「今さら人に聞けない基礎知識(中)」 超入門サッカー観戦法 その4
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
【まとめ】
・世界的スター選手がいることが、世界一の実力に直結するわけではない。
・W杯こそ最高峰の大会であらねばならない、というFIFAの強い意志。
・FIFAに批判はあるが、「20世紀最大のヒット商品」を生んだ功績は大。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40797でお読み下さい。】
目下サッカー界でスター選手と言えば、リオネル・メッシとクリスチャーノ・ロナウドが双璧だろう。サッカーにあまり詳しくないという方でも、この2人の名前は、どこかで聞いたことがあるのではないか。
▲写真 親善試合(サッカーロシア代表戦)でのリオネル・メッシ選手 出典:Дмитрий Садовников
▲写真 FIFAワールドカップでのクリスチャーノ・ロナウド選手 出典:Анна Нэсси
メッシはアルゼンチン代表、ロナウドはポルトガル代表として、それぞれ今次のワールドカップに出場したが、いずれも決勝トーナメント1回戦で姿を消した。アルゼンチンはフランス、ポルトガルはウルグアイに敗れたのである。
理由は、簡単に説明できる。サッカーは11人でやるものなので、世界的なスター選手がいることが、世界一の実力には直結しないのだ。むしろ相手は、そのスター選手だけ徹底的にマークしておけばよい、という戦術をとれる。徹底的にマークされている選手には、パスも通しにくい。フランス対アルゼンチンの試合では、メッシが明らかに前線で孤立していた。
さらに言えば、この2人はいずれもリーガ・エスパニョーラ、それもメッシはバルサ(FCバルセロナ)、ロナウドはレアル・マドリードという、世界第一流のクラブに所属している。懸命な読者はすでに「そういうことか」とお察しであろう。世界中からスター選手を集めたクラブにいたからこそ、彼らのプレーも輝き、その輝きが全世界に届いたのだ。
▲写真 決勝トーナメント スペインvsロシア 出典:モスクワ公式ウェブサイト
ここでまたまた話が脱線するが、ヨーロッパの主要なリーグについて、イングランドならプレミア(リーグは省く)、ドイツならブンデスリーガ、スペインならリーガ・エスパニョーラ(同じ意味だが、スペインリーグと言ってはいけない)、イタリアならセリエA(Aは必ず「アー」と発音する)と呼べば、それだけで玄人っぽく聞こえる。バカげたことだが、みんなこうしてサッカーへの関心を少しずつ深めて行くのである。
話を戻して、バルサで名声をほしいままにしているのに、代表では輝けないメッシに対してアルゼンチン国民の間からは「もうスペイン人になってしまえ!」
という声が前々から聞かれていた。
実際に彼はアルゼンチンとスペインの二重国籍なのだが、スペイン代表になることはできない。これはFIFAの規定で、一度でもどこかの国の代表メンバーとして国際試合に出場したならば、たとえ国籍を変更しても他国の代表にはなれないからだ。言うまでもなく、金満国家が選手をかき集めるのを防ぐ目的である。
日本代表にはかつて、ラモス瑠偉はじめブラジル出身の選手が幾人か名を連ねていたが、彼らは帰化したブラジル系日本人で、かつブラジル代表に選ばれたことはない。
▲写真 ラモス瑠偉元日本代表選手 出典:ラモス瑠偉オフィシャルウェブサイト
フランス代表など、アフリカ系やカリブ系の選手が多く、整列すると一見してどこの国の代表か分からないほどだが、彼らも全員、移民やその子孫だ。これも読者には多くを語るまでもないことであろうが、ヨーロッパでは今も、貧しい移民の子はスポーツ界や芸能界での成功を夢見るのである。
一方、韓国代表などは今も「純血主義」にこだわっている。実は前述のブラジル出身の日本代表選手について、韓国代表として初めてJリーグ(サンフレッチェ広島)でプレーしたノ・ジュンユン選手が、
「日本が大好きということと、日本人になるというのは違う気がする」
と述べたことがある。在日4世のイ・チュソン選手でさえ、日本での活躍が注目されて韓国U19のキャンプに招待されたが、あろうことか「ハンチョッパリ(半日本人)」という悪口まで言われたため、最終的には名前をり・ただなり(李忠成)に変えて日本代表になる道を選んだという。
▲写真 李忠成選手 出典:李忠成オフィシャルインスタグラム
お互い、他国の代表のことにあれこれ口を出すのはどうかと思うが、韓国サッカー界のこうした姿勢は、イエローカード続出のラフプレー(荒っぽい試合運び)を恥とも思わないことと併せて、いくらなんでも時代錯誤ではないかと、私は考える。
ところで(と言うより、こちらが本題なのだが笑)、そもそもFIFAとはなにか。
Federation Internationale Football Association
の頭文字で、つまりフランス語である。
1904年、サッカー(アソシエーション・フットボール)の国際組織として、フランスを中心にヨーロッパ7カ国で旗揚げされ、パリの薄汚い雑居ビルの一室に本部を置き、わずか28名のスタッフで運営を開始した組織が、ワールドカップの商業的成功によって、今ではスイスのチューリッヒに高級リゾートホテルと見まがうばかりの本部ビルを構え、2018年段階で211の国と地域が加盟する、世界最大の競技団体になったのである。
このFIFAの下にアジア、アフリカ、ヨーロッパ、オセアニア、北中米カリブ海、南米の6地域連盟が組織され、それぞれワールドカップの地域予選を行っているわけだ。
サッカー発祥の地はイングランドだが、英国本土4協会(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)は後から加盟した。ただし「母国の特権」は今もあって、具体的にはFIFA副会長の1人は、必ず上記の4協会から選出される。
先ほど「U19」という言葉を使ったが、FIFAでは、ワールドカップの出場年齢に制限を設けていない反面、年代別の国際大会が頻繁に開催されている。これはサッカー人気の底上げを狙った戦略で、具体的にどういうことかと言うと、完全にプロ化されていない年代の選手たちが闘えば、ヨーロッパや南米以外の「サッカー小国」にも優勝の可能性があるからだ。
その一方で、オリンピックの男子サッカーについては、プロ選手の出場を求める一方、出場選手の年齢を23歳以下に制限している。これは、ワールドカップこそが世界最高峰のサッカー大会であらねばならない、という強い意志の反映だと言われる。
女子サッカーはこうした制限はなく、女子ワールドカップよりもオリンピックの方が上位の大会と見なされているが、理由はよく分からない。もしも、サッカーは男のスポーツ、という考え方がどこかに残っているとすれば、これもこれで時代錯誤だと思うが。
▲写真 女子サッカー 出典:FIFA womens cup
FIFAについては、カネの問題をはじめとして、様々な批判が聞かれる。
私自身、批判的に見ざるを得ない部分もあるのだが、やはりワールドカップという「20世紀最大のヒット商品」を産みだし、世界中の多くの人にとって、サッカーは国王の結婚などよりも大きな関心事、と言われるまでに人気を定着させた功績は、決して小さなものではない。
ところで、選手の運動量や経験値の問題を取り上げる前に紙数が尽きてしまった。
まことに申し訳ないことながら、次稿に先送りとさせていただきます。
トップ画像/FIFA2018開幕セレモニー 出典:ロシア大統領府
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。