.国際  投稿日:2018/12/22

北朝鮮経済、危機的状況に


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

絶糧世帯増加、高まる北朝鮮経済の危機。

・農民への食料も足りず、米価は1カ月で17%上昇。

GDPは、2017年は前年比3.5%減少、2018年はさらに減速へ。

 

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2018年の北朝鮮の経済は、その構造的脆弱性が国連安保理及び米国の制裁と重なり、一層深刻な状況を余儀なくされた。最近北朝鮮を訪問した在日朝鮮人は、「北朝鮮はいま第2の苦難の行軍」に入ったと異口同音に語っている。アジアプレスも7月、北朝鮮内部協力者からの報告をもとに、「ついに一部農村で飢餓発生、絶糧世帯増加で慌てる当局」との報道を行った。絶糧世帯とはお金も食べ物もまったくなくなった家庭のことである。

 

■ 市場は活気を失い農村は危機を深めている

中国の統計によると、北朝鮮からの1~10月の輸入額は前年同期と比べて89%も激減した。米朝首脳会談直後は「もうすぐ制裁は解除され貿易や合弁事業が活性化する」との期待を膨らましていた北朝鮮の経済関係幹部たちはいま意気消沈している。

「金正恩経済」をけん引してきた「市場」は、輸出入の減少で活気を失っている。需要の低迷でガソリン価格は一時下落したが、このところの供給不足で再び上昇に転じ始めている。内部からの情報によると、平壌市内のガソリン価格は、一時ℓ当1.5ドル(約185円)まで下落していたが、11月上旬には当1.9ドル(約234円)まで上昇した。

食糧危機も深刻化している。北朝鮮では7月に入って一部地域では気温が40度を超すなど記録的猛暑が続き、コメやトウモロコシといった農作物に大きな被害が出た。特に一般大衆の主食であるトウモロコシは、発育が悪く収穫量が前年比10%も減少した。韓国の農村振興庁は12月18日、北朝鮮の今年の穀物生産量が455万トンと昨年よりも3.4%減少したと発表したが、これで2年連続の減少となった。国連食糧農業機関(FAO)は、食糧不足量が約64万トンに達すると推算しており、ほとんどの北朝鮮の家庭が食糧不足に陥ると診断した。

▲写真 板門店から開城に行く途中の農村 出典:Frickr; Comrade Anatolii

 

■ 収穫された穀物の移動も禁止された

自由アジア放送によると、北朝鮮は9月に人民保安省(日本の警察庁に相当)名義の布告を出し、協同農場はもちろん一般の道路に設置された検問所などでも食料の持ち出しに対する取り締まりを強化しているという。布告では「農場の田畑に侵入し窃盗を行った者には法律で厳正に対処するのはもちろん、悪質な場合は死刑に処する」と警告しているという。

自由アジア放送の咸鏡北道消息筋は12月10日、「国営農場が一年間農作業を総括(決算)したが、農場員個人への分配があまりにも少なかった」とし「今年も軍用米をはじめとする国家計画分をあまりにも多く徴収したために農民に分けて与える食料が足りなくて農場ごとに頭を悩ませている」と伝えた。国連食糧農業機関(FAOが公表した報告書によると、コメの価格は8月から月にかけて17%ほど上昇したとのことだ。

そうしたことから、9月初めに黄海南道載寧の合同農場では、現場の責任者が自殺したという。当局は食料生産の40%を軍に供給するよう命じたが、この責任者は命令に不満を抱いて自殺したようだ(朝鮮日報日本語版 2018/10/01)。

 

■ 平壌では不動産価格が暴落し新築アパートも雨漏り

こうした農村での悲惨な状況が伝えられる一方で、都市では一時暴騰したアパート価格(所有権ではなく使用権)が暴落し始めている。そればかりか、金正恩委員長が自慢した黎明通りなどの新しいアパート群もいま雨漏りに悩まされ防水作業に必死だという。そのために中国にブルーシートの注文が殺到している。金正恩委員長の「制裁は効いていない」とする「見せるための政策」はボロを出し始めたようだ。

▲写真 黎明通り 出典:Wikipedia

韓国銀行(中央銀行)が7月20日に発表した推定統計によると、北朝鮮の2017年実質国内総生産(GDP)は、干ばつや経済制裁の影響で前年比3.5%も減少したとされ、20年ぶりの低水準となったとしているが、2018年度の落ち込みはそれ以上になると予想されている。

北朝鮮はいま対外宣伝サイトで「自力更生が徹底している北朝鮮への制裁は無駄だ」と強調し、「時間は米国の愚かさを悟らせるだろう」と主張しているが、実態を覆い隠し経済危機を住民の犠牲で乗り切ろうとする思惑の表れと見られる。

金正恩委員長は今年4月の朝鮮労働党中央委員会で、核兵器が完成したので経済に集中すると宣言し、昨年に比べ経済部門の視察を59.2%も増やしたが、その結果は見るも無残な状態だ。このまま「非核化」に乗り出さず米国とのこう着状態が続けば、2019年の北朝鮮経済は一層深刻な事態となるに違いない。

トップ写真:万寿台:金日成像と金正日像 出典:Wikimedia Commons


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)など。

朴斗鎮

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