トランプ氏、共和党候補指名獲得ほぼ確実
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#33
2023年8月14日-20日
【まとめ】
・トランプ、ジュリアーニら19人に対し、ジョージア州法違反容疑で起訴。
・トランプの共和党候補指名獲得はほぼ確実、大統領に再選される可能性も十分ある。
・トランプが再選されたら、『ディープステート』に対し徹底的な報復を行うだろう。
この原稿は未明のワシントンの定宿で書いている。日本はお盆なのに二つも台風が来襲したようだが、こちらは急遽ワシントンで仕事が入り、二泊四日の強行軍となった。たまたま、本原稿執筆中、ジョージア州大陪審がトランプ前大統領など19人を2020年大統領選挙に関する「racketeering(ゆすり、たかり行為)」などで起訴した。
この点は後ほど取り上げるが、まずは、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きから始めよう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心は次の通りだ。
8月15日火曜日 ロシア中銀が緊急会合
【ルーブルが大幅に下落している。ロシア中央銀行は9月の予定を前倒しして政策金利を議論する臨時会合を開くそうだ。筆者は金融の専門家ではないが、同中銀は先月、主要政策金利を1ポイント引き上げ8.5%とした。やっぱり欧米を中心とする対露経済制裁は徐々に効いているのか?】
パラグアイで新大統領就任
【先の大統領選挙で当選した新大統領は台湾との外交関係維持を表明している。パラグアイといえば南米で唯一、台湾と国交を結ぶ国で、確か今、台湾の副総統が大統領就任式に出るため訪問中のはずだ。頼副総統は12~13日、経由地ニューヨークを訪れたが、中国は相変わらず「強烈な不満と強烈な非難」を表明した。】
8月16日水曜日 インドネシア大統領、対議会年次演説
【24年2月に大統領選を控えるインドネシアでは現大統領と前大統領の間で政治的駆け引きが続いているそうだ。一方、外交面では7月末に大統領が訪中し習国家主席と10周年を迎える「全面的戦略パートナーシップ」を確認している。これに対し、米大統領は9月にジャカルタで開かれるASEAN首脳会議に出席しないそうだ。うーん、中国はしっかり外交をやっているなぁ。】
米国務長官、ワシントンでヨルダン国王と会談
【国王訪米の詳細は不明だが、直前ヨルダン国王はエジプトを訪問し大統領と会談している。昔訪日したアブドッラ国王の少人数講演会に参加したことがあるが、同国王のパレスチナ問題に関する知識は担当官並みの詳しさで、ここまで知っているのか、と舌を巻いた覚えがある。米国にとっては大事な相談相手なのだろう。】
タイ憲法裁判所、ピター氏の首相就任資格に関し判断
【タイの首相選びが今も迷走している。7月の1回目の首相指名の投票で下院第1党となった前進党ピター党首が上下両院の過半数を獲得できず、その後保守派から「一度選出されなかった首相候補について再び投票を行うのは議会の規則違反」とする動議が可決されたため、2回目の投票も中止されていた。この問題については前進党が憲法裁判所に請願していたらしい。保守派はどうしてもピター氏が嫌なのだろうね。】
8月17日木曜日 イラン外相、サウジアラビア訪問
【象徴的な動きだが、これでイラン・サウジ関係が劇的に好転する訳ではない点は既に述べた通りだ。】
インド、G-20保健大臣会合を主催(19日まで)
8月18日金曜日 キャンプデービッドで日米韓首脳会合
【この点は後程詳述する。】
オーストリア首相、訪問中のドイツ首相と会談
8月20日日曜日 エクアドル、大統領・議会選挙を前倒しで実施
【大統領選中に野党系大統領候補が暗殺されたエクアドルでは、殺害された大統領候補に代わり副大統領候補だった女性環境活動家が新たな大統領候補となったらしい。暗殺容疑者はコロンビア人6人だそうだが、いずれも犯罪組織と関係があるそうだ。再び変なことが起きないと良いのだが・・・。】
グアテマラ、大統領選挙投票
【今回は「元大統領夫人」と「前大統領の子息」の戦いになるらしいところが、いかにも中南米的なのか。筆者は同地域の専門家ではないが、争点は相変わらず、汚職と経済格差などのようだ。どうなることやら。】
8月21日月曜日 米韓合同軍事訓練開始
【北朝鮮がまた何かすることは間違いなさそうだが、何をやっても今の米韓連携は揺るがないだろう。】
さて、今週の筆者の関心事は3つ。一つはジョージア州でのトランプに対する起訴、二つ目は日米韓首脳会合だ。まずは、ジョージアでの対トランプ刑事訴追だが、当然のことながら、CNNなどリベラル系とFOXニュースなど保守系では、同じ大陪審の決定や検察官の記者会見を放送しながらも、全く逆の報道が続いている。
CNNでは「鬼の首を取ったような」トランプ批判が続いたのに対し、FOXでは「これは司法や米政府の『武器化』であり、こうした司法の政治利用はけしからん」の大合唱だった。この種の報道が夜中(ちなみに現在は午前2時過ぎ)になっても延々と続いている。CNNとFOXが同じ国のメディアだとは到底思えない。
それにしても、一体アメリカはどうなるのだろう。今回のジョージア州法違反容疑の起訴では、トランプ、ジュリアーニなど19人に対し、ゆすり、たかり行為、偽証など、百数十の違反容疑が理由とされた。特に、racketeeringという容疑には驚いた。通常なら、ギャングや反社会的組織に対して使う言葉だろうに・・・。
今回ワシントンで得た印象は、「デサントスは失速中」「トランプの共和党候補指名獲得はほぼ確実」、あまり考えたくないが、「トランプが大統領に再選される可能性は十分ある」「トランプが再選されたら、『ディープステート(影の政府)』に対する大規模かつ徹底的な報復を行うだろう」ということだ。これらが間違いであることを祈りたい。
キャンプデービッドでの日米韓首脳会談については、たまたま、今朝NYTとワシントンポストから取材を受けた。筆者が述べたのは概要次の通りである。
●キャンプデービッド山荘での米大統領主催による「友好国2か国」首脳を招いた「仲介」外交は、1978年の米イスラエル・エジプト首脳による「キャンプデービッド合意」以来初めてであり、極めて重要な歴史的意味を持ち得る。
●今回の首脳レベルでの合意は、中国や北朝鮮に対し「正しいメッセージ」を送るという意味で、内容よりも、政治的に象徴的な意味を持つだろう。また、韓国の野党勢力に対し、「仮に将来韓国で政権が変わっても、日米韓の連携は変わらない」という強いメッセージを送る意味でも極めて重要である。
●当然、この背景にはインド太平洋地域、特に東アジアでの安全保障環境の急変がある。米側もこの時点で、「力による現状変更」に反対する「抑止力」の一層の強化が必要不可欠だと判断したのだろう・・・・。云々。
こうした筆者の発言がどのように引用されるかは分からないが・・・。三点目の関心事はアメリカでの「アジア系アメリカ人」についてだ。今回、アメリカ人の友人が支援しているヴァージニア州フェアファックス郡で開かれた「アジア系アメリカ人の成功を支援する会」夕食会に招かれ、若いアジア系アメリカ人の実態を垣間見ることができた。
アメリカ国内でのアジア系に対する差別や若者たちの苦悩を間接的に見聞きできたことは大きな収穫だった。同時に、こうした若者の会合の主役は今や、ベトナム系、韓国系、インド系の若者であって、日系アメリカ人若者の参加者がゼロであったことに衝撃を受けた。この点については今週のJapanTimesに書こうと思っている。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:ジョージア州フルトン郡庁舎で記者会見をおこなうフルトン郡地方検事 2023年8月14日 ジョージア州・アトランタ
出典:Photo by Megan Varner/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。