パリ、シェア自転車の憂鬱
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・パリは2007年から「Vélib’(ヴェリブ)」というシェア自転車を提供してきた。
・2018年から電気自転車の導入を検討するも、工事が大幅に遅れている。
・SNCF(フランス国鉄)のストも続く中、シェア自転車もトラブル続きでパリ市民は怒り心頭。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39703でお読み下さい。】
フランスのパリ市は2007年から「Vélib’(ヴェリブ)」と呼ばれるシェア自転車を提供してきましたが、より発展したサービスにするために2018年から電気自転車も導入したサービスのニューアルを施行。しかしながら現時点ではこの計画は「完全なる大失敗」と市民から酷評を浴びています。また4月に入り運営会社社員によるストがはじまり、状況はさらに悪化。現在、迅速な問題解決に向けて努力が続けられているところ。
パリでシェア自転車を運営することは、近年パリを悩ましている公害を減らすことも可能であり、その他にも観光客の足の確保、スト時の移動方法にも活用できるなど、多くのメリットがあります。しかし運営にはさまざまな問題もあり、解決するために工夫や対策は必須です。最初の年には自転車は6000台が破壊されました。2017年10月からパリでサービスを始めていた香港の「ゴービー・バイク」が、4カ月間で6割の自転車が破壊、窃盗、私用化され運営が困難な状況になったのも記憶に新しいところ。シェア自転車の運営には、より頑丈な自転車と盗難されにくいシステムの導入が不可欠でもあるのです。
▲写真 乱暴に扱われるシェア自転車 Clément C. twitter- https://twitter.com/ClemMTL/status/986138161356181504
そういった事情も踏まえ、公害対策を大きく推進してきたイダルゴ市長は2020年までにパリを自転車の首都にする一環として、問題を最小限にした上で多くの人が自転車でパリ市内を移動できるように、シェア自転車のリニューアルを計画。運営会社もモンペリエのSmovengo社に変え、より頑丈な自転車と、より優れたシステムを導入し、シェア自転車の規模拡大を目指し、自転車を止める駐車場を週60ステーションのペースで作ることを意気揚々と発表していました。が、しかし、まったくもって計画通りに進んでいないのです。
▲写真 アンヌ・イダルゴ パリ市長 Photo by A.Schneider83
新しく導入する電気自転車を充電するために使用するSmovengoシステムは、古いヴェリブステーションで使われていた電源よりも強力な電源が必要となります。そこですでに存在していたパリと郊外にある1230台のステーションを入れ替える工事が必要となるのですが、全運営会社からの移管も遅れたことが原因で入れ替え工事は大幅に遅れたうえ、新規のステーション建設も順調には進んでいません。4月までに1400建設予定だったステーションは、半分以下の668件しか達成されていないのです。
▲写真 Smovengo社の電気自転車 出典 Smovengo
その結果、システムの変更が始まった昨年の12月ころからヴェリブがまともに使用できない状態が続き、市民からも、「ずっと工事が止まっている」「システムが壊れていて自転車が使えない」「システムが作動していても車が壊れている」「サポートセンターに電話してもつながらない」と、不満の声が止まりません。
▲写真 2018年の1月18日には工事が終わっているはずのステーションが、4月21日になっても設置されていない様子 Benoit Salvi twitter- https://twitter.com/bsalvi/status/989449950051340288
すでに2月の時点でこの問題は報告されており、「計画を早急に進めようとしすぎたこと」「試用期間も設けなかったこと」「工事するのが難しいパリ事情が分かってなかったこと」などが指摘され迅速な対応を迫られていましたが、未だに解決ができておらず、Smovengoは非難の嵐にさらされています。
▲写真 Smovengo社製の電気自転車のキーボード 出典 Smovengo
さらに4月に入り、Smovengo社員による労働環境改善を求めたストが追い打ちをかけます。既にステーションが設置され自転車が置かれていたとしても、ストのためネットワークが接続されていなかったり、充電がされなくなったため、設置されたステーション668件ですら3分の2は動作しなくなりました。
▲写真 15台自転車があるのに、どれ一つとして動かない。Marine Gibert twitter- https://twitter.com/gbtmarine/status/985937113672749056
労働者のストの理由は労働条件の悪化。前運営者の元で働いていた時には日に12ユーロもらえていた食事補助が、1月1日から5.73ユーロに。夜間の残業代は45%アップだったのが10%アップに。週末に働いても給料は平日扱い。しかも作業に必要な道具も揃っていないと言う環境になったとの主張。それに対してSmovengoの最高経営責任者(CEO)は、労働条件は以前と変わっていないとの主張で、話し合いは平行線をたどっているのです。
すでにSmovengoは作業が遅れたことは契約違反として罰金が課されており、取り急ぎスト期間中にダウンした2000台の自転車を復旧させることを手始めに、今後はバグの修正やシステムの改善、150人を新たに投入し5月末までに1000ステーションを、夏までには 1400ステーション達成を目指しているところ。また現在、1月から3月までにヴェリブの契約者については、払い戻しの受付も行われています。
9年もの間それなりに運用を実現し、観光客も、パリ市民もようやく生活に浸透してきたところで、この不手際。ありとあらゆる部分でフランスらしいと思わされることばかりですが、SNCF(フランス国鉄)のストも続いている中、シェア自転車もこの状態にため息がもれるばかり。これらの交通機関の問題は、どちらもバカンスまでに解消されることはなさそうで、パリ市民のイライラもしばらくは収まりそうにありません。
トップ画像:パリ市内 シェア自転車Vélib’ flickr Mauro Parra-Miranda
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。