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.政治  投稿日:2018/7/11

「緊急事態条項創設、1つのテーマ」遠山清彦衆院議員【憲法改正論】


Japan In-depth 編集部

【まとめ】

・公明党は改憲不要の立場も、社会変化を勘案した「加憲」を提唱

・9条1、2項維持・自衛隊明記の安倍首相案は有力案だが課題も

・国会議員任期延長に限る緊急事態条項は改憲のテーマ

 

ニコ生Japan In-depthチャンネルのシリーズ「憲法改正論」。5月30日は公明党の憲法調査会事務局長を務める遠山清彦衆院議員をゲストに迎え、“安倍首相改憲案”に対する公明党の考えを聞いた。

 

――憲法改正への公明党のスタンスは。

遠山:

公明党は基本的に今の憲法を高く評価しているので変える必要はないという立場だ。平和主義、基本的人権の尊重、国民主権は絶対堅持すべきだ。ただ、憲法制定から70年以上経った。当時はインターネットもプライバシーの問題も環境権の問題もなかった。北朝鮮が核兵器や何十発もの弾道ミサイルをオペレーショナルな状態で持っているという安全保障環境もなかった。そういう様々な変化を勘案した結果、憲法に新たな条項を付け加える「加憲」というアプローチの憲法改正はありうべしということは10年以上前から明言している。「加憲」は公明党の造語で、最近は有識者も普通に「加憲」と言うようになった。公明党内の議論が社会全体に大きく影響しているという感触はある。

 

――安倍首相は憲法9条の1、2項を残して新たに9条の2を加える「加憲」の考え方を示した。公明党は賛成か。

遠山:

党としては賛成まで行っていない。安倍首相案はアプローチとしては公明党の加憲に似ている。「安倍首相の憲法改正に公明党どこまで付き合うのか」という質問をよく受けるが、むしろ安倍さんが公明党に近づいてきている。自民党の案は有力案だが、様々な課題がある。個人的見解だが、「自衛のために必要な措置」との表現は安保法制で規定した限定的集団的自衛権の範囲を超えるのか、超えないのかというところを整理しなければならない。さらには、憲法には財務省や防衛省などの省庁名の記載はないが、自民党案では自衛隊が記載される。素朴な疑問として、様々な政府機関や省庁がある中で自衛隊だけ憲法に書いていいのかという議論はある。

 

――外国の憲法も省庁名の明記がなくても軍隊の規定はある場合が多い。自衛隊明記はシビリアンコントロールに影響するとの議論は違うのではないか。

遠山:

自衛隊を憲法に明記しても特別な組織になるわけではない。法律学上はその通りだ。ただ、他国は憲法に軍隊を規定しても、元々9条の「陸海空その他の戦力は保持しない」というような規定を持っていないから論争にならない。日本の場合、自衛隊は戦力ではなく日本を守るための実力組織だという答弁をしてきた。そういう組織を他国の軍隊と同じような形で憲法に規定していいのかというのは、政治家同士では論争になる。

 

――9条2項に手をつけないのであれば、何のための改憲かという議論がある。

遠山:

そこは悩みどころだ。世論調査では国民のほぼ9割が自衛隊を支持、評価しており、恐らく8割ほどは合憲だと思っている。日本共産党と社民党の一部の人を除けば、「いま憲法改正の必要性はない」と言っている立憲民主党を含めて国会議員の8割も自衛隊を合憲だと思っている。そういう中で憲法学者の6、7割が「自衛隊は憲法違反の疑いがある」と主張し、いまも大学ではそのように講義している。それを正すために9条の2を加えて自衛隊を明記することで、自衛隊は憲法に違反しているかどうかという神学論争に完璧に終止符を打つという意図を自民党が持っていることは、公明党も理解している。他方で、自衛隊は合憲なのに、それを規定するためだけの国民投票をわざわざ税金を使ってやるのかという声もある。

 

――安倍首相の手法について。

遠山:

やや感情論的憲法改正必要論だ。もちろん政治の世界は理性だけでなく、国民感情は大事にしなければいけないので、そこを排除するわけではない。しかし、戦後初の憲法改正にあたり、その理由の説明がお涙頂戴の感情論だけでは通らない。そこは憲法学上、法律学上の必要性と理屈を示さなければいけない

 

――自衛隊は実際は軍隊なのに国内的には軍隊ではないという無理な説明をしている。国際貢献等で自衛官が発砲し、死者が出た場合の法的責任はどうなるのか。

遠山:

海外にミッションで派遣された自衛隊員は、安保法制で自身や管理下の人を守るため、任務を守るために武器を使ってもいいというところまでは整備された。例えば、自衛隊員がアフリカや中東等の過酷な環境で仕事をしていて、暗がりから人がパッと出てきて、こちらへ向けて銃を構えているように見えた時、正当防衛として撃ったとする。ところが、その人は椰子の木を持った民間の女性、あるいは子供で既に亡くなっていたような場合。こういう事態はこれまで起きていないので、国民にも意識されていない。しかし、万一起きた場合、その隊員の行動を法律上どう裁くかは大変難しい。自衛隊は軍隊ではないので軍法会議がない。刑法で殺人は罪だが、戦地に派遣された軍隊では、自分を撃とうとする兵士を撃って殺しても罪にはならない。ましていわんや、過酷な環境で見誤って民間人を殺してしまったというケースでは、自衛隊員の行動を罰するのか、それならばどの法律で罰するのか、刑法なのか。それが整備されていない

 

――最初の国民投票では、国民の意見が割れている9条改正を見送るべきだとの意見もある。

遠山:

そこは我々も聞く耳を持っている。9条以外にテーマとなっている3つのうち、緊急事態条項の創設については、様々なバリエーションがあり得るが、公明党内でもやったほうがいいのではないかとの意見がある。東日本大震災が起きた年は統一地方選の年だったが、2万人近くの方が亡くなり、行方不明者も多く、津波で壊滅状態の町もあるのに4月に選挙をやれるのかと。結論はできないとなって1年延期することとした。地方選挙は地方自治法の改正等、国会で緊急に法律を変えれば延長できる。しかし、衆院選や参院選をやっている最中に大震災が起きても、憲法を変えないと延期はできない。例えば、東京直下地震や南海トラフ地震等が起きたとすると、2万人どころか10万近い人が亡くなって、その中には候補者も含まれる可能性もある。衆院選で街頭演説していた遠山清彦が死んでしまったということも有りえる。多数の人が亡くなり、津波で投票所となる学校も流されている状況でも、今の憲法では衆院選をそのままやらなければいけない。これはまずいだろうという意見は党内にある。「衆議院の任期の特例」というが、大地震や大災害のような緊急事態には、衆院が解散されてすでに投票日が決まっていたとしても、前職の議員に一時的にバッチを戻し、災害対応が終わるまで選挙を延期することが可能となる憲法条項を設けるべきではないかという案だ。

 

――緊急事態に一時的に人権を制約するものではなく、国会議員の任期を例外的に延長することに限った緊急事態条項ということか。

遠山:

そうだ。議員任期の延長は、恐らく野党も反対しづらいだろう。我々も国民に必要性を合理的に説明できる。しかも、向こう30年で間で南海トラフ地震が起きる蓋然性は高い。それを想定して対応しておかなければいけないのではないか。ただ、党内で最終結論が出ていない理由のひとつは、憲法の「参議院の緊急集会」の規定だ。衆議院が機能しない時に参院議員が緊急集会を開いて法律を通すなど緊急事態に対応できると読める規定だ。昭和20年代に参議院の緊急集会が開かれた過去の実例もある。主に参院議員からの「衆院が機能していなければ、参院で対応すればいいではないか」との意見もあり、党内で意見集約されていない。

 

――参院の緊急集会で当面の対応をするとしても、緊急事態で衆院選の投開票日を動かせない現状は残る。

遠山:

そうだ。衆院選の投開票を予定通りできないような状況に対応できる憲法の条項が必要だ。細かいことは議論の余地があるが、緊急事態条項の創設はひとつのテーマとなる

 

【総括】

安倍首相が「国防軍」創設をうたった2012年自民党改憲草案を破棄し、「2項維持・自衛隊明記」論に転換したのは、「加憲」を提唱する公明党の協力を得たいからなのは言うまでもない。安倍首相が突如打ち出した“自衛隊加憲”論で抱きつかれた形となった公明党は否が応でもいずれ結論を出さざるを得ない。安倍首相案を受け入れるのか、それとも一時的に連立を離脱する覚悟をもってでも反対するのか、公明党の対応は他のどの党の対応よりも注目される。

(この記事は、2018年5月30日放送のJapan In-depthチャンネルの放送内容を要約したものです。)

トップ画像:©Japan In-depth編集部


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