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スポーツ  投稿日:2018/7/2

「今さら人に聞けない基礎知識(上)」 超入門サッカー観戦法 その3


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

【まとめ】

・西野監督が非難されるいわれはないが、見たいサッカーではない。

・代表はなぜ23人か。キーパー負傷退場に備え交代枠を判断。

・「システム」とは。味方ゴールを下に描く図で作戦を練る。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40782でお読み下さい。】

 

サッカーの代表監督とは、首相の次に罵詈雑言に耐えねばならぬ仕事なのだそうである。

日本の場合、罵詈雑言に「掌返し」も加えた方がよさそうだ。

「西野Japan」がコロンビアに勝ち(ワールドカップでアジアの国が南米の国に勝ったのは史上初)、アフリカの強豪セネガルと引き分けたことで、1次リーグ突破はもとよりベスト8も見えてきた、などと、4月の前監督解任騒動など、どこへやら。その手腕に賞賛の嵐。そもそも、日本以外に代表チームを監督の名前で呼ぶ国などあるのか、という話なのだが。

そして1次リーグ最後の試合となったポーランド戦だが、これは本来、引き分けても決勝トーナメントに進出できるという状況だった。ところが、すでに1次リーグ敗退が決まったものの最後の意地を見せたポーランドに先制されてしまう。

写真)日本 vs ポーランド戦 出典)Светлана Бекетова

負けた場合どうなるかと言うと、セネガルがコロンビアに勝てば勝ち点7で1位が確定。すでに勝ち点4を得ている日本は3にとどまるコロンビアを上回って2位となり、この場合も1次リーグを突破できる。

コロンビアが勝った場合が少々ややこしかった。日本とセネガルは2−2で引き分けており、勝ち点は同じく4、得失点差もまったく同じ。そこで今大会から導入された「フェアプレー・ポイント」で日本有利、という状況だったのである。

そして、同時キックオフで始まっていた他会場でのゲームで、コロンビアが先制した。ここからなんと、負けている側の日本が自陣でパスを回して時間稼ぎに出た。フェアプレー・ポイントは、警告=イエローカードがマイナス1、2枚目のイエローで退場となるとマイナス3、レッドカードでの一発退場はマイナス4、というようにカウントされるため、イエローカードさえもらわなければ勝ち上がれる。

猛暑の中、ポーランドの選手も消耗いちじるしく、このままなら1勝できる、と踏んで、追加点を狙いに来なかった。

ひどい「談合試合」もあったもので、会場は大ブーイングに包まれた。

もちろん、日本代表はルールの中で1次リーグを突破したのであって、仮にセネガルが追いついていれば世界中から嘲笑されつつ敗退する、というリスクも背負ったわけだから、西野監督が非難されるいわれはない。反則の少なさは技術の高さの証明でもある。ただ、あれは明らかに、私が見たいサッカーとはほど遠かった。

世界的にも賛否両論が渦巻いたが、

「醜悪に勝つくらいなら美しく負ける」

というサムライの美学をサッカーでも発信して欲しい、と考えるサッカー好きが私一人ではないことが分かり、それだけはうれしかった。

この原稿は、日本代表の1次リーグ突破を見て、急いで書き直したものだが、今のところ賛否両論でも決勝トーナメントの結果次第では……考えるまでもないことなので今さらここに記す価値もあるまい。

ところで、今次のワールドカップを機に、職場や学校が急にサッカーの話題で持ちきりになった、という読者もおられるのではないだろうか。

僭越ながら「今さら人に聞けない」サッカー観戦の基礎知識をお伝えしよう。

まず、どうして代表が23人なのかと言うと、ゴールキーパー3人、それ以外のフィールドプレイヤーは各ポジションに2人ずつ、という発想からである。もちろん実際の選手の選び方はこの限りではなく、極端に言えばキーパーを5人用意しても構わない。キーパーだけ1人多いのは、コンディション不良などで1人が出場できなくなった場合、予備キーパーがいない状態で闘わねばならなくなるからだ。ただ、交代枠3人というのはキーパーにも適用されるため、交代枠が残っていない状態でキーパーが負傷退場となったような場合、フィールドプレイヤーの誰かがキーパーのユニフォームに着替えて試合を続行しなければならない。キーパーは他の選手及び審判員と区別のつく服装でなければいけないと国際ルールで定められている。また、一度発表した代表メンバーの入れ替えはできない。

▲写真 日本代表キーパーの川島永嗣選手 出典:川島永嗣選手公式インスタグラム

キーパーは手を使うことが許されるが、これはペナルティエリアの中だけで、外に出れば(出ることは滅多にないが)、フィールドプレイヤーと同じ扱いになる。また、ディフェンダーがこのペナルティエリアの中で反則を犯すと、決定的な攻撃のチャンスを反則によって妨害したと見なされ、ペナルティ・キックが与えられることがある。コロンビア戦での日本の先制点は、こうして生まれた。

もうひとつ、「システム」という言葉もよく耳にする。日本代表は4バックのシステムに慣れていたが、西野監督は3バックを試した、というように。

これはフィールドプレイヤー10人の配置を意味する言葉で、キーパーは含まない。そして、必ず後ろ、つまり味方ゴールに近い方から数える。

日本代表が近年もっとも多用する4−2−3−1を例に取ると、最終ラインのディフェンダー4人、ボランチと呼ばれる守備的なミッドフィルダー2人、2列目が3人だが、この場合、真ん中がトップ下、左右はウィングと呼ばれる。そしてストライカー1人で。1トップと言う。当然ながら1トップや3トップの布陣も存在し、日本代表も2000年代前半までは2トップが多かった。

ボランチとはポルトガル語で車のハンドルのことで、敵の攻撃の連携を断つべく、右へ左へと忙しく動くことからの連想だとも、攻守のバランスを取る役割からだとも言われる。

ボランチの位置を「中盤の底」とも言うが、これは最前線に陣取るストライカーをトップと呼ぶのと逆の発想と思えばよい。理由は、作戦図を書く際には味方ゴールを下に書き、つまり机上では上に向かって攻めて行くからだ。同じ理由で、攻撃に参加することを「上がる」、逆に守備に回ることを「下がる」と表現する。長友佑都のような選手は「激しく上下動する」と称される。

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▲写真 長友佑都選手 出典:長友佑都選手Facebook

要するに「運動量が多い」ということなのだが、どうして運動量が多ければ多いほど有利なのか、あるいは逆に、日本の本田圭佑やコロンビアのハメス・ロドリゲスのように、運動量が決して多くない選手でもスターになり得るのか。

そのあたりは、次稿で。

トップ画像/ポーランド戦先発メンバー 出典:Светлана Бекетова 


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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