何のための東京五輪?その1 東京都長期ビジョンを読み解く!その57
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
【まとめ】
・都の五輪関連予算は3,283億円。都民1人23,876円の負担。
・都民のスポーツ実施率は56.3%にすぎない。
・一過性のイベントでなくスポーツを楽む人を増やす等新しい価値を提起すべき。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=38756で記事をお読みください。】
■ 平昌五輪NEXT
▲写真 NHK名古屋放送局に飾られたマスコット:西村撮影
感動を与えてくれた平昌五輪。日本五輪代表のなかで、東京都出身者はなんと5人もいる(雪国でもないのに)。中でもモーグル原大智さんは、東京都出身者初の冬のメダリストになった。そのほかの方も、ナショナルトレーニングセンター、東伏見のアイススケート場など東京都に何らかの関係、なじみはあるはずである。
トップアスリートがいかに厳しいトレーニングで自分を追い込み、技術を取得し、プレッシャーと闘い、悲哀と苦労を克服してきたか。こうして世界の舞台に立ち、活躍するにはどれだけの我慢と忍耐を日々積み重ねなければいけないのか、想像することは難しい。
よくギャグに滑る私もスケート経験があるが、五輪選手の超人的なプレーを見て、どれほどプレーが大変なのかを知っている。みなさん、四回転半ジャンプがどれほど大変か。普通に部屋の中でやってみてみたらいいと思う(とても難しい)。
こうした熱狂も終わり、次の五輪は東京になる。カウントダウンが始まっていく。
■ 都民1人あたり23,876円
東京の現実に話を戻すと、東京都は議会に予算を提出した。東京都の30年度予算、一般会計の予算規模は7兆460億円。産経新聞の記事によれば、2020年東京五輪・パラリンピック関連では、会場整備などに983億円を計上したとされる。
単年度ではなく大きな視点で予算を見ていこう。まずいえるのは、五輪のために、これから1.4兆円!必要だということだ(以下、図1参考)。細かく見ていこう。
大会経費1兆3500億円のうち、都負担分が6,000億円で、これは施設の整備にあてられる。そのほか、⼤会に関連する事業として、都は約8,100億円を負担する。これらは、受⼊環境の充実(バリアフリー化、多⾔語化)、各種ボランティアの育成・活⽤、教育・⽂化プログラム など、都市インフラの整備(無電柱化等)、観光振興、東京・⽇本の魅⼒発信などに使われる。
▲図1 「東京都予算案の概要」P24
年度で見ると、31、32年度で8,100億円と全体の6割弱が使われる。30年度は会場関係817億円、大会関係166億円、大会の成功を支える関連事業1,100億円、大会に直接・密接に係る事業1,200億円で合計3,283億円となる。
東京都は1,375万人の人口なので単純に割ってみると、人口1人あたり23,876円の負担ということになる。この金額をどう見るかは読者それぞれに判断してもらうべきだが、さすがにスポーツ大好き人間の私でも疑問を持つ額ではある。
特に気になるのは「大会の成功を支える」「大会に直接・密接に」という文言。以下のような事業が並ぶ。いったい、どういう定義なのだろう。関連するというロジックは何なのだろう。
【関連事業】
◆大会の成功を支える関連事業:
・受⼊環境の充実 (バリアフリー化、多⾔語化)
・各種ボランティアの育成・活⽤
・教育・⽂化プログラム
・都市インフラの整備(無電柱化等)
・観光振興、東京・⽇本の魅⼒発信
観光振興は五輪に関係ないのでは?無電柱化と言っているが、五輪はコンパクトな五輪で一部のところで行われるから関係ないのでは?という疑問が頭に浮かぶ。これを機会に、予算要求してしまえ!ということを都庁の方々はまさか考えるとは思えないので、そこはつっこまないことにしよう。
また、この1.4兆円という莫大な金額が膨らんだ場合の「政治責任」はどなたがおとりになるのだろうか。だいたい当初の予想を超えた経費は、広く薄く(知らず知らずのうちに)税金として転嫁されてるのがこの国の歴史である。政治家の先生たちはよく「政治責任」を主張するが、政治学の専門家である私の知る限り、責任をとった方についてついぞ知らない。その点も小池都政に期待したい。
▲写真 平成30年第一回東京都議会定例会 議会で答弁に立つ小池知事 2018年3月1日 出典:Facebook 東京都知事小池百合子の活動レポート
■ スポーツ実施率目標は達成できるのか?
東京都が発表した「2020改革プラン ~ これまでの取組の成果と今後の進め方 ~(素案)」をみても、「スポーツの力を広く浸透させ、都のスポーツ振興を飛躍的に発展させる絶好の機会」であり、2020年の達成目標として、スポーツ実施率70%を目標に設定していくそうだ。ただし、都民のスポーツ実施率、つまり、週1回以上、スポーツや運動を実施した人の割合は56.3%。目標の70%からは程遠い現実がそこにはある(達成率80%)。
中身を見てみると、特徴として、高齢者世代は、前回からスポーツ実施率が男女ともに大きく低下したこと、スポーツを実施しないのは「年をとったから」という理由であることが明らかになっている。また、働き盛り世代は、他世代に比べスポーツ実施率が低く、スポーツをしない理由は、男女ともに「仕事や育児等により忙しいから」との回答である。特に、20~30代の女性、20代の男性のスポーツを実施しない理由は「好きでない」との回答が多いことが明らかになっている。20代が好きではない理由が多いというのは由々しきことのように思えるが、都庁の問題意識はどのようなものだろうか。
■ 都民にとっての五輪の意味は?
私がここで何度も発表してきたが、スポーツをすることには価値がある。ただし、五輪となると何とも言えない。国が盛り上がるから?世界的なイベント?復興五輪?
それはわかるのだが、都民にとっての五輪とは何なのか。都民にとっての五輪の意味について、抽象的でない、ふわっとしていない明確な理由を説明されたり、未来に合意できる、納得をいく説明を受けたり・・・・石原元都知事をはじめとする方々から聞いた覚えはない。
東京都としてこれだけの予算を使うわけだし、
・都民にとって何のために五輪を行うのか(目的)
・都民が納得するどういった水準を目指すのか(目標)
を明らかにしてもらいたい。明らかでなければ今からでもいい作ったっていい。
それなりにお金をかけるわけだ。都民は五輪を通してどういった体験・経験をするのか、どういった記憶を得るのか、例えばスポーツが楽しめる人を増やす、スポーツを好きになるなど、新しい価値を提起することを期待したい。
トップ画像:宇野昌磨選手(左)と羽生結弦選手(右) 出典 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会公式インスタグラム
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。