ブラジル大統領選 気になる破れた現職大統領の動き
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#43」
2022年10月31日-11月6日
【まとめ】
・ブラジル大統領選挙。気になったのは、敗れた現職大統領が敗北を認めるか否かだった。
・ボルソナロ大統領の反応次第で、2024年の米大統領選挙に関する見方も変わるかなと思ったから。
・ペローシ米下院議長の夫君襲撃事件は、まともなアメリカ人にとってかなりの衝撃だった。
今週、恥ずかしながら、実はこのコラム執筆を危うく忘れるところだった。友人から「今週はどうなっているのか」とお叱りを受け、木曜日午後に初めて気付いた。今依頼を受けている著書を2冊、先週ほぼ同時に書き始めたのだが、「今週は随分はかどるな」と思っていたら、やはり「外交安保カレンダー」を書くのを忘れていたようだ。
「うーん、そろそろ認知症か」とやや自虐的にもなったが、とにかく書くべきものは書かないと・・・・という訳で、遅れてしまったことをまずはお詫び申し上げたい。
今週はブラジル大統領選挙があった。予想されていた現職の敗北にはあまり驚かなかったが、最も気になったのは、敗れた現職大統領が敗北を認めるか否かだった。
なぜブラジルなのか。それは、今回の選挙結果に対するボルソナロ大統領の反応次第で、2024年の米大統領選挙に関する見方も変わるかなと思ったからだ。ボルソナロは「ブラジルのトランプ」、煮ても焼いても喰えない保守系ポピュリスト政治家だが、敗れた現職大統領がどう反応するかがちょっと気になったのだ。
同大統領が、①敗北を認める場合、②敗北を認めない場合でも、あくまで言論による批判に止める場合、そして最後は、③敗北を認めないだけでなく、自由で公正な選挙プロセスに異を唱え、結果を覆すべく物理的抵抗や反対運動を続ける場合の3つを考えてみた。
もう一つ筆者が懸念したのは、米国における政治テロの横行だ。ペローシ米下院議長の夫君襲撃事件は、多くのまともなアメリカ人にとってかなりの衝撃だったと思う。残念ながら、憲法上国民に銃で武装する自由を認める米国は「暴力の国」であり、強盗、襲撃、銃乱射など日常茶飯事なのだから、驚いてはいけないのかもしれない。
それでも、最近までは幸い、政治指導者に対するこの種の悪質な暴力事件は起きていなかった。でももし犯人が銃で武装していたら、下院議長の夫君は殺されていたかもしれない。しかも、これだけの事件が起きても、米国では暴力防止や銃規制の議論が全く起きない。こんなことで米国はブラジルの民主主義を笑えるのだろうか。
詳細は今週の産経新聞コラムをご一読願いたい。
〇アジア
最近北朝鮮は矢継ぎ早にミサイルを発射している。しかし、彼らは新兵器を開発しているのだから、当然成功もあれば、失敗もある。実はそれだけの話で、日本の領土に打ち込んだり、間違って着弾したりしない限り、こちらがどれだけ声高に非難したところで、金正恩は痛くも痒くもない。本当は日本が政策を変えるべき時なのだが・・・。
ロシア軍関係者が行った戦術核兵器使用に関する議論にプーチンが参加していないといった情報が流れているが、これもロシア流の情報戦の一部なのか。先週はロシアがdirty bombを使う可能性も報じられたが、これと同類か。ロシアは西側に「舌戦」ばかり挑んでいるが、これでは、先週書いた通り、戦争には勝てない。
〇中東
イスラエルの総選挙でネタニヤフ元首相を中心とする野党右派勢力が過半数を確保し、定数120議席のうち計65議席を得る見通しだという。おー、これは大事件なのだが、残念ながら、日本では大きく報じられていない。もう少し中東関連の大ニュースに対する感度を高めてほしいのだが・・・。
〇南北アメリカ
中間選挙まであと一週間となったアメリカでは各候補の「最後の追い込み」が過熱しているが、選挙は蓋を開けてみるまで分からないので、無責任なコメントはしない。されど、アメリカの対中政策に関する限り、どちらが勝っても、あまり大きくは変わらないのではないか?中国は最後のチャンスを逸したと言うべきだろう。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:敗北したボルソロナ前ブラジル大統領(2022年11月1日 ブラジル) 出典:Photo by Andressa Anholete/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。