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.国際  投稿日:2018/10/5

米判事候補スキャンダルの大騒ぎ


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018 #40」

2018年10月1-7日

【まとめ】

・「人々を傷つけることがスポーツである町」ワシントンは相変わらず。

・米最高裁判事候補の性的暴行疑惑に対し日米で異なる問題意識。

・トランプ政権の優先順位イラン一番、中国二番、北朝鮮は低い?

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42331でお読みください。】

 

先々週は3泊5日の強行軍で米国の三都市を回ったが、先週は久し振りで台北に行ってきた。台湾のシンクタンクと関係省庁が共催した「アジア太平洋シンクタンク・サミット会合」なるものにお声が掛かったのだ。欧州を含む18カ国・地域のシンクタンクの代表が集まった。台北は久し振りだが、自由な民主主義は健在だった。

会議と食事は朝から夜まで続いたが、深夜になってもついCNNを見てしまう。最高裁判事の指名を受けたブレット・カバノー(Brett Kavanaugh)氏に学生時代の性的暴行疑惑が持ち上がり、同判事とその告発者である女性大学教授の二人が上院司法委員会の公聴会で宣誓証言したのだ。米国のリベラル・中道メディアにとっては絶好のネタである。

この泥仕合をどう見るべきかについては、米国人の間でも、老若男女で意見は大きく異なる。筆者が最も注目したことは、ワシントンが相変わらず弱肉強食の「政治闘争」の町であること。1993年にホワイトハウスの法律顧問が、ワシントンは「人々を傷付けることがスポーツである町」と書いて自殺した事件を思い出した。

この点については今週のJapan Timesのコラムに詳しく書いたので、ここでは繰り返さない。簡単に言えば、日本ではこのスキャンダルが中間選挙やトランプ政権の行方を如何に左右するかに関心があるのに対し、米国では女性差別が今も続き、米国政治が男性優位であり続けるとの問題意識の方が注目されているのだ。

17歳の時の暴行未遂らしきものを「若気の至り」と見るか、「重大な女性差別」と捉えるかで結論は大きく異なるだろう。議論は重要だと思うが、その陰で傷付くのは何の罪もない家族である。日本にもこの種のスキャンダルはあるが、#MeToo運動については米国の方に一日の長があるように思う。日本はまだ男性中心社会だと思う。

 

〇 欧州・ロシア

欧州では大きなニュースがない。2日にセルビア大統領が訪露し、プーチン大統領と会う。最近、民族対立が続くセルビアとコソボの間で、互いに関係が深い少数派民族が集まる地域を譲る「領土交換」案が浮上しているそうだ。しかし、そんなことをやっても、いずれ新たな不安定要因となることは目に見えている。欧州不安定の根は深い。

 

〇 中東・アフリカ

イラクの元ミス・バグダッドの女性が殺害された。こうしたリベラルな女性がイラクに出てくるとは思わなかったが、やはりイラク社会の保守性は想像以上だ。こうしたニュースを見ていると、本当にやり切れなくなる。イラク戦争でフセイン政権を打倒して民主主義を導入したことは間違いだったのか。そうは思いたくないのだが・・・。

▲写真 殺害されたタラ・ファレスさん(22)。元ミス・バグダッド。モデルやインスタグラマーとして人気があった。出典:Tara Fares facebook

 

〇 東アジア・大洋州

中国は1日から国慶節、日本では2日に内閣改造だ。米国務長官は先週北朝鮮外相と会談し、10月にも訪朝すると発表された。トランプ氏の米朝首脳会談「前のめり」姿勢は変わらない。先週の国連での動きを見ていると、トランプ政権の優先順位はイランが一番で、中国が二番、北朝鮮問題解決のプライオリティは低いのではないか

 

〇 南北アメリカ

今週は冒頭書いた最高裁判事候補のスキャンダルで大騒ぎが続くだろう。FBIの調査はどこまで進むのか。それにしても、米国政治がこれほど劣化しても、あの国は何とかなっているから不思議だ。一時絶望視されたNAFTAも結局カナダが参加して三国間合意に戻った。All politics is localというが、米国内政の現状は正にそれだ

▲写真 米最高裁判事候補・ブレット・カバノー氏 出典:United States Court of Appeals District of Columbia Circuit

 

〇 インド亜大陸

4日からロシア大統領が訪印する。現在インドは米国との関係を急速に深める中、その兵器はロシアに全面的に依存し続けるというジレンマを抱えている。プーチン大統領は米印間に楔を打つチャンスと考えているだろう。その結果には大いに関心がある。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ画像:性的暴行疑惑の渦中にある米最高裁判事候補ブレット・カバノー氏 出典 flickr


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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