北、核兵器開発本当に断念?
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー2018#17
2018年4月23-29日
【まとめ】
・北朝鮮は核実験と長距離ミサイル発射実験の中止を発表。
・最悪、北朝鮮が譲歩せず、経済改革開放や日朝関係正常化等の議論が動き出すかもしれない。
・ 北朝鮮が容易に核兵器開発を断念するとは思えない。南北首脳会談に注目。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39580でお読みください。】
先週、北朝鮮は核実験と長距離ミサイル発射実験の中止を発表した。日本には、安倍政権は「蚊帳の外」で後手後手に回っている、全てが「アメリカ頼み」で主体性がないなどと批判する向きもあるが、幸い日本メディアの論調は今も北朝鮮に対する懐疑論が根強い。まだまだ日本の知識人は、一部例外を除けば、概ね健全だと感じた。
▲写真 訪米した安倍首相とトランプ大統領 2018年4月18日 出典 首相官邸
但し、北朝鮮の「微笑外交」により推測記事の自己増殖が始まった現状は決して楽観できない。今後も韓国大統領の前のめり姿勢が続けば、北朝鮮に対し必要以上に譲歩する動きが表面化するかもしれない。この点、最近のトランプ氏の発言の方が意外にバランスが取れている。これも、何時変わるかは分からないのだが・・・。
最悪の場合、北朝鮮が十分な譲歩をしないままに、
●南北首脳会談で朝鮮戦争の終結方法が真剣に議論され、
●米朝首脳会談で「非核化」プロセスに妥協が成立し、
●経済制裁の段階的解除の可能性が具体化し、
●平和条約締結やそれに伴う在韓米軍撤退議論が始まり、
●北朝鮮経済の改革開放や日朝関係正常化などの議論が十分な検証を伴わないまま動き出すかもしれない点は要注意である。
一方、北朝鮮が容易に核兵器開発を断念するとは思えない。一定期間経過後は希望が失望に変わり、信頼が不信に急変する時が来る可能性も十分あるだろう。当面はどちらに転んでも良いように、頭の体操を続けておく必要がある。その意味でも、今週27日に予定される南北首脳会談が注目される。
〇 欧州・ロシア
23-25日にメキシコ大統領が独蘭西を訪問する。24日には南米のメルコスールとEUが貿易協議を行う。25日には日本の外相がEUを訪問し、政治経済両面で協議を行う。
▲写真 ドイツメルケル首相とメキシコエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領 2018年4月23日 出典 メキシコ政府
アルメニアでは週末に検察が違法デモの容疑で野党勢力指導者を拘束したが、首都エレバンではその後も大規模デモが続いているらしい。問題は民主主義制度の下での長期政権維持の弊害だ。アルメニアは2015年の憲法改正で実質的政治権力が大統領から首相に移されたが、今回はその前大統領が退任後も首相として権力を維持していた。何のことはない、プーチン氏のロシアと同じ構図である。人々が怒るのも当然だろう。案の定、同首相は23日辞任を発表した。
▲写真 辞任を発表した、アルメリアのセルジ・サルキシャン首相 出典 photo by Saemia
〇 東アジア・大洋州
22日からスウェーデン国王夫妻が訪日している。実は本日、在京同国大使館で両陛下を含む150人のスウェーデン閣僚、ビジネスマンに対し日本の安全保障政策に関する説明を行う機会を得た。驚いたことに、これら行事の公用語は英語だった。しかも、極めて流暢な。筆者が参加していたからではない。スウェーデンは凄い国だ。
23日に米韓合同軍事演習「Key Resolve」が始まる。24日には上海協力機構の会合が北京で開かれる。26-27日にはASEAN首脳会議がシンガポールで開かれる。そして、27日には遂に南北朝鮮首脳会議が開かれる。今週も東アジアから目が離せない。
〇 中東・アフリカ
旧友のNYTコラムニスト、トム・フリードマンが次回シリアをめぐり戦争が起きるとすれば、それはイスラエルとイラン間で戦われることになるだろうと書いていた。同感である。日本ではシリアにおけるイラン、特に革命防衛隊の活動の重大さ、深刻さが過小評価されているように思えてならない。
現在イランはシリア国内に40カ所近い拠点を有しており、イスラエルに対する直接攻撃能力を高めつつある。先日の米英仏による限定攻撃に示されるように、米国は対露戦争の引き金ともなりかねない対イラン攻撃は念頭に置いていない。だからこそ、イスラエルによるシリア国内のイラン拠点に対する攻撃が懸念されるのだ。
▲写真 トム・フリードマン 出典 photo by Charles Haynes
〇 南北アメリカ
先週もトランプ政権は内政上のごたごたに忙殺されているようだ。特に、トランプ氏の個人弁護士が家宅捜索を受けたことは重大であり、彼が刑事事件の容疑者となる可能性もある。もし、この弁護士が司法取引を行って、トランプ氏またはトランプ陣営の内情を暴露したら、それこそワシントンに激震が走るだろう。
先週は前FBI長官による暴露本が炸裂した。「A Higher Loyalty」という題名も意味深ではあるが、内容的に新味はないようだ。コウミー前長官は現在出版ツアーで全米を回っている。この人の文章を読んでいると、米国の本当のエスタブリッシュメントはケネディ家やブッシュ家ではなく、米国の法曹界ではないのかとすら思う。
▲写真 ジェームズ・コミー氏 出典 Federal Bureau of Investigation
▲著:JAMES MOMEY「A Higher Loyalty」 出典 photo by James Comey
〇 インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ画像:河野太郎外務大臣と会談する文在寅韓国大統領 2018年4月11日 出典 韓国大統領府
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。