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.経済  投稿日:2018/12/29

ポイント還元策増税ショックを拡大 ~2019年を占う~【日本経済】


小黒一正(法政大学教授)

 

【まとめ】

・政府のポイント還元策は増税ショックを増幅するリスクあり。

・19年10月以降、ポイント還元幅を2か月毎に縮小し10か月でゼロにしてはどうか。

・景気拡張期が2020年まで続く可能性は低い。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43426でお読みください。】

 

 政府は2018年12月21日に閣議決定を行い、国の2019年度予算案(一般会計・当初予算)を決定した。2019年度の当初予算案の歳出総額は101.5兆円となり、過去最大であった2018年度の約97.7兆円(当初予算)を約4兆円も上回った。

 

 当初予算のみでなく、例年、政府は補正予算を組むケースが多い。2018年度予算は補正予算を2回編成し、それを織り込んだ2018年度の歳出総額は約101.4兆円であった。歴史的にこの額が過去最大であったが、2019年度予算案は当初予算で既にそれを上回る規模となった。2019年度は参議院選挙もあり、追加で補正予算を編成すれば、さらに歳出総額は過去最高を更新するはずだ。

トップ写真)日本円
出典)photoAC; tom200

 

 当初予算で歳出総額が4兆円も膨らんだ主な理由は、増税対策などである。対策には様々な項目があるが、このコラムでは、増税対策の一つである「キャッシュレス決済でのポイント還元」について簡単に考察してみよう。

 

 当初、政府は、次のような方向性でポイント還元策の検討を進めていた。具体的には、

 

1)大企業以外の小売店で現金を使わないキャッシュレス決済をした場合、1年間という期限付きで、増税分(2%分)をポイントとして還元する。

2)ポイント還元の対象としては、クレジットやデビットカードのほか、電子マネーやQRコードでの決済も含める

 

というものだ。

写真)キャッシュレス決済(イメージ)
出典)Wikimedia Commons

 

ポイント還元策はキャッシュレス決済を促進させる起爆剤となる可能性があり、筆者もその政策的意義は理解しているつもりだが、2018年11月下旬、安倍首相がキャッシュレス決済で5%のポイント還元の検討を表明したことから、状況が一変した。

 

ポイント還元の期間は、「1年」から「増税から2020年夏の東京オリンピック前の9か月」に短縮しているが、これは増税ショックを増幅するリスクがある。その理由は以下のとおりだ。

 

まず、キャッシュレス決済の対象につき、ポイント還元をする前の消費税率は、2019年10月以前は8%、2019年10月以降は10%であった。また、当初のプランは、2019年10月から1年間という期限で、増税分(2%)のポイント還元を行うというもので、消費税率は、2020年10月以前は8%、2020年10月以降は10%になる

 

他方、最新のプランは、2019年10月から2020年夏の東京オリンピック前の9か月間という期限で、5%のポイント還元を行うというもので、消費税率は2019年10月以前は8%、2019年10月から2020年夏までの9か月間は5%、2020年夏以降は10%になる。

写真)安倍首相
出典)Frickr; Chairman of the Joint Chiefs of Staff

 

以上から、当初のプランは、キャッシュレス決済につき、増税(消費税率8%→10%)の時期を2019年10月から2020年10月に延期する政策と理論的に同等だ。

 

また、最新のプランは、2019年10月から2020年夏までの9か月間、一時的に減税(消費税率8%→5%)を行い、2020年夏から増税(消費税率5%→10%)を行う政策と理論的に同等である。

 

 すなわち、ポイント還元前や当初のプランの増税幅は2%だが、最新のプランでは、一時的な減税によって増税幅が2%から5%に上昇しており、増税の反動減を増幅するリスクがある。日本経済では、過去に5%も消費税率を引き上げた経験はない。

 

これでは、増税の反動減対策が切れたときのために、その反動減対策が必要になるという本末転倒なものに陥る可能性が高く、ポイント還元の幅を見直す必要があろう。例えば、2019年10月以降、ポイント還元の幅(5%)を2か月毎に1%ずつ縮小し、10か月間でゼロにする政策に変更してはどうか現状のプランでは、2020年夏の経済的ショックが大きい可能性がある。

 

 なお、政府はいまの景気拡大期間が2018年12月で73か月になり、2002年2月から2008年2月という戦後最長の「いざなみ景気」に並び、それを上回る可能性が高いとしており、景気循環との関係でも2019年後半以降は慎重な経済運営が望まれる。

 

というのは、内閣府は、景気動向指数研究会」(座長:吉川洋・元東大教授)の議論を踏まえて景気循環の判定をしているが、2009年3月からスタートした第15循環の景気の山を2012年3月、谷を2012年11月に確定し、その資料を2015年7月24日に公表している。

 

これは現在の景気回復が安倍政権発足直前の2012年11月からスタートしたことを意味するが、この資料によると、過去の景気拡張期の平均は約3年(36.2か月)であることが読み取れる。もっとも、拡張期が6年近くに及ぶケースも過去にはあるが、それでも2018年11月であり、2020年まで拡張期が続く確率は高くない。景気は循環するということも念頭に、そろそろ家計や企業も心の準備をし、様々な対策を検討する必要があろう。


トップ写真)イメージ
出典)flickr : SnippyHolloW

 


この記事を書いた人
小黒一正法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程終了(経済学博士)。1997年 大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。鹿島平和研究所理事。専門は公共経済学。

小黒一正

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