茶道が果たす大きな役割 裏千家第15代前家元 千玄室大宗匠(上)
「細川珠生のモーニングトーク」2018年8月11日放送
細川珠生(政治ジャーナリスト)
Japan In-depth編集部(小俣帆南)
【まとめ】
・放送1200回を記念し茶道裏千家第15代前家元・千玄室大宗匠に茶道や戦争体験について話を聞いた。
・細川家は第二代・忠興が、千利休七哲の一人として、共に豊臣秀吉を支えた。
・千玄室氏の特攻隊でのエピソードを聞き、これからの日本に対し何をなすべきかを考える機会としたい。
今回は放送1200回を記念して、茶道裏千家 第15代前家元・千玄室(大宗匠)氏をゲストに迎え、茶道や特攻隊員としての戦争体験について、現代の私たちが考えることの意味を政治ジャーナリストの細川珠生氏が聞いた。
本番組は1995年、細川隆一郎氏が娘・細川珠生氏と共に始め、14年間にわたって父娘の対談番組として放送された。2009年に隆一郎氏が他界すると、珠生氏(以下、細川氏)が毎週ゲストを迎える形で番組を続け、現在に至る。
今年4月に95歳の誕生日を迎えた千玄室氏は、細川隆一郎氏と同じ時代を生き、戦争に行った経験も共通している。
初めに細川氏は、細川家と千家との歴史的な繋がりに触れ、「お茶は当時の大名たちが想いを深くする大事な機会であり、一国一城の主であった彼らはお茶を通じて様々な精神を学んだのではないか」と述べ、茶道の存在が大名たちの精神性や関係に大きな影響を及ぼしたのではないかとの考えを示した。
それに対し、千氏はその考えに賛同し「武士道と茶道は一緒」と述べた。千利休が織田信長に仕えた当時、信長は「武」だけではなく「文」をも重んじる文武両道の姿勢を武士の最高の教養としたという。茶の湯を政治的に利用した信長の政策を「茶の湯御政道」と呼ぶように、信長は利休を上手く使うことで堺一体を治めるようになった。千氏は「茶の湯の政治化は信長によって築かれ、豊臣秀吉もそれを受け継いだ。その秀吉の右には利休が、左には秀吉の弟・秀長がおり、細川家もまた彼らと共に秀吉を支えた。」と述べ、細川家と茶道との絆の深さを紹介した。
続けて細川氏は、千氏が第二次世界大戦において海軍の特攻隊員として従軍したことに触れた。細川氏の父・隆一郎氏も、大戦では硫黄島の生き残りとして生還した。細川氏は父から戦争の話をほとんど聞かなかったものの、「『生きて帰ってきてしまった』という父からの一言が心に深く残っている。」と述べ、同じ境遇であった千氏の当時の想いを聞いた。
千氏は、「当時は『生きて帰った』ということが忸怩たる思いだった。」と述べ、隆一郎氏のその言葉に深い共感を示した。自身も多くの戦友を亡くし、今なお罪なき民間人を巻き込んでいる数々の戦争について、千氏は「地球上で戦争を起こすということ自体が人間にとっての増長である。」と述べ、争いの絶えない現在の世界情勢に大きな懸念を示した。
また、千氏は、佐藤栄作氏が裏千家、岸信介氏が表千家、というように二人の歴代総理がお茶を好んだことを明かした。そして、隆一郎氏がそれについて、「信長や秀吉ら昔の武人がお茶に親しんだように、政治家もお茶をやるべきだ。」と話していたエピソードに触れ、現代の政治家も日本文化への造詣を深める必要があるとの考えを示した。
昭和18(1943)年、兵隊の供給がひっ迫する中、千氏は徴兵適齢期の20歳になった。20歳になった千氏は徳島の航空隊に入隊し、本来は1年3か月程かかる訓練内容を10か月で終了させるため、激しい訓練を繰り返したそうだ。
昭和20(1945)年3月、戦局が悪化し、徳島の航空隊も特別攻撃隊を編成するようになった。特攻隊への参加を上官から問われた時、「『熱望、希望、否』の三択が書かれた紙が配られ、自分は『熱望』に丸を付けた。」と千氏は明かし、隊員が特攻に志願する時の心情を赤裸々に語った。結局、全員に特攻隊参加の命令が下り、それ以降は全員で特攻のための突っ込みの訓練に励んだという。
特攻に出撃する際、千氏に戦友たちはこう頼んだ。「おい、千。茶を立ててくれ。茶を頂くのはこれが最後だ。」涙を流す彼らにお茶をたてる自身の様子は、陣中茶箱を持って兵士らにお茶を飲ませた450年前の千利休の姿と重なったと言う。
「生きて帰ったらお前の茶室で茶を飲ませてくれ。」と、出撃直前に戦友が千氏に語った言葉は今でも耳から離れないそうだ。その言葉を聞いた時、自分たちは生きては帰れないのだ、と実感したと千氏は述べた。
「終戦記念日が近いこの放送日に、私たちは後世に向け、何をしていくべきか考える必要がある。」と細川氏は締めくくった。
来週も千氏をゲストに招き、茶道の果たす役割などについて伺う。
(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2018年8月11日放送の要約です)
「細川珠生のモーニングトーク」
ラジオ日本 毎週土曜日午前7時05分~7時20分
ラジオ日本HP http://www.jorf.co.jp/index.php
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細川珠生ブログ http://tamao-hosokawa.kireiblog.excite.co.jp/
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この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト
1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。