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.社会  投稿日:2018/5/26

エビデンスベースの事業評価に疑問 東京都長期ビジョンを読み解く!その60


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

【まとめ】

・平成30年度東京都予算案、「エビデンス・ベース(客観的指標)による評価」を導入。

・「エビデンスに基づいた政策形成」とは「科学的なデータ分析によるエビデンス(証拠)」に基づき議論すること。

・都は「エビデンス・ベース」議論する前に、自分たちの評価制度がきちんと機能しているのかを見直すべき。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40229でお読み下さい。】

 

 東京都30年度予算

東京都も新年度が開始された。その予算案の概要を見ると、小池都政のポイントがうかがえる。まとめると以下のような特徴がある。

【特徴】

・一般会計歳出・歳入:7兆460億円。平成4年度と同水準の財政規模に

・税収:5兆2332億円、前年度比2.8%増

・法人税は1兆8,690億円、前年比6.6%増

・特別会計(16会計):5兆4,389億円

・都債の発行額抑制、都債は前年度比876億円、29.4%の減

・歳出のうち経常経費(経常的な事務事業や行政水準を維持していくための経費)は4兆700億円、前年比2.5%増

・事業評価による財源確保額870億円:エビデンス・ベース(客観的指標)による評価を新たに導入

・3つのシティ実現に向けた基金を取崩し

予算の分析はここでは行わないが、これ以外に、都民による事業提案制度の事業(8.5億円程度)も含まれていることも指摘しておきたい。「都民が提案し、都民が選ぶ仕組み」として、ネット投票なども行われたあの取組みである。具体的には森と自然を活用した保育等の推進、食品ロス削減!区市町村連携事業などが投票の結果、選出されている。

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▲平成30年度予算フレーム等の概要 出典:予算案の概要

■ エビデンス?

とはいえ、「予算の概要」を見てみて気になることがある。それは以下の点だ。

エビデンス・ベース(客観的指標)による 評価を新たに導入、676件(過去最大)の見直し・再構築を実施

・無駄の排除を徹底、確保した財源を活用し、407件(過去最大)の新規事業を構築

・事業評価の取組において、新たに客観的事実に基づき事業の妥当性等を検証するエビデンス・ベース(客観的指標)による評価を実施する

・施設の整備・改修や重要資産の購入等に当たり、統計データや技術的指標などのエビデンス・ベース(客観的指標)により事業の妥当性を検証する評価手法を創設しました

なんだか、しっかりやった感が満載である。これまでの東京都と違って、ずいぶんと改革されたというように見る人も多いだろう。

しかし、ちょっと待ってくれと筆者は思うのだ。都政改革本部の活動といい、これまでの東京都の「改革」を評価しているが、こうして「盛った」ものになるのは非常に残念に思う。

■ EBPMとは?

どういうことか。それは「エビデンスベース」というところだ。まず第一に、エビデンスベース=客観的指標ではない。第二に、エビデンスベースとは以下のような最近のはやりに準じた形と想定される。

定義を確認しよう。

【言葉】

「エビデンスに基づいた政策形成」(Evidence-Based Policy-Making、以下EBPM)

【定義】

政策立案や政策改定の際「科学的なデータ分析によるエビデンス(証拠)」に基づいた議論を行うべきだという考え方。

【意味合い】

・源流はEBM(Evidence-Based Medicine)。1991年に提唱され、新しいパラダイムとして医師が診察を行う際、最善のエビデンスをもとに行おうという医療の在り方。それを応用しようというもの。

・エビデンスとは治療の有効性・効果についての信頼性の高い研究結果のこと。最も厳密なものは対象者を無作為に分けて2集団に分けて行うランダム化実験。

・エビデンスにはレベルがあり、最もレベルが低いのは専門家の意見や経験。

・EBPMはプログラム評価の「進化形」。

【事例】

・アメリカオバマ政権におけるエビデンス重視の予算作成、2001年教育改革法、就学前教育の効果、少人数学級の効果。

・アメリカでは非行少年の刑務所見学プログラムの効果。

・イギリスでは就学前教育の効果。

ということである。政策評価や統計の在り方にもかかわるかなり難しい専門的なものである。しかし、東京都の取組からは、前提の知識や検討が感じられない。筆者から見ると、シンクタンクの造語、新規ビジネスのための品とも皮肉を言いたくもなるが、その理念自体はまっとうである。

■ 「エビデンス・ベース(客観的指標)による評価」

エビデンスベースについて問い合わせたところ「基準はない」とのこと。客観的指標=エビデンスベースではない。アピールするのはいいが、等身大を超えてアピールしすぎると信頼を失う

東京都の改革は等身大であり、なかなか素晴らしいものであったはずだ。「エビデンスベース」を議論する前に、自分たちの評価制度がきちんと機能しているのかを見直してもらいたい。今後に期待したい。

トップ画像/東京都庁 出典:photo by Markus Leupold-Löwenthal


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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