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.社会  投稿日:2018/6/5

眼の誕生


                           為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

【まとめ】

・カンブリア紀に生物が目を獲得した。

・それにより様々な生存戦略が発達し、生物が多様になった。

・たった100万年の間に獲得された眼は進化と生存競争に重要な器官。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40324で記事をお読みください。】

 

私は動物の進化の話が好きなので、よく進化論に関する本を読むのだけれども、偶発的に誕生したにしては(進化は常に偶発)眼のような複雑な器官がどうやって出来上がったのかがいつも不思議だった。それで興味を持って調べていたら出会ったのがこの本である。

 

かなり丁寧に、生物がどのようにこれだけ多様になったのかを書いてある。生物多様性というと徐々に広がって来たように思われているが、実はカンブリア紀以前には3しかなかった”門”(生き物を分けて行くカテゴリーをそう呼ぶのだそうだ)が、カンブリア紀のわずかな間に、38に広がったそうだ。そしてそれ以降現在まで38から”門”は増えていない。そして、徐々に確信のカンブリア紀に迫って行く。一体なぜカンブリア紀にこれだけ多様性がある生物が誕生したのか。

 

著書はそれが眼にあると説明している。つまり生物が眼を獲得した事で、急激に弱肉強食の生存競争が行われるようになり、見て見られる関係の元、様々な生存戦略が発達した結果これだけ生物が多様になったのだと言う。考えてみれば光は地球自体に降り注いでいるので、音や匂いと違い、逃れられる存在はいない。唯一洞窟の中の暗闇があるが、予想通りそこでは眼は進化していない。そして多様性もさほどない。

 

例えば、生物は構造によって色を獲得しているので、魚がキラキラ光って見えるのはそういう色をもっているわけではなく構造によって銀色に光って見えるらしい。光ることにより捕食者の眼を眩ませることに成功している。これも捕食者側が眼を獲得したことから、なんとか逃れるために発達した特徴の一つだそうだ。

 

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写真)イメージ図

出典:pixabay photo by 3938030

 

世の中に色が存在するのは私たちが眼を持っていて、それぞれ違う光の反射を受け取るからであって、色そのものが存在するわけではない。そもそも光があり、眼がなければ、色は存在しないというのにわかっていたつもりでも、とても不思議な感覚にさせられた。

 

肝心要の、ではなぜ眼を獲得するに至る環境変化が起きたかということについてはまだまだわからないことも多いそうだ。なんらかの理由で光が降り注ぐ量が増えるような出来事が、カンブリア紀の5億4300年前あたりであったと考えられるぐらいで止まっている。今後明らかにされて行く中でなぜ眼が誕生するという淘汰圧が生まれたのかがわかっていくのかもしれない。

 

眼はたった100万年の間に獲得されたそうだ。5億4300万年前から5億3800万年前より前には眼はなく、そしてそれ以降は眼が一度も衰退していない。れほど眼というのが進化に重要な、生存競争に重要な器官に出会ったことの証明なのだろうと思う。

 

個人的に興味を持ったのは体表の刺激感知と聴覚は同じ神経回路を使えた可能性があり、触覚と視覚もまた同じ回路を使えた可能性があるというくだりで、それについていまぐるぐる考えている。

(この記事は2017年10月4日に為末大HPに掲載されたものです)

トップ画像:イメージ図 出典:pixabay photo by Skitterphoto


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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