米軍駐留の沖縄を羨む台湾
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018 #41」
2018年10月8-14日
【まとめ】
・台湾からみると米軍の抑止効果を弱めようとするのは沖縄の自殺行為。
・米中関係は外交的手段では修復不能になりつつあるのかもしれない。
・米国の中間選挙は「女性差別問題」が大きな争点になる。
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3週間前は米国の三都市、先々週は台湾に出かけたが、先週末からはここ沖縄に来ている。沖縄本島の南端に「百名伽藍」という素晴らしい隠れ家的宿があり、今回もそこにお邪魔している。宿泊料は決して安くなく、そう何回もは行けない所だが、お値段以上の価値はある。時間的、財政的余裕があれば、是非一度お勧めしたい。
さて、沖縄といえば先週知事選挙があり、普天間移設反対派の候補が勝利した。終わったばかりだからか、まだ大きな動きは見られない。嵐の前の静けさなのだろう。実は先週、日本の沖縄県の県知事選挙を台湾の台北から眺めるという、ある意味では主観的でも、客観的でもない視点で、小論を書いた。その一部をご紹介しよう。
▲写真 沖縄県知事に就任した玉城デニー氏 出典:玉城デニー氏Facebook
台湾は1972年のニクソン訪中以降、その島の安全保障そのものが重大な危機に陥ったが、現在もその状態は基本的に変わっていない。特に近年は、台湾との外交関係を打ち切る国が再び出るなど、この島は中国大陸からの有形無形の強力な圧力に晒されている。先日は台湾の在大阪事務所長(事実上の総領事)が中国からのフェイク情報が原因で自殺に追い込まれるという痛ましい例すら見られた。
今この島は米国との関係なしに現状を維持できなくなっている。米中国交正常化までは米華安保条約により米国はこの島を防衛する義務を負っていた。しかし、今米国の台湾防衛義務は、国際合意ではなく、台湾関係法という米国内法により担保されている。逆に言えば、この島から見ると、沖縄は国際約束である日米安保条約の下で米軍が駐留するという実に羨ましい存在に見えてくる。
今その沖縄には、米軍のプレゼンスがもたらす抑止効果を弱体化させようとする声がある。しかし、これを台湾から見れば、せっかくの抑止効果を自ら弱値化させることは自殺行為にすら思える。更には、日本本土の人々も日本全体の対外抑止効果に関する責任を応分に負担せず、沖縄県民だけに負荷がかかっていることも事実だ。
▲写真 台湾軍 出典:台湾海軍ホームページ
狭い台湾には「沖縄」も「本土」もない。しかも、距離的に沖縄より圧倒的に中国大陸に近いというハンディを負っている。こうした台湾の人々が、民主主義の下で、島の将来、特にその安全保障について真剣かつ現実的な議論を繰り返し、総統を選んでいる(以下略)。・・・・・やはり、沖縄と台湾では状況が異なるのだろうか。
〇 欧州・ロシア
今週も欧州で大きなニュースはない。EU関連の定例会合は開かれるが、外交面ではウズベク大統領が訪仏するぐらいが目玉か?内政面では14日にドイツ・バイエルン州議会選挙とルクセンブルク議会総選挙がある。個人的には、民族主義的・大衆迎合的反エリート運動がどれだけ票を伸ばすかに関心がある。
〇 中東・アフリカ
サウジアラビアの政府批判で有名なジャーナリストがイスタンブールのサウジ総領事館内で行方不明になったとの第一報が入った。未確認情報では総領事館内で殺害されたというが、本当なのか。事実であれば、サウジにとって大チョンボである。こんなミステリー映画のような話が最近増えているのは不気味ですらある。
〇 東アジア・大洋州
ミステリーといえば、中国では元インターポール総裁が収賄の疑いで国家監察委員会から取り調べを受けているそうだ。先週も有名女優が行方不明になるなど、この種の事件が続いている。さすがは中国だ、贈収賄については完全に民主主義で、誰もが平等にその容疑から逃れることはできないようだ。
▲写真 中国当局に拘束された孟宏偉・国際刑事警察機構(ICPO)総裁(10月7日に辞任)出典:Wikimedia
中国の外相が訪中した米国務長官に、「米国は間違った言動を正せ」と迫ったらしい。もうここまで来ると、米中関係も外交的手段では修復不能になりつつあるのかもしれない。それにしても、ポンペイオ長官が北朝鮮でトップに会えて、中国で習近平国家主席に会えないというのも、実に面白い現象である。
▲写真 ポンペイオ米国務長官と中国・王毅外相(2018年10月8日 北京)出典:米国務省flickr
〇 南北アメリカ
学生時代のスキャンダルの噂が流れた最高裁判事候補がようやく議会承認された。これで中間選挙は「女性差別問題」が大きな争点になるだろう。それにしても、日本でこの点が十分詳しく報じられないのは何故だろう。単なる偶然か、それとも、日本は米国以下ということか。そうは信じたくないのだが。
▲写真 米連邦最高裁判事に就任したブレット・カバノー氏(左の男性)とトランプ米大統領(右)(2018年7月10日)出典:The White House twitter
〇 インド亜大陸
特記事項なし、今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ画像:米軍普天間飛行場の米海兵隊(沖縄・宜野湾市)出典 U.S. Pacific Flee (U.S. Marine Corps photo by Cpl. Justin Wheeler
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。