.政治  投稿日:2018/10/29

フェイクニュースと報道の公平性 沖縄県知事選ファクトチェック

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Japan In-depth編集部(坪井映里香)

【まとめ】

・「沖縄県知事選ファクトチェックの成果と今後の展望」が開催。

ファクトチェック・イニシアティブ主催、数媒体参加、21本の記事公開。

・選挙報道の公平性とファクトチェックの関係性を議論。

 

10月27日、東京都渋谷区で「沖縄県知事選ファクトチェックの成果と今後の展望」が開催され、約40名の人が集まった。主催のファクトチェック・イニシアティブ(以下FIJ)は、社会的に影響力のあるメディア報道、言説や発言等のファクトチェックを通して市民が事実と異なる情報に惑わされないような社会構築を目指すNPO法人である。

 

FIJは、沖縄県知事選挙(9月30日投開票)において、ファクトチェック・プロジェクトを実施した。今回はこのプロジェクトの報告会である。ちなみにJapan In-depthもプロジェクトに参加したため是非こちらも参照されたい。

 

報告会は三部構成。第一部はFIJ事務局長で日本報道検証機構代表楊井人文氏による基調講演として、プロジェクト全体を通しての報告がなされた。第二部は琉球新報東京支社の滝本匠氏による講演。琉球新報によるファクトチェックの内実が話された。最後に、FIJ副理事長でニュースのタネ編集長の立岩陽一郎氏をコーディネーターとし、楊井氏、滝本氏、BuzzFeed Japanの記者としてプロジェクトに参加した瀬谷健介氏によるパネルディスカッションが行われた。

 

まず、楊井氏による沖縄知事選挙ファクトチェック・プロジェクトの報告だ。

写真)FIJ事務局長 楊井人文氏

©Japan In-depth編集部

 

このプロジェクトを実施した理由について、第一に「基地問題を抱えている沖縄を巡っては意見の対立が激しく、様々な攻撃的な言論も行われている」実情を感じ、さらに選挙となるとますます事実に基づかない報道が多くなることを危険視したこと、第二に、海外ではアメリカや韓国の大統領選挙等、選挙の時期に力を入れてファクトチェックが行われることの2点を挙げた。

 

昨年の総選挙の際のファクトチェック・プロジェクトに参加した4メディアに加え、琉球新報、Waseggの2つのメディア、26名の個人サポートメンバーという体制で行われた今回のプロジェクト。全部で21本のファクトチェック記事が公開された。

 

今回新たに導入されたのが、Fact-checking console(FCC)というシステムだ。これは、Twitterからデマや間違いと疑われるツイートを端緒情報として自動的に収集するもの。その上で根拠や理由のあるものだけを人の手によってピックアップし、残ったものを「疑義言説」としてファクトチェック対象にするというシステムである。これによって得られた疑義言説は69件。外部からの情報提供で得られた疑義言説は25件であったため、70%近くがFCCによる情報であることがわかる。

写真)FCCの仕組み

©Japan In-depth編集部

 

今回のプロジェクトで掲載された記事21本の内訳としては、発信者別にみると候補者による発言が10本、政治家による発言が8本と多くを占める。また、媒体カテゴリーとしては21本中、討論会での発言が8本、SNSが8本、ネット番組が2本であった。さらに、掲載見送りとなった記事を含めた全24記事の中でチェックされた情報のうち、正確と判定されたのが6本に対し、誤りと判定されたのが8本と最も多かったという。

 

 

次に、琉球新報の滝本氏が講演を行った。琉球新報は今回のプロジェクトに参加を決めた初めての、そして唯一の紙媒体のメディアである。この英断の理由について氏はこう説明した。第一に、翁長雄志前知事が否定してきた、普天間飛行場は何もないところに作った、等といった「沖縄フェイク」が蔓延している状況を無視できない、と実感したという。「沖縄の学生さんでもそれを信じている。新聞という情報を出している方として忸怩たるもの」と続けた。

 

また、怪しげな情報がSNSで広まることによって、その情報が永遠とネット上で生き続けることから、その影響力を消すことができないこと、今年2月の名護市長選挙で日本ハムが名護から撤退するという本当ではない情報が実際に広まった事例もあったこと、といった理由を挙げた。

 

また、選挙報道は公平性の担保の為、写真の数や行数など形式的な制約が多くある。選挙報道がはじめてであったという滝本氏自身が選挙報道を面白くしたい、という動機もあったそうだ。

写真)琉球新報東京支社の滝本匠氏

©Japan In-depth編集部

 

琉球新報は、取材班以外も含めた記者の感性、Twitterのホットワード、LINE@やTwitterによる読者の情報提供等を駆使してチェック対象を取捨選択しファクトチェックを行った。とはいえ滝本氏は、「事実を集めてきてそれに基づいて書く、という(普段の)記事の基本動作と全く同じだな、と個人的に感じた。」と述べた。

 

一方で、「選挙期間中の有権者の投票行動に影響を与えないとまったく意味がない。」とし、選挙取材と並行的にファクトチェック記事を掲載することに対して強いこだわりを見せた。最後に課題として、言説選定の恣意性、つまり候補者の誰かに偏りが生まれる危険性、それによる記事の質の低下や、メインの選挙取材と並行して行うことによる人員不足等を課題としてあげた。

 

最後に行われたのはパネルディスカッション。フロアからの質問も飛び交い、今回のプロジェクトに限らず、ファクトチェックそのものや報道における公平性といったことをテーマに活発な議論がなされた。

写真)パネルディスカッションの様子

©Japan In-depth編集部

 

パネルディスカッションから参加したBuzzFeed Japanの瀬谷氏は実際に沖縄県に8泊9日滞在し、ファクトチェックを行っていたという。BuzzFeedは以前からファクトチェックに対して積極的なメディアの一つだ。わざわざ現地に行かなくてもいいのでは?という立岩氏からの指摘に対し、瀬谷氏は「現場ならではの、裏が取れるものがある。」と、述べ、さらにチェック対象となる言説選び等、現地にいるからこその利点はある、という見解を示した。また、現地取材をしながら東京にいるほかのメンバーに情報収集を頼む等、役割分担がスムーズになされていたようだ。

 

ファクトチェックはPV数が稼げないのではないか、という立岩氏の指摘に対し、瀬谷氏は「ファクトチェックは読まれないことはないというのが体感。」と反論したが、その上で「検証記事よりフェイクニュースやデマの方が拡散されている。」と述べた。

写真)BuzzFeed Japan瀬谷健介氏

©Japan In-depth編集部

 

今回論点としてあがったのが「公平性」である。琉球新報でもファクトチェックを行うことに対して編集局長が「選挙の公平性を留意していた。」と滝本氏は話す。表現によってはどちらか一方に影響与えることにならないのか、ということを気にしていた、という。

 

立岩氏も「選挙でファクトチェックすることはハードルが高い。最大の問題は公平性。」と考える。瀬谷氏も同意し、「候補者間で差がどうしても生まれる。その公平性も考えたが、検証不可能な言説もある。」と述べ、その点を社内で議論をしたようだ。

 

フロアにいたBuzzFeedの古田大輔編集長は「明らかに玉城デニー氏に対するデマの方が多く、かつ検証可能なものが多かった。」事を挙げ、それをすべてファクトチェックするとなると、BuzzFeedそのものの信用度が落ち、「玉城氏を支持するメディア」という風に見られることを危惧したと述べた。

 

それに対し琉球新報は匿名報道を維持した。それは社内での議論の結果である。滝本氏によると、「発言の頻度からしても玉城氏に偏ることは想像ができ、ニュースだからいいという方向になりかけたが、会議の判断としては匿名にしようとなった」そうだ。しかしながらその後、匿名にすることで記事が不透明になることもあり、戻したい、と思ったこともあったという。

 

FIJも、数や量的な公平性ではなく、同じ基準でファクトチェックをすることに重きを置く。量がどちらかに偏っても、むしろ誤った情報を野放しにして選挙に悪影響を及ぼす方が問題だ、と楊井氏は述べた。

写真)FIJ事務局長 楊井人文氏

©Japan In-depth編集部

 

基地を抱える沖縄県の知事選挙は、基地移設の問題がきまって争点にあがり全国的に注目を集めるが、今回は翁長前知事の死去に伴って実施されたという面もあり、特に関心が向けられた。それゆえに様々な情報や言説が飛び交い、同時に真偽が不確かな情報も多くあるのが現状のようだ。また、この大量の情報が錯綜する時代に、政治的な公平性を確実に担保して報道することはできるのだろうか?そもそも報道における公平性とは何なのだろうか?今回の報告会はこういった疑問を私たちに投げかけた。この選挙報道の原則について、改めて考えてみるときなのかもしれない。

 

【訂正 2018年10月30日】
初掲載2018年10月29日の本原稿に関して下記の通り訂正いたしました。

正)Fact-checking console(FCC)

誤)Fact-Checking Consul(FCC)

 

トップ写真)パネルディスカッションの様子

©Japan In-depth編集部

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