「“惑星直列”の様な改憲大チャンス」長島昭久衆院議員【憲法改正論】
Japan In-depth 編集部
【まとめ】
・「我が国にとって急迫不正」明記で集団的自衛権限定行使も可能に。
・それでも「防衛専門の自衛隊は『戦力未満』」解釈は残る。
・与野党で改憲勢力大多数の“惑星直列”のような大チャンスを生かせ。
4月12日のニコ生Japan In-depthチャンネルはゲストに長島昭久衆院議員(放送時は希望の党所属)を招き、憲法改正への見解を聞いた。大野元裕氏と共同提案の改憲私案では、9条2項を残したが、長島氏の本音は別のところにあった。
――安倍首相の改憲案への評価は?
長島:
率直に言ってがっかりした。完全に弥縫策だ。公明党の同意、協力を得たいという政局的な駆け引きは分かるが、議論を積み上げてきた自民党が、総理が「自衛隊明記」と言ったら、それに合わせて一生懸命案をつくっている。石破さんの言っていることのほうが筋は通っている。
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【長島氏大野氏 共同改憲私案】
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第二項の規定は、我が国にとって急迫不正の侵害が発生し、これを排除するために他の適当な手段がない場合において、必要最小限度の範囲内で、自衛権を行使することを妨げると解釈してはならない。
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――民進党の大野元裕氏との共同改憲私案では、9条2項を維持している。
長島:
この案は大野さんとの共著ということもあり、(そもそも9条2項も改正すべきだと考えてきた)私としてはギリギリ妥協の産物だ。改憲を前に進めるためとの動機は安倍総理と共有しているが、決定的に異なるのは「自衛隊」ではなく、「自衛権」の在り方を憲法上明記すべきという点だ。第3項として「“我が国にとって”急迫不正の侵害が発生し、これを排除するために他の適当な手段がない場合において、必要最小限度の範囲内で、自衛権を行使することを妨げると解釈してはならない」と明記するもので、「我が国にとって」の急迫不正の範囲で自衛権の行使はできますよと明示した。武力行使の新3要件は「我が国に対する急迫不正の侵害とともに、我が国と密接な関係にある国に対するものであっても」となった。僕らはそれを一言で「我が国にとって」とした。つまり「我が国に対する」だけではなく、密接に関係しているところが攻撃されても「我が国にとって」の急迫不正性があれば、集団的自衛権も含めて行使できると読めるのが、僕らの主張だ。「我が国にとって」というのは、「我が国の領土、領空、領海にとって」ということだ。
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憲法9条のもとで許容される自衛の措置をとしての「武力の行使」の新3要件
1. わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
2. これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
3. 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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――長島・大野案は2項を残した安倍総理と同じレールの加憲案だ。第2項を変えるのは難しいか。
長島:
1項2項が戦後70年間国民に定着してきたことをどう見るか。ここに手を付けずに「自衛権」を加えて一歩前進しようというところに落ち着くのであればいいと考えた。政治はどこかで妥協しないと多数の支持を得られない。ただし、僕の本旨は今でも2項改正論だ。したがって、我々の提案した第3項の文言をそのまま現行の第2項と入れ替えるのが最もシンプルだ。
――共同改憲私案が仮に実現した場合、「自衛権」が明文化されるが、自衛隊は「戦力ではない」との解釈は残るのか。
長島:
もちろん自衛隊は「戦力未満」だとの解釈が残る。ただし、これは屁理屈だ。「戦力」は「攻撃することもできる能力を持っていること」で、「自衛力」は、相手国を攻撃したり、占領したりはしないという意味では自分たちを守るだけの「戦力未満の自己防衛力」だという。その屁理屈を日本政府は認めてきたが、私は欺瞞だと思う。
――どの国も軍隊を基本的に自衛のために持っているのであって、他国を侵略するためではないはずだが。
長島:
もちろんそうだ。だが、他国の場合は、相手国を攻撃したり、占領したりしても違憲にならない。日本は戦力を行使することはできず、自衛力の行使でとどめなければいけないので、他国の占領などは憲法違反となる。その違いがある。
――安保法制は9条に違反するとの認識か。
長島:
そんなことはない。僕が妥協に妥協を重ねた大野さんとの共同論文ですら、「我が国にとって」との書き方で、集団的自衛権を限定的に行使できるようにしている。
――「限定的な集団的自衛権」とはどういうものか。
長島:
例えば9.11でアルカイダにアメリカが攻撃を受けた。その後、アメリカはアルカイダをかくまっているタリバン政権、アフガニスタンを個別的自衛権で攻撃した。他方、同盟国イギリスは集団的自衛権で加勢した。我が国はそのような遠征攻撃行動には参加できない。限定的な集団的自衛権というのは、「我が国にとって急迫不正の侵害がある場合」に限って、我が国を防衛する同盟国軍と一緒に反撃すること。距離だけが問題ではないが、自国の侵害とは関係のない遠隔地まで出張って行って相手の領土を叩く、あるいは相手の領土を占領することはできない。
――北朝鮮がグアムに向けて弾道ミサイルを発射した場合、日本に対する攻撃ではないため、撃ち落とすことはできないのか。
長島:
グアムの米軍基地への攻撃に対しては、大野さんとの共同論文でも反撃できることになっている。グアムのアメリカの戦力は、我が国に対する抑止力を提供する極めて重要なアセットだ。もしここを完全に叩かれたら、我々の反撃能力の7~8割が消滅する恐れがある。「我が国にとって」まさに「急迫不正の侵害」にあたり、限定的な集団的自衛権行使の対象となると考える。
ただ、現実には(迎撃可能なミサイルの)SM-3ブロック2Aが配備される2年後以降の話だ。今の技術では撃ち落とせない。その意味で北朝鮮の能力はすでに日米のミサイル防衛技術を超えており、深刻だ。そういう脅威から我が国の平和と安全を守ることができるような最高法規にしておかないと、政治として責任ある対応とは言えない。
――野党がどんどん改憲案を出すべきでは。
長島:
安倍首相は大したものだ。ずっと憲法改正と言っていた、あの中曽根(康弘)さんでさえ、総理になったら「憲法改正は政治日程にはのせない」と言わざるをえなかった。僕はあの時学生だったが、非常に失望した。安倍さんは総理・総裁として、憲法改正を前面に打ち出している。そして、与党が衆参両院で3分の2を取っている。さらに、自分も含めて野党の中に改憲勢力がいる。この3つが揃っているのは、「惑星直列」ではないが、こんなチャンスはめったにない。
希望の党の憲法草案は着々とできている。地方分権も緊急事態のところもできた。9条についても、自民党案が正式に出たら対案をぶつける。希望の党の改憲案を憲法審査会に出す
――希望の党を離れて、無所属となった今の考え方について。
長島:
ネット放送で何度も強調したが、持論は9条2項の改正を検討すべきという立場だ。安倍総理が改憲を政治日程に挙げたことについては率直に評価するが、9条2項を温存しているところに物足りなさを感じる。
長島・大野案は、「希望の党政調会長として、党の政策をまとめ挙げる責任を負う立場から、改憲論議のたたき台を提示したものであり、自衛権を明示することに主眼を置いた案になっている。安倍総裁案に連動したかたちになっているが、あくまで議論の出発点だ。
9条2項の改正は、放送でも強調したとおり私の持論だ。無所属となった今、改めて、9条2項の改正で「自衛権」を明記する考え方を正面から主張していく決意だ。
【総括】
9条2項改正論者の長島氏が大野元裕氏との共同改憲私案では2項を残す案を示した。安倍首相の姿勢とも重なる。「政治はどこかで妥協しないと多数の支持を得られない」。悔しさをにじませた長島氏の発言は改憲論議の困難さを表している。衆参の憲法審査会の現状は政局にまみれ、落ち着いて改憲論議を行う雰囲気にはない。現行法制が社会の現状に合っているのか否か不断の見直しをするのは国会議員の最大の責務だ。最高法規について議論すらしない国会議員とはいったい何なのか。
(この記事は、2018年4月12日放送のJapan In-depthチャンネルの放送内容を要約したものです。)
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