「一碗からのピースフルネスを」裏千家第15代前家元 千玄室大宗匠(下)
「細川珠生のモーニングトーク」2018年8月18日放送
細川珠生(政治ジャーナリスト)
Japan In-depth 編集部(北村優佳)
【まとめ】
・日本には伝統と伝承の文化がある。
・茶道には、日本人の精神性がある。
・トップに立つ人こそ精神の丹念と心の中の豊かさが必要。
前回の放送に引き続き、茶道裏千家第15代前家元の千玄室大宗匠をゲストに迎え、文化としての茶道について、政治ジャーナリストの細川珠生氏が話を聞いた。
■ 日本の文化としての伝統と伝承
千氏は第15代家元を41歳で継いでから「一碗からのピースフルネスを」というスローガンを掲げて、世界各国63ヶ国以上回っている。
戦後、米国の司令部は、米国にない伝統と伝承をアメリカ人は学ぶ必要があるとし、これを受けた米国の将兵が茶室を訪れた。先代が彼らに茶の道を説明している姿を見て、千氏は、「戦には負けたが文化では勝った。」と感じたと述べた。このことに端を発したスローガンである。
茶道には神社仏閣と同様、日本人の精神性がある。
千氏は「アメリカは歴史が浅く、多民族が集まっている。一方、日本は大和民族である。伝統と伝承がある。日本人の真の心が、茶道によって一番わかる。」と述べ、茶道は日本の伝統、日本人の精神性と深い関わりがあるとの考えを示した。細川氏が「日本人の伝統と伝承の心をどのように海外の人に説明しているのか。」と尋ねると、千氏は「日本人は思いやりの心を持っている。大和は情を元に生まれた。」と説明していると述べた。
さらに、千氏は「“昨日の敵は今日の友”といった日本人の心情を最も表しているのが、茶道である。茶道には身分の上下がない。一碗のお茶を隣の人が誰であっても勧め合う。」と述べ、こうした気持ちが日本人の大事な心情であると説いた。
■ 信念と思いやり
続いて、細川氏が「千利休の時代、地位や立場の違いを超え、同じ様に茶道が精神を沈着させる機会になっていた。現代では政治家だけでなく、企業や大学などのトップに立つ人こそ精神の鍛錬が必要になる。」と述べると、千氏は「相手に自分の気持ちを伝えるのはなかなか難しい。夫婦や家族の中でも、です。」と述べ、それを乗り越えるには自分の心の中の豊かさが必要であるとの考えを示した。
世界を見ている千氏は、「今の日本は食べ物も着る物もあり、世界中のことが分かる。贅沢な国だ。」と述べ、「日本人は、貧しい国の人に手を差し伸べる優しい気持ちがあるのだから、他の人に対して自分の心情を“我”でなく、伝えていく“伝承”を持ってもらいたい。そのために茶は必要である。」と述べた。
細川氏は「海外に出ていく人は、日本人の思いやる心、優しさを引き継ぎながら、世界で何ができるか考えてもらいたい。」とまとめた。
千氏は「自分にはできない、ではなく、やろうという気持ちが大切。行動に真実性をもつ人が日本に少なくなってきている。」と危惧し、解決するには、自分が一つの信念をもつことが重要であるという考えを示した。
■ 時間的余裕と心の余裕を
現代について、千氏は「昔に比べて問題は二つある。一つは情報が多すぎる。もう一つは考え、想う時間がない。」と述べ、現代社会の抱える問題に懸念を示した。これについて細川氏は「時間的余裕と心の余裕を自分が作っていかなければならない。この対談が自ら何ができるかを考える機会になればいい。」と締めくくった。
(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2018年8月18日放送の要約です)
「細川珠生のモーニングトーク」
ラジオ日本 毎週土曜日午前7時05分~7時20分
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この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト
1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。