netgeek「朝日新聞が首相動静を削除して“証拠隠滅”」は本当か?
楊井人文(FIJ事務局長・日本報道検証機構代表・弁護士)
【まとめ】
・「netgeek」が22日「【加計学園問題】朝日新聞、2015年2月25日の首相動静を削除」との記事掲載。
・その記事を朝日が「証拠隠滅のために削除した」というのは事実に基づかない誤報。
・新聞などの首相動静欄を各社で読み比べると情報が異なるため決定的な証拠にならない。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトでhttp://japan-indepth.jp/?p=40165で記事をお読みください。】
安倍晋三首相が2015年2月25日に加計学園の加計孝太郎理事長と面会し、獣医学部構想に関する話が出たことなどを記した文書が5月21日、愛媛県で見つかり、大きな波紋を呼んでいる。安倍首相、加計氏の双方が面会事実を否定する中、ウェブメディア「netgeek」は22日午後、「【加計学園問題】朝日新聞、2015年2月25日の首相動静を削除」と見出しをつけた記事を掲載。著名な作家などがツイッターなどで拡散している。
▲写真 加計孝太郎理事長 出典:加計学園HP
netgeekは、朝日新聞のニュースサイトで当日の「首相動静」記事が表示されなかったとする画像に大文字で「証拠隠滅」と記載。文中で「あろうことか朝日新聞は証拠と矛盾する首相動静の記録記事を削除した」と断じた。しかし、次の重要な事実を確認すれば、意図的に削除したとの指摘が事実と異なることがわかる。
▲写真 netgeekの投稿 出典:netgeek Facebook
第一に、朝日新聞は22日付朝刊で「朝日新聞の「首相動静」ではその日に安倍氏と加計氏が会ったという記載はない」と報じている。もし隠したいならそう書かないはずで、これ一つとってみても、朝日が特定の首相動静記事をニュースサイトからあえて削除したとは考えられない。
第二に、朝日デジタルのサイト内検索は「過去1年分」と記され、掲載後1年以上経過した記事はほとんど閲覧できない。netgeekが調べたとみられる2015年2月26日付紙面記事の一覧ページも、「首相動静 25日」に限らず、どの記事をクリックしても「お探しのコンテンツは見つかりませんでした」と表示される。試しに、朝日デジタルで「首相動静」の記事を検索した結果、最も古いのが2017年5月6日の分(7日掲載)で、それ以前はヒットしなかった(5月22日夕方現在)。2015年2月25日の首相動静が閲覧できないのも当然といえる。
ただ、ちょうど1年で自動的に削除されているわけではないとみられ、削除漏れのためか、閲覧できる記事も散見される。そのことをもって、netgeekはツイッターで「1年で削除される仕様ではなさそう」とつぶやき、現時点で記事の訂正、撤回はしていない。だが、朝日デジタルで「首相動静」を検索しても2017年4月以前の分はヒットしないことや、、朝日が自社の首相動静記事を隠さず報じていたことからすれば、「証拠隠滅のために削除した」というのは事実に基づかない誤報といえる。
▲写真 netgeekの投稿 出典:netgeek twitter
この記事を配信した投稿は1900回以上リツイートされ、作家の百田尚樹氏や雑誌「Will」編集部も拡散していた。Facebookの投稿も200回以上シェアされている。なお、netgeekは「2013年に開設された日本初のバイラルメディア」とされるが、運営元の詳細をウェブサイト上で公表しておらず、実態は不明だ。
主要な新聞・通信各社は日々、首相の動向を首相動静欄などで報じている。だが、記者の目に触れないように官邸などに出入りすることは可能とされ、メディアは全ての面会を把握しているわけではない。面会者の一部を省略することもあり、同じ日の首相動静欄を各社で読み比べると情報が異なることは珍しくない。過去には誤報もあり、決定的な証拠にならない。
安倍首相は面会の事実を否定しているが、菅義偉官房長官は「入邸記録は業務終了後速やかに廃棄される取り扱いとなっており、残っているか調査を行ったが、確認できなかった。残っていなかった」と説明している。
トップ画像/ファクトチェックカード
【訂正】2018年5月24日10:20
一段落目【誤】愛知県
【正】愛媛県
二段落目【誤】最も古いのが2016年5月6日の分
【正】最も古いのが2017年5月6日の分
五段落目【誤】朝日デジタルの閲覧期限が原則1年であることや、
【正】朝日デジタルで「首相動静」を検索しても2017年4月以前の分はヒットしないことや、
六段落目【誤】1700回以上リツイートされ
【正】1900回以上リツイートされ
あわせて読みたい
この記事を書いた人
楊井人文弁護士
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。弁護士法人ベリーベスト法律事務所所属。2012~2019年、マスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo」を運営。2018年よりNPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)理事兼事務局長として、ファクトチェックの普及活動に取り組む。2021年よりコロナ禍検証プロジェクトに取り組み、Yahoo!ニュース個人などで検証記事を発表。著書に『ファクトチェックとは何か』(共著、岩波ブックレット)。