米中対決、世界を揺さぶる~2019年を占う~【アメリカ】
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視 」
【まとめ】
・2019年の展望は、米中対決の激化。
・既存の国際秩序への中国の攻勢と、歴代政権から転じた米強硬姿勢は激化・長期化。
・日本は国際社会の民主主義勢力側(アメリカ)につくべき。
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さて今年もいよいよ来年の世界情勢を占う時期となった。Japan In-depth 編集部による「2019年を占う」という企画である。新年の展望では私の専門領域は国際情勢である。2019年の世界ではなにが起きるのか。なにが顕著な潮流なのか。この予測である。
まず昨年のこの時期、私が新しい年の国際情勢の予測としてなにを書いたか。以下に紹介しよう。
「アメリカ側の中国との対決姿勢は2018年の国際情勢でも基調となるだろう」
「この米中対決こそが2018年の世界の最大のうねりとなるだろう」
(参照記事:「『米中対決』激化へ【2018:アメリカ】」古森義久)
自画自賛のように響くだろうが、この予測は的中したといえよう。日本の新聞をみても、テレビのニュースをみても、国際ニュースでは2018年の最大の出来事はアメリカと中国の対立、対決である。
▲写真 米中首脳会談(12月1日)出典:Dan Scavano Jr. Twitter
そして新しい年の2019年についても同じ予測を述べたい。
2019年もアメリカと中国の対立が全世界を激しく揺さぶることになる。これが私の「2019年を占う」である。
もちろん国際情勢を揺るがせ、変える要因は多数ある。その多数の出来事や潮流に数量的な基準で第一、第二という順番をつけることは難しい。不毛でもある。だがそれでも大まかにみて、そしてさらに日本にどんな影響を及ぼすかという身近な基準からみても、2019年の国際情勢の流れでは、やはりアメリカと中国との激突が最大の現象になることを予測したい。
アメリカと中国との対立や衝突は一見、アメリカのトランプ政権がまず戦いを仕かけたから起きたようにもみえる。だがそれはあくまでうわべだけの外観であり、表面だけから受ける印象である。
いまの米中対立はそもそもは中国の攻勢的な言動が原因なのだ。
中国は習近平政権になって、現在の国際秩序を侵食し、打破しようとする動きを取り始めた。いや、それ以前にすでに始めていたというほうが正確だろう。習近平政権の登場によって、その意図や戦略が明確になったのだといえる。
▲写真 習近平 出典:Photo by Narendra Modi
いまの中国が目指すのは明らかに既存の国際秩序の変革である。政治、軍事、経済、さらには文化までの領域で、アメリカ主導で築かれてきた現在の国際秩序を壊し、立て直そうとする。それこそが中国の戦略目標なのである。
中国は軍事面では近年、画期的,脅威的な軍事力増強を続けてきた。その軍拡をテコに南シナ海では不法な領土拡張を続ける。不法に拡大した島々を軍事拠点とする。経済面でも国際ルールを無視する。他国企業からの高度技術の奪取、知的財産の窃取、自国企業への不公正な支援、政治面での恨みを経済手段で晴らす「強制貿易慣行」を続ける。そして国内では民主主義活動家を苛酷に弾圧する。チベットやウイグルの少数民族を抹殺に近い扱いで浄化する。自国の独裁開発方式を「一帯一路」構想などで世界に広げようとする。
中国の異端な言動は限りない。そうした言動の黙認は日本やアメリカの利益や価値観を正面から否定することに通じる。アメリカのトランプ政権はこれまでの歴代政権の姿勢を根幹から改め、中国のそうした無法で無謀な行動はもう許さないと宣言した。10月4日のマイク・ペンス副大統領の対中政策演説がその集大成だった。中国の膨張に対する新たな封じ込め政策である。
▲写真 マイク・ペンス副大統領の対中政策演説(10月4日)出典:Hudson Institute
トランプ政権の周辺では「この戦いは中国の共産党政権が倒れるまで続く」(戦略問題の重鎮エドワード・ルトワック氏)とまで明言する声がある。また「アメリカ歴代政権の『一つの中国』政策までが再検討される」(米台関係の専門家トシ・ヨシハラ氏)という見解も語られる。要するにアメリカ側の対中対決姿勢はきわめて根幹からの潮流なのである。しかもこれから長期に続くというのだ。
一方、中国側もアメリカとの正面対決を避けながらも、自国の政策の正当性を主張し続ける。習近平国家主席は世界への「中国式統治」の拡大をなおためらおうとはしない。逆にアメリカの「保護主義」や「一国主義」を非難する。アメリカへの抵抗は決してやめようとはしないようだ。
こうした構図から浮かぶ2019年の展望はアメリカと中国とのさらなる対決である。対決の激化、尖鋭化と呼んでもよい。米中の激突が日本を大きく揺さぶることは疑問の余地がない。その日本の対応について日本側の識者の一部には「米中両国間での橋渡しを」というような主張もある。だが現実には日本の拠って立つ位置はあまりに明確である。中国の無法な行動を抑えるアメリカ側、つまり国際社会の民主主義勢力側につく以外には日本の繁栄や生存の道はないのである。
トップ写真:G20サミット(2018)出典:首相官邸Facebook
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。