候補者討論会ファクトチェックその3 “辺野古にオスプレイ100機配備”は事実か?
楊井人文(FIJ事務局長・日本報道検証機構代表・弁護士)
【まとめ】
・玉城氏 “オスプレイ100機配備は元防衛相の著書からも明らか”→一部誤り
・玉城氏 “沖縄防衛局の地盤調査で想定外のマヨネーズ状の地盤を発見”→正確
・玉城氏 “アメリカの在外基地が前年比70削減された”→ほぼ正確
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9月11日に行われた沖縄県知事選(30日投開票)の立候補予定者討論会のファクトチェック。最終回では、沖縄の米軍基地問題、特に普天間飛行場の辺野古への移設をめぐる発言について検証する。
だが、政府与党の自民・公明などが支援する佐喜真淳・前宜野湾市長は、辺野古への移設の是非について明確な態度を示していない。玉城デニー・前衆議院議員は、辺野古への移設反対を掲げ、政府と対立した翁長県政の立場を継ぐと表明。討論会でもこの問題を積極的に取り上げていた。
今回は、玉城候補の主張のうち事実について述べた部分が正確だったかどうか、検証した。なお、佐喜真候補は辺野古移設について検証できる事実言明がなかった(参照:討論会ファクトチェック・その2)。
【検証対象⑥】
言説の内容
(玉城氏)辺野古の新基地建設については、普天間にはない、弾薬搭載エリアであるとか、あるいは強襲揚陸艦が接岸できる護岸であるとか、明らかに機能強化であることは間違いありません。しかも一本の滑走路は二本に増え、オスプレイを将来100機そこに配備することは元防衛大臣の著書の中でも明らかなんですね。
事実・証拠
(1) まず、普天間飛行場にはないとされる「弾薬搭載エリア」についてはどうか。辺野古に建設される施設に「弾薬搭載エリア」(1万6000平方メートル)が設けられることは、沖縄防衛局が沖縄県に提出している「事後調査報告書」(平成28年度)の図面から確認できる。
▲図 「平成28年度普天間飛行場代替施設建設事業 事後調査報告書」2-4、沖縄防衛局HPより
(2) 次に、「強襲揚陸艦が接岸できる護岸」はどうか。上記図面には「護岸(係船機能付)」との記載がある。日本共産党の赤嶺政賢議員は、強襲揚陸艦が接岸に必要な長さ(269.4メートル)を超えている点を指摘して追及したことがあるが(同議員HP)、政府は、この長さでは強襲揚陸艦は接岸できないと答弁している。
「仮に長さ二百六十メートルの強襲揚陸艦を運用する場合、現在計画中の護岸の総延長約二百七十メートル全てに係船機能があるとしても、長さは不十分であります。当該岸壁は、強襲揚陸艦の運用を前提とした設計とはなっておりません。」(原田憲治防衛大臣政務官、2015年3月10日衆議院予算委員会第三分科会)
先ほどの事後調査報告書にも「護岸の一部(約200メートル)を船舶が接岸できる構造(係船機能付き)として整備しますが、恒常的に兵員や物資の積み卸しを機能とするようないわゆる軍港を建設することは考えていません」と明記されている。本当に係船機能付き護岸の長さが200メートルだと、赤嶺議員が指摘した強襲揚陸艦が接岸できる長さ(269.4メートル)を満たさない。
普天間にない、船舶が接岸可能な「護岸」が設けられることは事実だが、それが「強襲揚陸艦が接岸できる護岸」であるとは、現時点で断定できない。
(3) 普天間飛行場は滑走路一本だが、辺野古では二本のV字型滑走路になることは公知の事実である(「事後調査報告書」にも明記。ただし、滑走路の長さは短くなる)。だが、「オスプレイを将来100機配備することは元防衛大臣の著書の中でも明らか」という指摘についてはどうか。森本敏元防衛大臣の著書には、次のような記述がある。
「普天間基地の代替施設には、有事の事態を想定すれば100機程度のオスプレイを収容できる面積がなければならず、滑走路の長さだけで代替施設を決めるわけにはいかないのである。」(『普天間の謎 基地返還問題迷走15年の総て』海竜社、2010年7月、p.79)
この記述を見る限り、「普天間の代替施設には有事に100機程度のオスプレイを収容できる面積が必要」と言っているが、森本元防衛相は「辺野古に100機のオスプレイが配備可能」とは言っていない。
日本政府は、普天間の「オスプレイの運用機能」の移転を認めており(平成29年度防衛白書)、普天間に配備されている24機のオスプレイMV-22が辺野古に移転する可能性は高いとみられる。
ただ、「事後調査報告書」によると、辺野古に作られる駐機場の面積は24万平方メートルで、MV-22だけでなく、回転翼航空機のCH-53、UH-1、AH-1、固定翼航空機のC-35、C-12も配備予定とされる。米軍事情に詳しい西恭之・静岡県立大学特任助教にオスプレイ100機の配備は可能なのか聞いたところ、「普天間でオスプレイに割り当てられている駐機場のスペースから計算すると、辺野古の代替施設の駐機場にオスプレイのみ収容しても50機程度が限度。しかも、オスプレイ以外の航空機も配備しなければならず、有事には岩国に移転した空中給油・輸送機などが駐機場を使うことも考えれば、オスプレイ100機の配備は物理的に不可能だ」とコメントした。
判定:一部誤り
辺野古の代替施設に普天間飛行場にない弾薬搭載エリアや大型船が接岸可能な護岸が設けられ、オスプレイが配備される予定も事実である。だが、現時点で「強襲揚陸艦が接岸できる護岸」が設けられるとは言い切れず、「オスプレイ100機配備されることが明らか」は事実とは言えない。
▲写真 普天間飛行場に並ぶオスプレイMV-22(FIJ・立岩陽一郎理事撮影、2018年9月21日)
【検証対象⑦】
言説の内容
(玉城氏)今回の埋立承認撤回は、沖縄県が公有水面法に基づき、適正に判断して行われたものです。例えば、一例を挙げれば、沖縄防衛局のボーリング調査で、大浦湾に埋め立て承認の時には想定されていなかった、厚さ40mにも及ぶ軟弱、超軟弱な地盤、N値ゼロの、いわゆるマヨネーズ状と呼ばれているN値ゼロの地盤があることがわかりました。
事実・証拠
沖縄県は8月31日、仲井真知事(当時)が2013年12月にした辺野古の工事承認を取り消す決定をした。その際の「公有水面埋立承認取消通知書」には、承認後に沖縄防衛局が行った地質調査で、当初想定されていなかった非常に柔らかい堆積物が見つかり、「N値0」を示す箇所も複数見つかったことが指摘されている。これが「マヨネーズ状の地盤」と呼ばれているもので(沖縄タイムス4月30日参照)、「災害防止に十分配慮」という要件を満たさないことが取消し理由の一つとなっている(沖縄県HP)。
軟弱地盤の存在が判明した「N値0」という結果が出たこと自体は、政府も認めている(3月30日衆議院内閣委員会で、玉城氏の質問に対し、辰己昌良防衛省審議官が答弁)。だが、防衛省側は「室内試験を含めましたボーリング調査全体の結果を総合的に判断して、地盤の強度等を評価した上で工事を進めていきたい」と述べ、工事の阻害要因になる可能性は認めていない。
判定:正確
辺野古の埋立て承認時に想定されていなかった軟弱地盤が見つかったことは政府も認めており、玉城氏の発言は正確と言える。
【検証言説⑧】
言説内容
(玉城)実は今日のニュースなんですが、アメリカの国防総省がこのほど公表した2017年会計年度基地構造報告書によると、アメリカの国外にある米軍基地施設数は計517、前年度に比べて70削減されていることが分かったそうです。
事実・証拠
玉城氏が指摘したのは、9月7日付沖縄タイムスの記事とみられる。次のように報じていた。
「米国防総省がこのほど公表した2017米会計年度基地構造報告書(16年9月末時点)によると、米国外にある米軍基地・施設数は計517で、前年度に比べて70削減されていることが分かった。」(沖縄タイムス2018年9月7日)
国防総省ホームページには「基地構造報告書」(Base structure report)が公開されており、2015年の587から2017年の517に70減っていることが確認された(報告書2015年版、2017年版)。ただ、2016年版報告書が公開されておらず、厳密には「前年度に比べて」ではなく「2年前に比べて70削減された」が正確である。
判定:ほぼ正確
米軍の国外の基地・施設は2年前に比べて70削減されており、玉城氏の発言はほぼ正確と言える。
トップ画像:©FIJ
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この記事を書いた人
楊井人文弁護士
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。弁護士法人ベリーベスト法律事務所所属。2012~2019年、マスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo」を運営。2018年よりNPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)理事兼事務局長として、ファクトチェックの普及活動に取り組む。2021年よりコロナ禍検証プロジェクトに取り組み、Yahoo!ニュース個人などで検証記事を発表。著書に『ファクトチェックとは何か』(共著、岩波ブックレット)。