国は言っているのだ。
写真)金正恩労働党委員長と習近平国家主席
出典)中華人民共和国人民中央政府
更に、習近平は両国関係が「一時的な理由で変わることがあってはならない」、新情勢下で両国は「日常的な連絡を保ちたい」と述べた。筆者が深読みすれば、これは「一時的な理由で中国を外すな」「もっと日常的に連絡をしてこい」という厳しい対北朝鮮メッセージであるように思える。両国間の不信感は相当深いと再確認した。
〇中東・アフリカ
ガザで遂に死者が出た。3月30日、対イスラエル境界沿いで「帰還の行進」と呼ばれる抗議デモが行われ、イスラエル軍との衝突で少なくとも17人が死亡、1400人超が負傷したという。トランプ政権によるエルサレム首都認定に対する動きだが、デモは5月15日まで、6週間にわたり続くという。それでもイスラエルは対応を変えない。
〇南北アメリカ
最近、ジャヴァンカ(イバンカ夫妻のこと)がメディアに出てこない。権限を失い、昔のような影響力を失ったのか、それとも多くの批判を受けて「死んだふり」をしているのかは分からない。常識的に考えれば、彼らの動きが見えなくなっただけで、実質的な影響力は今も維持していると見るべきではなかろうか。
写真)韓国を訪問したイヴァンカ氏(2月23日)
出典)イヴァンカ氏インスタグラム
仮にそうであれば、彼らが北朝鮮問題で何をトランプ氏に囁いているかが大いに気になる。ボルトン・ポンペイオ的強硬論とマティス型慎重論の間で、ジャヴァンカは一体何を考えているのだろう。振り返れば、シリア化学兵器使用の際にトマホーク攻撃を進言したのはイヴァンカだった。このことを忘れてはならない。
〇インド亜大陸
特記事項なし。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
写真)ジョン・ボルトン氏
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。